君は輝ける星(16)
カリーナ姫の野望

 日暮れ前、カリーナたち三人はカーネギー薬店を後にし、王城へ戻ってきた。
 用心棒からおとり捜査へと変更してからは、あえてカーネギーにとどまる必要もない。
 店に押し入られるという恐れがないとは言い切れないが、それはカーネギーが雇う護衛たちでどうにかするということだった。
 何より、すでに例の噂を街中にばらまいているので、あえて危険を冒して強盗に入ったりはしないだろう。
 もうすぐやって来るという荷を待ち受け、城下からはずれた街道で襲った方がよほど効率的で安全だろう。
 また、こっそりと、王都守備隊第五部隊に脅しという名のお願いをして、それとなく巡回途中などに気にかけるようにさせている。
 王城の通用門をくぐると、そこに待ち構えたように一人の青年が立っていた。
 カリーナをじゃれつかせるカイに、まっすぐ歩み寄ってくる。
 その姿を目に入れてしまい、カイは思わず何も見ていませんとさっと目をそらす。
 けれど、それくらいでひく相手ではない。
「カイ、少しつき合いなさい」
 青年はかつんと靴音を立てカイの前で歩みをとめると、右手の親指を立て、くいっと後方を示す。
 瞬間、カイの顔が遠慮なく嫌そうにゆがむ。
「エイパス王子……。嫌です」
 気にしないのはカイも同じだったらしい。相手が王子であるにもかかわらず、さらっとはき捨てる。
 そして、じゃれつくカリーナを回収するように、その腕の中に抱き込む。
 それはまるで、エイパスにカリーナをとられてなるものかといっているよう。
 けれどやはり、その程度で動じないのがエイパス。
「つべこべ言わず来い」
 エイパスはカイからカリーナをべりっと引き離すと、楽しげに様子を見守っていたルーディへぽいっと放り投げる。
 何か文句を言っているカリーナを無視して、エイパスはカイの襟首をつかむとそのままずるずる引っ張りはじめる。
「ああもう、どうしてここの兄妹は、こんなに強引なんですか!」
「王家の血だ」
「うーわー、もう最悪」
 嘆くカイにエイパスがさらっと言い放つ。
 その後を、ルーディを引っ張りながら、カリーナが慌ててついていく。
「兄様、カイをどうする気だ?」
 ぐりんと上体をまわりこませ、カリーナが首をかしげながらエイパスを見上げる。
 すると、エイパスはカリーナのその仕草にさっと口元を片手でおさえ、ぐらりとよろめいた。
 おさえた手の内では、「かわいい。かわいすぎる」と遠慮なく音にならない声を唇が垂れ流す。
 けれどすぐに体勢を立て直し、どこか気取ったようにカリーナににっこり笑ってみせる。
「どうもしないよ、カリーナ。最近少しなまっていてね、鍛錬につき合ってもらうだけだよ」
 そして、口元にあてていた手で、ぐりぐりとカリーナの頭をなでる。
 かわいい妹にめろめろになりつつも、カイの襟首をつかむ手だけはゆるむことはない。
 エイパスの手の中では、すでに諦めてしまったのか、カイがぐったりとしている。
 その目がうつろに揺れ、どこか遠い――この世ではないところを見つめている。
「ああ、そうか。この城の奴らでは兄様の相手にならないからなあ。まあ、その中でもカイとルーディはましな方だしな」
 カリーナはぽんと手を打ち、納得したようにうなずく。
「だからといって、ルーディを選択するほど馬鹿ではないからねえ」
「ルーディは間違いなく、汚い手で仕掛けるからな」
 カリーナたち三人から一歩遅れてのんびりついてくるルーディをちらりと見る。
 目が合うと、ルーディがにっこり笑って言葉なく肯定する。
 そこは是非とも否定してもらいところだろう。
 騎士道はどこへいった、騎士道は。
「いい、許す、カイ。兄様につき合ってやれ」
 カリーナがひきずられるカイの背をばしんと叩く。
 ついにカリーナまで楽しみはじめてしまい、カイはさらにぐったり肩を落とす。
 こうなってしまっては、もはやカイには抗う余地すらない。
 抗えば、余計に面倒なことになると知っているから。
 すねたカリーナは、本当に手に負えない。カイをいびるエイパスよりもたちが悪い。
「姫は本当、エイパス王子に弱いですよね」
「いや、久しぶりにカイが剣を振るうところを見たいだけだ」
「……え?」
 ふいのカリーナの素直な言葉に、カイは思わず思考をとめてしまう。
 まじまじと探るようにカリーナを見る。
 そして、カリーナの言葉をゆっくり租借し理解すると、一気にその顔を真っ赤に燃え上がらせた。
 カリーナに求められている、おねだりされている、それがカイをこの上なく喜ばせる。
「はーい、そこ、照れていないでさっさと用意する」
 エイパスがカイをつかむ手を乱暴に揺さぶると、それまでのカイの幸せ気分が一気に霧散した。
 同時に、とてつもなく面倒な現実をつきつけられる。
「ルーディ、お前は審判役だ。来い」
 振り返ることなくまっすぐすたすた歩きながら、エイパスが言い放つ。
 それを受け、ルーディは多少面倒くさそうに間延びした返事をした。
 西の山にかかろうとする大きな太陽を背に、カリーナたちは、エイパスに連れられ王城の奥へ歩いていく。
 これから日が暮れようとしている。けれど、辺りが完全に闇に包まれるまでの間に決着をつける自信があるのだろう。
 いや、たとえ夜になろうと、エイパスのことだから、篝火を焚かせ、鍛錬という名のカイいびりを続けるのだろうけれど。
 とりあえず、かわいい妹にでれでれのカイが、お兄様としてはとっても面白くないらしい。
 いや、純粋に、カイいびりが楽しいというのも大いにあるかもしれない。


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update:12/12/12