君は輝ける星(27)
カリーナ姫の野望

「あれでは、カリーナももどかしくて仕方がないだろうなあ」
「まあ、姫も似たようなものですが」
 相変わらず追いかけっこに一生懸命な窓の外の二人に視線を流し、エイパスがしみじみつぶやく。
 すると、ルーディは心得たようにうなずいた。
 いい加減、どちらでもいいので、さっさと一歩踏み出せといったところだろう。
 誰が見てもそうなので、王宮のあちらこちらでは、じれったそうにしている輩が多いこと多いこと。
 まあ、その大半が、さっさと暴れ馬王女の手綱を握って、王宮にわずかでもいいので平和をもたらしてくれといったところだろうけれど。
 エイパスは顔を窓の外を向けながら、視線だけでちらりとルーディを見る。
「やはりか」
「やはりです」
「なんだ、つまらんな」
「まったくです」
 ため息まじりにゆるゆる首を振るエイパスに、ルーディもまた呆れがちに大きくうなずいた。
 エイパスは再び椅子に背を預けると、もう一度ため息をひとつ落とした。
「まあ、カリーナはともかく、カイは駄目だろうな、やはり」
 ため息まじりのその言葉に、ルーディは微苦笑を浮かべる。
 軽口を叩きながらも、エイパスが心の底で真に抱く思いを汲み取ったのだろう。
 そしてそれはまた、ルーディの思いにも通じるものがある。
 二人が真に望むものは、あの乱暴で横暴なたちが悪い姫君の幸せなのだから。
「そうですね。護衛官が仕える王族に手を出したら……というあの掟もありますしね」
「まだ死にたくはないだろうからなあ、さすがに」
 得心したようにルーディが告げると、エイパスも緩慢な動きでうなずく。
 誰もそれが執行されるとは露にも思っていないが、とりあえず建前は建前として存在している。
 恐らく、実際に二人がそうなったとしても、祝福されることはあっても、護衛官が罪人として裁かれることはないだろう。
 ……いや、まかり間違ってそのような事態に陥ったとしても、エイパスもルーディも裏から手をまわしそれを回避する。
 その際、カリーナからカイを一時的に引き離してしまうことになるかもしれないが、それこそカリーナが望むように駆け落ちでも何でもさせてやるつもりではある。
 まあ、万が一にもそのような事態にならない自信が、おかしなことにエイパスとルーディにはあるけれど。
 あの二人を常に見ていれば、素直に祝福してやりたくなってしまうから不思議なもの。
「まあ、カイに言わせると、死んでしまうと姫の側にいられなくなるじゃないですか!&モりでしょうけれど」
「たしかに」
 ルーディとエイパスはそう言い合うと、おかしそうにくすくす笑い合う。
 たしかに、カイならばそう言うだろう。
 カリーナのために惜しげもなく命を投げ出すだろうが、そうすると、その後カリーナの側にいられなくなる。
 ならば、ともに命をつなぐ道を選ぶだろう。
 もちろん、二人が分かたれる道ではなく、ともにいる道を。
 それが、カイの言動の根源、原動力となっている。
 言うなれば、カリーナのためにしかカイは動かない。
「それに、姫もそこをずっと気にしていますからね。それであの姫にしては足踏み状態なのですよ」
 ふうとため息をもらし、ルーディは困ったようにふるふる首を振る。
 エイパスはどこか愛しそうに目を細め、けれどからかいがちに言葉を舌の上でころがす。
「二人ともへたれだなあ」
「まったくです」
 何の迷いもなく、すぐさますっぱりと、ルーディが大きく同意した。
 よくよく考えれば、事態は至極簡単なことなのだろう。
 そう、カイさえ真実≠カリーナに語り、そして公表してしまえば、多少の茶々は入るだろうけれど、他は何の障害もなく二人は結ばれることができる。
 けれどどちらも意地っ張りなところがあり、またカイの真実≠烽サう簡単に言葉に出すことができないものだから、二人の関係はいつまでたっても平行線のまま。
 覇王の妃になる!と公言するカリーナ、そしてその覇王≠ェ思いを寄せる女性もカリーナなのだから、ほら蓋を開ければ至極単純。
 しかし、その蓋≠ェ果てしなく重く、簡単には開けることができないのもまた事実だけれど。
 それを知っているルーディは、しみじみと細い吐息をこぼした。
 見ていて面白いけれど、いい加減、二人とも気づけばいいのにと、歯痒くもある。
 本当に、どちらも鈍すぎる。
 その時だった。
 何の前触れもなく、王太子執務室の扉が勢いよく開け放たれた。
「兄様ー! お茶にしよー!」
 うきうきとした様子で飛び込んできた愛しい妹に、エイパスは目を丸くする。
 カリーナの背後では、扉を守っていただろう衛兵二人があわあわとうろたえている。
 間違いなく、カリーナの勢いに気おされ蹴散らされたのだろう。
 どうやら、カリーナとカイのへたれっぷりでルーディと盛り上がっている間に、二人は窓の下の景色の中からこちらへ移動してきていたらしい。
 それにしても、いくら勢いがあるカリーナが恐ろしいと言っても、簡単に少女一人に打ち負かされてしまうとは、扉を守るこの二人の衛兵はなんと情けないのだろうか。
 これは教育しなおすべきだろうと、エイパスとルーディの脳裏にとっても愉快な明日の光景が見えた。
 それを雰囲気だけで察したのか、衛兵二人は今にも失神してしまいそうなほど震え上がっている。
 王宮最凶とうたわれる二人に目をつけられてしまったのだから、それこそ生きた心地はしないだろう。
 そのかわいそうな衛兵を弾き飛ばし、ようやく追いついたのだろうカイが怒鳴りながら飛び込んできた。
「姫ー!! お説教はまだ終わっていませんよ!」
「うるさい、黙れ、カイ。お前の説教など聞き飽きた」
「聞き飽きるくらい聞いても、まったく反省していないじゃないですか!」
「お前がいちいち細かすぎるだけだ」
 同時に、カリーナとカイの何とも次元が低いいつもの言い合いが、王太子執務室にて開始される。
 そう、ここが王太子執務室であることなど、二人の念頭からきれいさっぱりすっぱり抜け落ちている。
 本来ならば、まあ、妹姫であるカリーナはおいておいたとしても、一護衛官であるカイでは許されざる不敬であるということすら忘れている。
 まあ、その程度で立腹するエイパスではないけれど。むしろ、それすらも楽しむ。
 ルーディはあまりの騒々しさに眉根を寄せ、あてつけるように両耳に手をあてている。
 その横で、エイパスがのんびりとつぶやく。
「はー、やれやれ。うちの国は相変わらず平和だなあ」
 まさしく今現在、王都を盗賊たちが我が物顔で暴れまわっているというのに、この状況だけをとって平和だと言い切ってしまう辺りがエイパスといえよう。
 何しろ、世界はカリーナのためにあると言ってはばからないほどの変態(シスコン)だから。
 カリーナがエイパスにもたらすものは、すべてが愛しい。


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update:13/03/06