美女が好きだあ!
change〜とりかえっこ王子〜

 クレイの黒いものをはらんだ微笑みに負けている場合ではないと、キオスは自らをふんと奮い立たせ、食ってかかる。
 恐らく、無駄だろうけれど。
「そんなもの知るか! 俺の妃になる女の子はなあ、こう……思わず抱きしめてしまいそうなほどの絶世の美女って決まっているんだよ!!」
「でしたら、その性格を何とかなさい。……それに、そのご希望の絶世の美女とやらからは、全てノー≠フ言葉が返ってきたではないですか。もう残るは、アルスティルの王女くらいしかいませんよ? せっかく、王が圧力をかけて、相手方にうんと言わせたのですから」
 困ったようにため息をもらす、クレイ。
 しかも、とんでもないことをさらっと言ってのけて。
 しかし、やはりどこかキオスを馬鹿にした節はある。
 この困った王子に、うんざりしているようでもある。
 どうすればここまでちゃらんぽらんになれるのかと、その目が切にいっている。
 しかし、ちゃらんぽらん王子なだけに、クレイのそのもの言わぬ視線には気づいていないようで……。
 やはり、たたえられているのは、その肩書きだけなのだろう。納得。
 大国クロンウォールの第二王子≠ニは、たいしたものである。
 そして、……なるほど。圧力。
 だから、アルスティルの王が、国の存亡に関わることと言っていたのだろう。
 大国クロンウォールと小国アルスティルでは、もとより比べ物にならない。
 この縁談を断りクロンウォールを怒らせでもしたら、アルスティルなどひとたまりもないだろう。
 いくらどちらも平和主義の国といっても、その武力は雲泥の差である。
 クロンウォールが本気になれば、結果など火を見るより明らか。
「まったく余計なお世話だ! どうしてよりにもよって、あの正視することができない容姿の持ち主と有名な王女なんだよ! 信じらんねえ〜! 俺は美女が好きだあ〜!!」
 キオスはそう叫ぶと、がりがりと頭をかきむしりはじめる。
 こうなってしまったキオスには、もう何を言っても無駄だろう。
 手の施しようがない。
 それは、この国の者なら誰でも心得ていることだろう。
 それほどまでに、厄介な王子様なのである。
 キオスは、無類の女好きと同時に、呆れるほどの美女好きでもある。
 しかし、その美女からは、この困った性格によりまったく相手にされない。
 相手にされないどころか、かかわりたくない、視界にその姿を入れたくないという、見事な嫌われ者っぷりである。
 それでもキオスは、自分は女性にもてもてと信じて疑わない。
 まったく、その勘違いっぷりもここまでくれば、天晴れ。
 それ以前に、「美女が好きだあ〜!!」と叫んでしまえるその性格を、なんとかして欲しいような気もするけれど。
 それでは、自らで「わたしは馬鹿です」と言っているようなものだから。
 名をはせる大国クロンウォールの王子がこんなにちゃらんぽらんと思うと、何とも恥ずかしく、嘆かわしくてならない。
 と、この国のキオスをよく知る者たちは、誰一人もれずそう思っていることだろう。
「おやめなさい、下品ですよ。――まったく、人を中傷する前に、ご自分の振る舞いを見直していただきたいものですよ……」
 そう言ってクレイは、また大きなため息をもらした。
 そして、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎるのでもう相手にしていられないと、バルコニーを去ろうと、しゃがみこみやさぐれるキオスに背を向ける。
 そのクレイの背に、キオスはぴりりと反応し、怒鳴り散らす。
「うるさい! とにかく俺は嫌だ! ――ああ〜、しかし、俺様のこの完璧なまでの美貌を前に、ころっといかない女はいない。そうなると、相手から断りを入れてくるともとうてい思えないし……。俺から断りなんて、絶対入れられないだろうし……。あの親父の差し金とあっては……」
 そんなふざけたことをぬかすキオス。
 そして頭を抱えるキオス。
 あまりにも馬鹿馬鹿しいことで、本気で悩むキオス。
 自信過剰もいいところである。
 もちろん、冷めた冷たい眼差しで、クレイはキオスを見ている。
 あまりにも馬鹿らしいその発言に、思わず足をとめてしまっていたようである。
 思わず足を止めてしまった自らに、クレイは自嘲の念を感じずにはいられない。
 キオスはこんなのだとわかっていたのに、クレイはどうしてかかわってしまったのだろうか。
 後悔先に立たずとは、よくいったものである。
「だから、それが……」
 クレイが、困り果てたように、あきれ返ったように、そうつぶやいた時だった。
 ふいにキオスががばっと顔を上げ、立ち上がった。
 そして、ずんとクレイに迫り、がしっと両肩をつかむ。
 その目は、きらきらとした、何やら期待に満ちた色を放っていた。
 じっとクレイを見つめ、とらえてはなさない。
 目はきらきらと期待に満ちているけれど、その手に込める力は尋常ではなかった。
 逃がさないぞ。絶対に逃がさないぞ、と。
 瞬間、クレイの脳裏に、いや〜な予感がよぎる。
 慌ててキオスを振り払おうとしたけれど、もう遅かった。
 クレイの肩をがしっとつかんだその手は、びくともしない。
 爪が食い込むかと思われるほど、力強く握られている。
 そのようなキオスに、クレイは、もう終わった……と思ったかもしれない。
 全ての運に見放された……と、そんなことすら思っていたかもしれない。
 がっくりと、うなだれた。
「そうだ、クレイ! 俺はいいことを思いついたぞ! そうだ、その手があったのだ!! お前、俺と入れかわれ!!」
「はあ!?」
 クレイは顔をゆがめ、完璧にキオスを馬鹿にした表情をみせる。
 どうやら、クレイの嫌な予感は見事的中してしまったようである。
 ……いや、それ以上。
 予想すらできなかった、そんなふざけたことは。
 クレイに、どっと疲れが押し寄せる。
 あまりの脱力感に、めまいまで襲ってきそうである。
 ぐらりと、クレイの目の前が揺れたような気がした。
 あまりにも馬鹿らしすぎて。
 そんなことができるはずがない。
 そんな常識からはずれまくったことが……。
 しかし、やはりこの人、ちゃらんぽらん王子キオスには関係なかった。
「俺様のこの完璧な容姿では、相手から断ることはまずないだろう。しかし、どうだ? クレイ、お前のその貧相な容姿ならば、相手は間違いなく断りを入れてくる! お前、俺のふりをしてフィーナ王女に会え!!」
 そんなむちゃくちゃな理由で、むちゃくちゃな頼みを入れるキオス。
 当然、クレイはあきれ返ってしまっている。
 いや、もうあいた口がふさがらない。
 しかし、そうは言ってもあきれてばかりもいられないので、クレイは抵抗を試みる。
 そんなことができるはずがないのだから。何がなんでも。
「な……っ!! 冗談じゃありませんよ! どうしてわたしが、あなたのふりをして王女に会わねば……!!」
「決まりだ! よーし、そうと決まれば、俺様は安心してまた遊びまわれるぞ〜! あんなお堅い噂が流れる王女なんか、願い下げだ!!」
 そうして、勝手に話をすすめ、勝手に話を決めてしまったキオスは、クレイをさっさと解放し、嬉しそうにからから笑っている。
 からっと晴れ渡った青空に向かい、「俺は美女が好きだあ〜!!」と、また性懲りもなく叫びながら。
 当然、これまでの会話とは何の脈絡もない。
 だから、ちゃらんぽらん王子といわれるのである。
 まったくもって、これが将来国を担う第一王子でなくてよかった……。
 と、この国の重臣たちは、誰しも安堵していることだろう。
 そう、ちゃらんぽらん王子が第二王子でよかったと。
 当然、その横には、あまりもの馬鹿馬鹿しさに頭を抱えるクレイがいた。
 呆れすぎて、もう言葉もないようである。
「また、あなたは……」
 クレイではないけれど、この馬鹿王子は、まったく……。


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update:05/05/05