国などいらない
change〜とりかえっこ王子〜

 ぽかぽか陽気の中、どろどろした雰囲気をかもし出しつつ、お茶の席は進んでいく。
 結局、フィーナに失せろと言われたにもかかわらず、キオスは意地でそこに残った。
 そういうところだけは、さすがキオスといえるだろう。
 他人の迷惑をかえりみないあたりが。
 キオスが見守る中、妙にぎすぎすした視線をからませつつ、男たちはお茶をすすっている。
 互いに互いを観察――監視している。
 その間にはさまれ座っているフィーナは、何故だか楽しそうに微笑んでいる。
 そこに飛び散る見えない火花に、心地良さそうに身をあずけてさえいる。
 いくらキオスだって、このお茶の席がなごやかに進んでいるとは思えないのに、どうしてフィーナはそんなに楽しそうなのか?
 キオスには、その理由がまったくわからない。
「クレイ、君は知らないのかな? フィーナは引く手数多の女性だと。各国の王侯貴族の子息が、こぞって妻にと求める女性だよ。……君には、もったいなすぎる女性だね」
 その静かなるにらみ合うだけの戦いに終止符をうったのは、ファセランだった。
 カップに口をつけながら、妙に馬鹿にした視線をクレイへ流す。
 クレイはむっと眉根をよせるけれど、そのまま黙って話の続きを聞くことにした。
 相手に勝つためにはまず、その出方を見極める必要があるだろう。
 この場は、いわば戦場。
 たった一人の女性をかけた、男二人の戦い。
 ……もう一人、その女性に思いを寄せるちゃらんぽらん男もいるけれど、彼は最初から相手にされていない。そもそも、相手にするだけ馬鹿馬鹿しい。
「ねえ、クレイ、フィーナをあきらめる気はないかな? 何度も言うようだけれど、君には過ぎた女性だよ」
 ファセランは、こくりとのどの奥にお茶を流し込み、やっぱり妙に挑発的で、そして艶かしくクレイをちろりと見る。
「……あなたこそ、いい加減にされてはどうです? あまりしつこいと嫌われますよ?」
 クレイは、ファセランににっこり微笑み逆襲。
 その言葉は、優位に立つ男の口からのみ言うことを許されている言葉。
 そう、フィーナが愛しているのは、クレイという……。
 冷戦の中でも、ぬけぬけとのろけるとは、さすがはクレイ。
 ――しかし、のろけられちゃうくらい信じているはずなのに、どうにもファセランの横恋慕にはうろたえている節がある。
 なんともまあ、ちょろい男。
 ……いやいや、今はそういう時ではなく……。
 クレイの反撃に、ファセランは頬をひくひくとひきつらせる。
 そして、ふっと不敵な笑みを浮かべる。
「いいのかい? そんなことを言っても。国がどうなっても知らないよ。わたしが一言――」
「国が何ですか。そのようなものなどいりません」
 ファセランの言葉を遮るように、クレイはきっぱりと言い放った。
 瞬間、驚いたように、フィーナもファセランもクレイを見つめる。
 まさか、よりにもよって、クレイの口からそのような言葉がもたらされようなど、一体誰が想像できただろう。
 クレイという王子は、実直で馬鹿正直で融通がきかなくて、それでいて不器用なはずなのに?
 その横で、キオスが我関せずでお菓子をむさぼっていることは、見なかったことにしておこう。
 煮えたぎる腹の内を、明らかに必死に誤魔化すように、ファセランはひきつり笑いをみせる。
「へえ、一国を担う第一王子がねえ……。それでは、いいのかな? バーチェスがクロンウォールに攻め――」
「ファセランさま。いくらあなたでも、わたくしの婚約者に対する無礼、許しませんよ?」
 今度は、その言葉をフィーナが遮った。
 しかも、それまでどことなく楽しそうに二人の冷戦を見ていたはずなのに、非難するような眼差しをファセランに向けている。
 ファセランは、フィーナのお怒りをかってしまったらしい。
 それに、ファセランが肩をすくめる。
 どうやら、ファセランは少しやりすぎてしまったよう。
 たしかに、男女の色恋に国を持ち出すのは、賢くない。無粋。
 そしてそれは、フィーナが嫌うことでもある。
 フィーナという王女は、まがったことが嫌いなまっすぐな女性だから。
 そして、そんなフィーナに、ファセランはひかれている。
「あー、はいはい。すまなかったね。君にそんな目で見られるのは、とっても辛いのだよ。だから、いつもみたいに綺麗に笑っておくれ」
 ファセランは困ったように微笑み、すいっとフィーナの頬に触れる。
 瞬間、ばちんとその手が払われていたけれど。フィーナによって。
「ふふふ。お口がお上手ですこと」
 そして、にっこりと、とってもさわやかにフィーナは微笑んだ。
 さすがは、ファセランが見込んだだけの女性である。
 一筋縄では、決していってくれない。
 そこがまた、欲しいと、愛しいという思いをかきたてる。
 それにしても、国云々は抜きにしても、このムカつくクロンウォールの第一王子をなんとかしたいというのは、変わらぬ事実。
 何よりも、フィーナにかばわれてばかりのこの情けなさ。
 不甲斐ないにもほどがある。
 こんなへっぽこ王子に、ファセランの愛しのフィーナをまかせられるはずがない。
 ファセランは、ぽややんとフィーナを見つめるクレイを、ぎらりとにらみつける。
 フィーナにかばわれ平和に笑うその顔が、なんと憎らしいことか。
 こんな王子、認められない。


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update:06/02/12