エメラブルーの王女(3)
カリーナ姫の野望

「ここで足跡が消えている。どういうことだ?」
「さあ?」
 カリーナは不満をたっぷり顔にはりつかせ、面白くなさそうに吐き捨てた。
 そのすぐ横で、ルーディはけろりと答える。
 人々が忙しなく行き交い、活気あふれる港。
 見渡す限り、大きなものから小さなものまで、船舶が港いっぱいに停泊している。
 今やってきたばかりの船があれば、岸から離れていく船がある。
 そして、防波堤の向こうから船がやってきて、あいたそこに入れ替わりに停泊する。
 小さな国だけれど、この港だけはそうとは思わせないにぎわいがある。
 王都エメラルディアは、この国でいちばんグリーエデン島に近い港町でもある。
 この港から、ずっと向こうにかすんで見えるグリーエデン島へ船がでている。
 どうやら今日も、グリーエデン島の船がやって来たらしい。
 グリーエデンへの船はひと目見ただけでそれとわかる。
 そのつくりがひときわ豪華であるのもそうだけれど、何よりは掲げられるその旗。
 月桂樹を題材にした星と十字を合わせたような意匠が特徴の旗が、すぐそこの船ではためいている。
 船々にはそれぞれの国の特徴をあらわした旗や、商船である証の旗、客船の旗など、とりどりの旗が同じようにはたはた風に吹かれている。
 グリーエデンの船の横には、商業大国クロンウォールへ向かう商船が泊まっている。
 さすが商業大国なだけあり、グリーエデンのそれに見劣りしない。
 かと思うと、そのまた向こうには、グリーエデンをぐるりとまわったところにある第二の大陸イリオスにある芸術の国ギャガの客船が泊まっている。
 ギャガの客船もまた、グリーエデンの船に負けず劣らずの豪奢な細工がいたるところに施されている。
 恐らく、国中の芸術家たちの技術の粋を集めたのだろう。はったりのため。ギャガは、見栄とはったりが大好きな国だから。
 向こうの虹色の旗を掲げる船は、同じくイリオス大陸の富める国ホーランディカの船。
 しかし、そのような豪華な船が並ぶ中、異彩を放つのはやはりグリーエデン船。
 ただそこにあるだけで、言い知れぬ荘厳さと重圧がある。
 港に停泊する船をぐるりと見まわし、カリーナは怪訝につぶやいた。
「もしかして、船に乗ったのか? カイは船に乗って、一体どこへ……?」
 手当たり次第、出会った者にカイの足跡を聞き、カリーナはこの港までやってきた。
 たったそれだけでここまで順調にやって来られたのは、カイが城下ではそれなりに有名だからか、それともひとえにカリーナの迫力のたまものか……。
 いや、いちばんは、うまい具合に巡回する王都守備官ばかりをとっ捕まえていたからだろう。
 それなりの階級の守備官でカイを知らない者は、滅多にいない。
 あの暴れ馬姫の貴重な護衛官というのだから、城に出入りしている者なら、一度や二度は目にしたことがあるだろう。
 手当たり次第に見えて、その辺りはちゃっかりしている。
 うんうんうなり考え出したカリーナの横で、ルーディは頭上を飛ぶかもめを眺めながらさらりとつぶやく。
「船に乗った方が手っ取り早い地域に、カイの国があるのではないですか?」
「船に乗った方が……? たしか、この港からは、海を渡った向こうグリーエデン島、そして沿岸の国の港に、向こうの大陸の国……って、ありすぎてわからんわっ!!」
 いかにも面倒くさくて適当にはかれたとわかるルーディの言葉に、カリーナは意外にも興味を示した。が、すぐに考えることを放棄する。
 たしかに、世界中から船が集まってくるので、考えたところで答えなどでない。
 しかし、人は集まるが、比例して物も集まるわけではない。
 人も物も豊富に集まるのは、やはりクロンウォールだろう。
 今のカリーナには、ルーディの胡散臭いつぶやきですら聞き流すことができない程度に、やっぱり余裕がない。
 ここまでカイの足跡をたどれたのだから、何がなんでもカイを見つけ出さねば気がすまないと、半ば意地になってもいる。
 別に放っておいても、休暇が終わればカイは帰ってくるのだから無理に探す必要はない。
 同時に、カイを理由に、窮屈な城を出て城下を歩きまわる口実にしているようでもある。
 カリーナにとっては、城もたいして窮屈ではないような気がするけれど。普段から、したい放題しているから。
「エメラルディアは、世界の港の核のようなものですからねえ。グリーエデン島へ直接渡れる唯一の港で、渡ろうとする者はひとまず世界中からこの港にやってきますからね」
「そんなわかりきった説明はいらんっ」
 ルーディの言葉に興味は示したものの、ルーディの言葉より先に世界中へ船が出ていることに気づいており、カリーナはいらだたしげにはき捨てる。
 たしかに、首都の港なだけあり、ここからは世界中へ航路がつづいている。
 陸路を行った方が早い国でも、大量の荷を運ぶために不定期に船がでてもいる。
 そう考えると、内陸部の国以外、まさしく世界中すべてにこの港はつづいている。
 それで、どうして行き先を絞れるというのだろう。星の数を数えるよりは簡単だけれど、それでも行き先を判断するのは難しい。
 それをわかっていて、ルーディはやる気なく適当に答えたのだろう。
 カリーナがむりやり引っ張ってきたことはたしかだけれど、それにしたって、姫に対してこのぞんざいな振る舞いは何たることだろう。やる気のなさは何なのだろう。
 まあ、だからといって、カリーナも今さら怒る気にはなれないけれど。
 だって、相手はあのルーディ。はなからまともに相手にする気はない。
 護衛官連れでないと城から堂々と出られないので、とりあえずつれてきたにすぎない。


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update:11/05/28