君は輝ける星(10)
カリーナ姫の野望

 ふんぞり返り相変わらず不遜な笑みを浮かべ、カリーナはどこか楽しそうに青年に視線を向けている。
 その視線に気づきながらも、青年はすっと視線を背後に流した。
「じい、これならば、じいも信用できるよね?」
「はい、それならば」
 青年の言葉に、男性もまた迷うことなくうなずく。
 その目からは、先ほどまであった疑心の色が拭い去られていた。
 どうやら、金のために用心棒をするでは納得しなくとも、盗賊をとっ捕まえるためにお前の店をおとりにさせろという理不尽に対しては納得し、信用すらするらしい。
 そこに少しの戸惑いをにじませつつも、その豪胆さには好感を抱く。
 カイも青年たちのやりとりを見て、ようやく納得したらしい。
 まあ、なかにはカリーナのように破天荒でいて商魂たくましい平民――商人がいても不思議ではないだろう。
 実際、カイは型破りな王族を一人どころでなく何人か知っており、かつ、すぐ身近で接しているのだから。
 もちろん、筆頭はカリーナだけれど。
 組んでいた手をゆっくりはなし、青年はとんと椅子に背をあずける。
 静かな笑みを浮かべているものの、その目は探るようにカリーナを見ている。
「ところで、あなた方は、賞金稼ぎか何かですか?」
「まあ、そのようなところだ」
「そうですか」
 相変わらずの不遜さをにじませたまま、カリーナがゆったりうなずく。
 すると青年もまた、にっこり笑ってゆったりうなずいた。
「では、利害は一致したと思ってよろしいですね?」
「ああ、かまわん」
「ありがとうございます」
 青年の問いかけに間をおかずカリーナがうなずく。
 すると、青年は吐息交じりに小さく頭を下げた。
 先ほどまでのどこか鋭い雰囲気とは違い、その肩から力を抜いたようにほわんと微笑む。
 つまりは、そこに利害が発生しないと相手を信用しないということだろう。
 いかにも商人らしい考え方だろう。
 そして、それだからこそ、ここまでの大店に成長できたのだろう。
 まあ、たしかに、利害の一致ほど信用しやすいものはない。
 そこに利害がある間は、裏切らないとわかっているのだから。
 ただし、利害がなくなれば途端に敵にまわるという危うさも同時に秘めているが、それは今は気にしなくともいいだろう。
 どうやら、これで、カリーナと青年の交渉は成立したらしい。
 一時暴走したのかとさえ思えたカリーナのそのむちゃくちゃなやり方が、功を奏したらしい。
 カリーナの背では、カイがやれやれと肩をすくめ眉尻を下げている。
 ルーディはこうなることを見越していたように、満足げに微笑を浮かべている。
 青年は交渉成立と見て取ると、椅子からすっと立ち上がった。
「申し遅れました、わたしはこの商家の次期主、エリオット・カーネギーと申します。そして、こちらが番頭のグレン・デクスターです」
 青年――エリオットが卓越しにすっと手を差し出すと、カリーナもゆったりと立ち上がり、その手に手を重ねる。
「ああ、わたしはカリーナ。そして、こっちのへたれ男がカイで、胡散臭そうな男がルーディだ」
「では、カリーナさん、よろしくお願いします」
 カリーナとエリオットは卓をはさみがっちりと手を握り合い、どこか楽しげに笑い合った。
 その時だった。
 店の受付の方から、子供の元気な声が聞こえてきた。
「すみませーん。あのー、さっき貼り薬を買ったんですが――」
 その声に聞き覚えがあるカリーナははっとして、エリオットの手を放すと、そのままぱたぱたと扉へ駆け寄る。
 そして、勢いよく扉を開け、店の表へとひょっこり顔を出した。
 すると、扉を開ける音に驚きそこへ視線を向けた、声をかけたろう少年とばっちり目が合う。
 次の瞬間、少年はぱっと目を見開き声を上げる。
「カリーナ姉ちゃん!?」
「ロイルか、また会ったな」
 予想通りの姿をそこに見て、カリーナは満足げにうなずく。
 それから、何事かと後をついてきたエリオットのために、扉を大きく開けてやる。
 エリオットもそこから顔をのぞかせロイルの姿を確認すると、ほっとしたように頬をゆるめた。
「ああ、ぼく、よかった。申し訳ないね、一枚足りなかったよね。ちょっと待ってね、すぐに……」
 わたわたと扉から出てロイルに駆け寄ろうとして、エリオットは受付に置かれた椅子に足をひっかけ、そのまま前のめりにつんのめる。
 それをすかさずカリーナを追いかけてきたカイが腕を引き助けた。
「少し落ち着け。お前、そそっかしいんだな」
 大丈夫ですか?と問いかけるカイの背から顔をのぞかせ、カリーナが呆れがちにため息をもらす。
「す、すみません」
 腕を放すカイに礼を言って、エリオットは何故かぺこぺことカリーナに頭を下げる。
 それをカリーナは困ったように見て、ぽんぽんとその肩をなぐさめるように叩いてやる。
 何やらエリオットに既視感のようなものを覚え、かまわずにいられなくなったらしい。
 そう、そのへたれっぷりは、いつも側で感じているへたれっぷりにどこか似ていて、思わずなぐさめてしまった。
 過ぎるほどの恐縮をする辺りが、本当にどこかの忠犬を感じさせてならない。
 まあ、どこかの忠犬は最近、やけに偉そうになりつつあるけれど。カリーナとしては、そこがとっても面白くないけれど。
 カリーナとエリオットのやり取りを受付越しに見て、ロイルがどこか感心したように目をぱちぱちしばたたかせる。
「へー、なんかそうしていると、恋人同士みたいに見えるな。姉ちゃんでも、ちゃんと女に見える」
「何だと?」
 なぐさめていたはずのエリオットをどんと突き飛ばし、カリーナは受付越しにロイルの胸倉をつかもうと手をのばす。
 けれど、カリーナの手が到達する前に、何故かごいんという音とともにロイルの頭は沈んでいた。
「ふざけたことを言うものではありません!」
 見れば、カリーナの肩を抱き寄せ、目くじらを立てるカイがいた。
 カリーナの肩に触れていないもう一方の手が、しっかりぐーのかたちで握り締められている。
「いってーなっ。なんで兄ちゃんが殴るんだよ!?」
「うるさい、黙りなさい」
 両手で頭をおさえながら、ロイルが恨めしそうにカイを見上げる。
 けれど、カイはちらりとすらロイルに視線をくれることなく、凍えるほど冷たい声ではき捨てた。
 どうやらロイルは、カリーナに殴られることは覚悟して、あのようなことを言ったらしい。
 そう、ちゃんと女に見える≠ニ。
 相変わらずの口の悪さだけれど、そこにはカリーナにかまってほしいという気配がちらちら見受けられるので、そういう趣味があるのかと疑うと同時に、どこか微笑ましさもある。
 どのようなことでもいいので、大好きな姉ちゃん≠フ気を引きたいのだろう。ロイルのカリーナを見る目が、きらきら輝いている。
 しかし、カイが反応したところは、もちろんそこではない。
 後者ではなく、前者。
 カリーナはカイの腕の中で、何故カイが怒るのだろうと、ちんぷんかんぷんと首をかしげている。
 普段のカイなら、たとえカリーナが暴言をはかれようとも、よほどのことがない限り静かに見守っているはずだから。


* BACK * NEXT *
* TOP * HOME *
update:12/11/07