やきもちやき王子
change〜とりかえっこ王子〜

「……どうして俺って、こんな役まわりばかりなの?」
 べちょっと床に寝転がり、むっつりとつぶやくキオス。
 片肘をついて、その上に頭をのせる。
 そこから、今床に沈めてくれた王を、恨みがましく見上げる。
 そうかと思うと、すぐに、何やらぶつぶつともらし、ふてくされ、いじいじと床をいじりはじめる。
 床をなぞるその指の動きからラブ フィーナ≠ニ見てとれるのは、気にしてはいけないこと。
 そう、気にしてはいけない。気にして、告げ口などしようものなら、うそつき王子の絶対零度の眼差しが注がれる。
 そしてその眼差しは、この国を凍土の世界へと化してしまいかねない。
 だって、うそつき王子は、頼れる王子と同時に、やきもちやき王子だから。
 その思いが通じちゃった替え玉王子には、怖いものなど存在しない。
 恐らく、彼が今最も恐れているものは、思いを寄せるただ一人の女性。
 ……それにしても、それって、完全にすねすねやさぐれモードですか? キオス王子お得意の。
 だから、ちゃらんぽらん王子だと言われるのですよ?
 手のほどこしようがなくなったキオスの目の前に、すっと陰ができた。
 それを不思議に思い顔を上げると、そこには、現在、迷惑なくらいキオスが追いかけまわしている、麗しの姫君の姿があった。
 これでもかという程馬鹿にした目で、キオスを見下ろしている。
「それは、あなたがちゃらんぽらん王子だからですわ」
 にーっこりと、さわやかすぎる笑顔をふりまいて、さわやかに言い放つ、無慈悲な姫君。
 ……またの名を、氷の女王?
 そう例えてしまいたくなるほどの、麗しの姫君の凍れる微笑。
 何の遠慮もなく、一国の王子を(おとし)める。
「フィーナちゃん、ひどい。こんなにも君のことを思っているのに」
 麗しの姫君のドレスのすそにすがるように手をのばしながら、お馬鹿王子は口をとがらせる。
 しかし当然、その手はドレスにたどりつくことなく、無常に床にたたきつけられていた。
 だんという、大きな音とともに。
 そして、その手は、動くことかなわず。
 何しろ、ぴんととがったヒールの下敷きにされているのだから。
 あ、あの……。さすがに、それはやりすぎでは?
 しかし、このお馬鹿王子にとっては、どうやら、もうすでに普通のことになってしまっているよう。
 これといって、抵抗する素振りもない。
 むしろ、喜んでいる?
 たちが悪いことに。
「あら、大迷惑ですわ。そのような思い、とっとと葬り去ってくださいな」
 にっこりと微笑み、麗しの姫君は踏みつけるそのヒールに力を込めていく。
 ぎりぎりと……。
 それでもなお、顔を苦痛にゆがめながらも、幸せそうに微笑むお馬鹿王子。
 ――どちらかの表情にはっきり決めてもらいたい。……まぎらわしい。
 どうやら、お馬鹿王子は、愛しの姫君にお相手をしてもらい、とっても嬉しいらしい。
 とりあえず、何かが限りなく間違っているような気がするのだけれど……?
 きっと、そこには触れてはいけないのだろう。
 そう、それはまるで、女王様と奴れ……いやいや、ここはあえて自主規制。
「フィーナ? ここにいたの?」
 平気でさらっとむごいことをしてのけてしまえる麗しの姫君に、そのような声がかかった。
 それはまるで、まわりのものなどまったく見えていない、気にしていないという、もうすでに二人きりの世界を作りきっていそうな、あまったる〜い声。
 そして、その振る舞いも、目を覆いたくなるほどあまったる〜い。
 声をかけると同時に、ふわりとその胸の中に、フィーナを抱きしめていたのだから。
「あ、クレイさま」
 ぱあと顔をはなやがせ微笑むフィーナ。
 フィーナにはもう、直前までキオスをいためつけていた面影など、片鱗すら残っていない。
 もちろん、クレイも、フィーナ以外眼中になく、幸せそうに抱き続ける。
 フィーナの足の下から、クレイの足の下に、キオスの手を移動させて。
 ぐりぐりと、踏みつけながら。
 ぎちぎちと、骨が鳴る音が聞こえてきそうな……?
 やっぱり、この恋人たち、ただものじゃない。
 しかも、ここの王様、さすがは平和ぼけ。
 先ほどから目の前で、キオスがこのような仕打ちをうけているというのに、まったくそれに気づいている様子はない。
 「ふむふむ。仲良きことは、いいことだねえ〜……」などと、ほのぼのとお茶をすすり出しているのだから。
 ぽかぽか差し込む、陽気のもと。
 やはり、この国、この王族、何かが果てしなく間違っていそうな気が、そこはかとなく……。
 こんな王様だから、キオスの、例のあのふざけまくったとりかえっこ王子計画も、実行されてしまうのだろう。
 何の障害もなく。あっさりと。
 ……妙に、納得。
 そうして、ほがらかな陽気の中、クロンウォール王親子とフィーナの、愉快な団欒(だんらん)が続いていく。


「フィーナ、愛しているよ」
 熱く……暑苦しくフィーナを見つめながら、クレイがふわりとささやく。
 しかもそれ、残酷にも、フィーナに恋するキオスの目の前。
 さらに、クレイに輪をかけて残酷なこのお姫様ときたら……。
「わたくしもよ」
 などと嬉しそうに微笑み、クレイのほっぺにちゅう。
 そしてそのまま、すぐ横にあるソファにくずれ込む。
 そんな馬に蹴られて死んでしまえと思えるほどのいちゃつきっぷりに、キオス王子はぐれぐれモード。
 王様のおひげを両手でつかみ、びよーんと真横に引っ張る。
 もちろん、王様だってそれには黙っていられず、おひげをひっぱるキオスの手をがしっとにぎる。
 そして、ぐいぐいとキオスの手をひきはなそうとするけれど、一緒におひげまでひっぱられてしまい、「アイタタタ……」と大絶叫。
 ……本当、馬鹿。この親子。
 呆れるくらいいちゃつくバカップルと、つまらないことばかりしている馬鹿親子。
 恐らく、このぽかぽかすぎる陽気に惑わされてしまっているのだろう。
 ……いや、陽気の方が、この四人に惑わされている?
 お、恐ろしい。
 と、その時だった。
「お、王! 大変です!!」
 入室許可を得ることすら忘れてしまうほど血相をかえたこの国の――一応いたらしい――宰相のおじさんが飛び込んできた。
 宰相のおじさんも、王に負けないくらいの立派なおひげ。
 そのおひげをふりみだしている。
 ぜいはあぜいはあと、荒い息をしている。
 そのさすがに普通じゃないその様子には、このおちゃらけ四人組とて、あらたまらないわけにはいかない。
 いちゃつきバカップルは、するりと互いの腕をはなす。
 そして、おひげの攻防戦を繰り広げるこちらの馬鹿親子も、そのままの格好でぴたっと動きをとめた。
 四人の視線が、扉で相変わらず荒い息をする宰相に注がれる。
「どうした? 宰相」
 ゆっくりと、おひげをつかむキオスの手をはなしていき、王は険しい眼差しで宰相に問いかける。
 ……いまいち迫力に欠けるのは、この際おいておいて。
「そ、それが……。あの軍事大国バーチェスの第一王子が、話があると乗り込――おみえになりました!」
 王の問いかけに一度大きく息を吸い、宰相はそう一気にはきだした。
 瞬間、王の顔もクレイの顔も険しくゆがむ。
 ただ、キオスだけは、のほほんと、疑問符を頭のまわりに飛び散らせている。
 そして――。
「はあ!? バーチェスの王子〜!?」
 王のすっとんきょうな雄叫びが、王城中にとどろいた。
 ……やっぱり、親子。
 と、この辺りから判断するのは、……不謹慎?
 恐らく、キオスのその雄叫びの才は、王ゆずりなのだろう。
 ――いや、それ以前に、宰相の言葉の意味を理解するまでに、時間をかけすぎ。


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update:06/01/22