君は輝ける星(30)
カリーナ姫の野望

 エイパスはふとすねた顔から緊張感あるものに表情を引き締めると、ふふっと笑みをこぼし、優雅に言い放った。
「では、はじめようか。悪い子にはたっぷりお仕置きをしてあげないとね」
「はい!」
「よっしゃー!」
 エイパスの言葉を受け、カイとルーディはしっかりうなずき、カリーナは気合を入れなおす。
 その様子を、エリオットとグランは荷馬車のもとで少々あっけにとられながらも不安げに眺めている。
 たしかに、これまでのやりとりから、本当に彼らに任せて大丈夫なのだろうかという思いが湧き出てきても不思議ではない。
 そして、盗賊たちは、すっかり放置された状態に半ば呆然としている。
 いきなり現れた守備官たちにも驚いただろうけれど、その会話の内容に怒りを通りこして呆れのようなものがにじみ出てきたのかもしれない。
 本当にこれから、こいつらを相手にして盗みを働いてもいいのかという複雑な心境なのだろう。
 ここで逃げ出すわけにもいかないので、とりあえず守備官を相手にするのだろうけれど。
 相手にしなければ、退路も確保できないだろうから。
 しかし、カイは勢い込むカリーナの首根っこをつかみ、ぽいっと荷馬車へと放り投げた。
「カイ、何をする!?」
「あなたは、エリオットさんたちの警護にまわってください」
 いきなりのカイの暴挙に怒りをあらわにしたカリーナだけれど、その言葉にすぐさま嬉しそうに顔をはなやがせた。
「おう!」
 カリーナは言われるまま、素直に足取り軽くエリオットたちのもとへ歩み寄っていく。
 その姿を確認し、カイはそっと胸を撫で下ろす。
 今回ばかりは、カリーナが素直に従ってくれてよかったと。
 カイだけでなく、ルーディとエイパスもさりげなくほっとしているように見える。
 カリーナは、カイに邪険にされたのではなく、しっかり役割を与えられて嬉しいのだろう。まるで信頼されているみたいで。
 なので、カリーナにしては珍しく、下僕のカイの言葉に従った。
 しかし、カイの……いや、カイたちの思惑は、攻めではなく守りならば、多少はカリーナの暴走をおさえられるだろうといったところだろうけれど。
 後方にまわしておけば、少しは面倒くさくない。
 荷馬車を背に立つエリオットとグランの前で、カリーナが剣を構える。
 そのまわりを守るように、カイとルーディが控え、盗賊たちを取り囲むように守備官たちが陣形を整える。
 その一歩はなれた場所にエイパスが立ち、指揮をとる
 そして、次の瞬間、エイパスの合図とともに、ラルフをはじめとした守備官たちが、一斉に盗賊たちに切りかかっていく。
 虚をつかれたためか、盗賊たちはうろたえ、散り散りに逃げ出そうとする。
 けれどそれを逃さず、守備官たちが難なく捕えていく。
 所詮、寄せ集めの烏合の衆ということだろう。よく訓練された守備官たちに、もとよりかなうはずがない。
 順調にかつ確実に捕縛していく様を、カリーナはどこか面白くなさそうに眺めていた。
 実際、カリーナだけでなく、カイやルーディすらもその活躍の機会がないのだから、面白くもないだろう。
 誰にも文句を言われることなく暴れるために今回のことを計画したのに、さっぱり暴れられないのだから。
 そうして、いよいよこれで仕舞いかと思われた時、ふいに馬車の背後の木の陰から男が一人飛び出してきた。
 その男はまっすぐに、エリオットへ向かってくる。
 それにはっと気づき、カリーナがエリオットをかばい突き飛ばす。
 エリオットはぽてんと、土の上に尻餅をついた。
 同時に飛びかかった男の剣を、カリーナは剣でなぎ払う。
 その拍子に、カリーナの首にかかるイリスの首飾りの留め具がはずれてしまったのだろう、するりと肌をすべり地へ落ちていく。
 まだ相手の剣を払っただけで倒してはいないというのに、カリーナはまるでゆっくり再生されていく記憶を見るようにきらめくイリスに意識を奪われてしまっていた。
「姫、危ない!!」
 同時に、切羽詰ったようなカイの叫び声が耳に飛び込み、カリーナは何か暖かくて力強いものに抱き込まれていた。
 その左手首にある藍色の石が、朝陽を浴び、きらりと光る。
 はっとして顔をあげると、目の前には真っ青にそまったカイの顔がある。
 そして、その向こうに陽光を受け銀色に輝く何か――剣の刃が見えた。
 次にその銀の刃がとらえるであろうものに気づき、カリーナは声にならない悲鳴をあげる。
 刃がいよいよカイの背に迫った時、金属がぶつかる音が響き渡った。
 あらためて今まで刃があったところを見ると、襲い掛かる男の剣を受け止めるエイパスの姿があった。
「……え?」
 カリーナだけでなくカイもそれを目にし、戸惑いに瞳をゆらしている。
 どこか違和感を覚えたように、力ないカイの声がもれる。
 しかし、それもエイパスが放った言葉によって、すぐさま弾けとんだ。
「油断するなよ」
「は、はいっ」
 カイは慌てて答えると、さっとカリーナを引き離し、剣を構えなおす。
 その様子をカリーナは困惑気味に見つめるしかできない。
 どうやら、カリーナがイリスに気をとられている間に、なぎ払った男だけでなく、他にも複数木の陰から男が飛び出してきていたらしい。
 彼らもまた盗賊の仲間であろう粗野な形をしている。
 けれど、不自然にその得物はよく手入れされている。
 まだ残っている盗賊と、王太子でありながら自ら切り結ぶエイパス。
 そして、それを油断なく援護するカイ。
 カリーナから少しはなれた地面には、先ほどなぎ払った剣が、ごろりころがっている。
 やはりそれも、盗賊が持つにしてはどこか違和感を覚える意匠のものだった。
 視線を少し横にやれば、足元に転がる先ほど落としてしまったイリスに気づいた。
 カリーナは慌てて拾い上げ、多少乱暴に再びその首にかけなおす。
 それから、先ほどのエイパスの言葉を思い出し、カリーナは最後まで気を抜かずに、再びエリオットをその背にやり、辺りへ神経を放つ。


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update:13/03/24