君は輝ける星(7)
カリーナ姫の野望

 気分直しに街に下りてきたカリーナは、護衛官二人を引き連れて、王都エメラルディアの中央通りを闊歩している。
 中央通りは大通りと並び主要な通りのひとつということもあり、両脇には大小さまざまな商店が軒を連ねている。
 護衛官長のお説教に続き、ヴァレリアのある意味問題発言のために、昼下がりからは随分時間が経ってしまっている。
 降り注ぐ陽光にかまうことなく、カリーナが我が物顔で中央通りを歩いている時だった。
 ふいに、今では大分耳になじんだ少し高い少年の声がカリーナを呼び止めた。
「あ、カリーナ姉ちゃん!」
 ふと声がした方を見ると、予想通りカリーナがよく知る少年が、嬉しそうに目を輝かせてそこに立っていた。
「おう、ロイルか。なんだ、今日はおつかいか?」
 ちょこちょこと歩み寄る少年――ロイルに、カリーナは豪快ににかっと笑ってみせる。
 その傍らでは、カイが微笑ましそうに二人を見守っている。
 ルーディは相変わらず胡散臭い笑みを浮かべている。
「うん、貼り薬がきれちゃってさ。ちょっとそこの薬屋まで。あと、がきどもが飴を食べたいってうるさくて、どっさり買ってきた」
「そうか」
 そう言いながら、ロイルは両腕に抱える大きな紙袋を得意げにカリーナに差し出して見せる。
 少年が持つには少々大きいのか、袋の上部がこつんとロイルのあごにあたっている。
 カリーナは一度ぐりっとロイルの頭をなでる。
 するとロイルはほわっと頬をゆるませ、少し照れたようにえへへと笑ってみせる。
 その時だった。
 前方からばたばたと騒がしい足音をさせる男たちが駆けてきた。
 カイがカリーナをその男たちから守るように、さっと胸に抱き寄せる。
 同時に、カリーナたちのすぐ横を男たち――王都守備官の制服に身を包んだ男たちが、中央通りを南へ向かって駆けていく。
 その様子を、カリーナもロイルもぽかんと見送る。
「何だ? 今日はやけに騒がしいな」
 カイの腕の中でカリーナが首をかしげ、ぽつりつぶやく。
 すると、ロイルが得心したようにうなずいた。
「ああ、あれだろ?」
 ロイルがそう口にしたと同時に、カイははっとしたように慌ててその口をふさごうとする。
 勢いあまり、ぽいっとカリーナを放る。
 けれど、カリーナを解き放ったにもかかわらず、わずかの差でそれは間に合わなかった。
「例の盗賊だろ? 大店ばかりが狙われているらしいな。大変だよなあ」
 何でもないというように、ロイルがけろりとある意味問題発言をもたらす。
 ロイルへと伸ばしたカイの腕が、ぴきりとかたまる。
 それから、カイが様子をうかがうように恐る恐るカリーナへ視線を向ける。
 するとそこには、とってもさわやかににっこり微笑むカリーナがいた。
 けれど、その目はまったく笑っていない。
「……カイ、ルーディ、お前たち、また黙っていたな」
 地を這うような低い声が、静かにもたらされる。
 カイは顔を真っ青にしてあわあわ慌て、ルーディはどこか楽しげに口の端を上げていた。
 こつりと靴を鳴らし、カリーナの足が一歩カイへ近づく。
 瞬間、びくんと大袈裟なほどにカイの体が揺れる。
 じわりじわりカイへ迫るカリーナをよそに、ロイルはまるでいい仕事をしたとでもいうようににっかり笑う。
「それじゃあ、おいらはもう行くな。カリーナ姉ちゃん、まったなー!」
 そして、まったく空気が読めていないのか、ロイルは元気よくそう言って、西へと続く通りへ走っていく。
 カリーナは視線をまっすぐカイに向けたまま、右手を少しあげそれにこたえる。
 耐え切れず、カイがすっとカリーナから視線をそらす。
 それを見逃さず、カリーナはカイの胸へすっと手をのばした。
 もちろん、その胸倉をつかみあげようと。
 その時だった。
「ああ、ま、待って、ぼく、そこのぼく……!」
 そう弱弱しく叫びながら、線の細い青年が中央通りを南の方から駆けてきた。
 彼が視線を向けている先は、今しがたロイルが走り去って行った横道へ向けられている。
 そうして、よれよれになりつつもまだ足をとめることなく、その横道へと体を向けた時だった。
 運悪く、ちょうどそこへ身形が悪い男が二人歩いてきていて、青年が勢いよくぶつかった。
 体格差のためか青年は見事に弾き飛ばされ、べちょんと尻餅をつく。
 それを好機ととった男――ごろつき二人は、気持ちが悪い笑みを浮かべると、ここぞとばかりに倒れた青年へ迫っていく。
 青年は慌てて立ち上がると、ぺこぺこと頭を下げる。
 その様子を不運にも目撃してしまったカリーナが、面倒くさそうにぼそりつぶやいた。
「はあ、やれやれ、面倒だな」
「まったくです」
 ルーディがすぐさま同意する。
 そして、その言葉通りに、カリーナはカイとルーディを引き連れて、からまれる青年へと一歩足を踏み出した。
 ――それから一分後。
 カリーナの足元には、風体が悪い男二人が見事にのびていた。
 ぐりっと転がる男の腹を踏みつけて、カリーナはするりとルーディの腰に一振りの剣を戻していく。
「うふふ、馬鹿な奴ら」
「ですね」
 常になく上品に笑うカリーナとともに、ルーディがこれまた艶やかににっこり笑う。
 その裏には間違いなくカリーナに歯向かおうとするなんて≠ニいう言葉が隠されている。
 くねりと体をねじらせルーディの腕をひき、カリーナはかわいらしくくいっと首をかしげてみせる。
 けれど、物騒なものをふりまわした後にかわいこぶりっこをしたところで、まったくかわいくない。説得力の欠片もない。
 果たして、それに気づいているのかいないのか、カリーナはなおも楽しげにころころ笑う。
 カリーナとルーディの横には、何故かぐったり疲れきったカイの姿があった。
 二人がちょっと楽しんで、間違って男二人を殺してしまわないように止めることに腐心したことが、そのやつれた様子からよーくわかる。
 そう、制裁という名の下に、この二人はそのままその場で命まで奪いかねない。半殺しは面倒とかいう理由で。
 ああ、いい汗をかいたとでも言わんばかりのカリーナに、おずおずと声がかかる。
「あ、あの、ありがとうございました。助かりました」
 ふと見ると、男二人にからまれて、カリーナの憂さ晴らしという名の悪党成敗によって結果助けられるかたちとなった青年が、感謝にうるうる瞳を潤ませ見つめていた。
 カリーナの視線が向けられたと気づくと、勢いよくぺこりと頭を下げる。
 その横では、ルーディが面倒くさそうに、男二人を縄で縛っている。
 恐らくそのまま王都守備官に引渡し、とっても楽しいお仕置きをさせるのだろう。
 守備官たちもいろいろな意味で打ち震えながら、積極的に男二人にお仕置きをするだろう。
 そう、間違って後で手を抜いたなどと王女付護衛官にばれでもしたら、どのような恐ろしいことになるか。
 自らの身を守るために、彼らは精一杯お仕置きをする。


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update:12/10/14