無邪気と陰謀
change〜とりかえっこ王子〜

 覆う緑の合間をぬい、朝の陽光がさしこんでくる。
 そのダイニングで、やっぱり王子王女たちだけの、のどか――のどか?――な朝食がつつがなくすすんでいる。
 ゆでた鳥の卵をとり、その皮をむこうとするフィーナの手から、クレイはすいっとそれをぬきとる。
 それから、いそいそと皮をむきはじめる。
 綺麗に皮をむき終わり、つるつると光るその白い肌をさらしたことを確認すると、クレイは満足そうに微笑んだ。
 そして、「どうぞ」と、フィーナの手に卵を戻していく。
 同時に、ぎゅっと両手でさりげなくその手をにぎりしめていた。
 それに、フィーナはぽっと頬をそめる。
 しかも、「とても、おいしいですわ」と、フィーナもにこっとクレイに微笑みかけている。
 ――ったく、やっていられない。
 その光景を目の当たりにさせられてしまったキオスは、けっとはき捨て、お皿の上のこんがり焼けたベーコンを、ぐりぐりとフォークでつきさしている。
 もう一方の腕は、ずどんとテーブルの上に肘をついている。
 そして、もう一人の王子ファセランはというと、クレイに対抗すべく、食べやすいようにと、フィーナの分のベーコンを一口サイズに切りはじめている。
 ……普段のファセランなら、絶対にそんなことはしない。
 恐らく、クレイにあてられてしまっているのだろう。
 しかし、ファセランが切り分けたベーコンは、決してフィーナに食べられることはなかった。
 かわりに、クレイの分の一口サイズに切られたベーコンが、フィーナのお腹の中におさまっていたよう。
 ――それは、果たして誰の陰謀によるものかなどは、言わずと知れたこと。
 本当に、キオスの目の前で、この三人の王子王女たちは、馬鹿馬鹿しい争いをしてくれている。
 キオスは、気づけば、ぐりぐりとしていたフォークを、がんがんとお皿にたたきつけていた。
 だって、なんだかキオス一人、仲間はずれにされているようで、ちょっぴり悲しいから。
 キオスだって、そこにまざり、一緒に遊びたい。
 ……と、ちゃらんぽらん王子らしく、どこか的外れなことを思っていた。
 そのような不毛な争いを続ける朝食の最中。
「え? これから、クロンウォール湖にですか?」
 きょとんと首をかしげるクレイの姿があった。
 その前には、やっぱりどことなく挑戦的に、クレイににっこり微笑みかけるファセラン。
「ああ、そうだよ。フィーナに聞いてね。この国自慢なのだって?」
 それがどれほどのものか、このわたしが見極めてあげようじゃないかとでも言いたげに、ファセランは馬鹿にしたような視線をクレイへ送る。
 たいしたことがなければ、思いっきり嘲笑ってやろうと思っている。
 たいしたことがあれば、まあ、それはそれでさらっと流してしまえばいい。
 当然、その言葉に、クレイの眉がぴくりと動く。
 しかし、そんなクレイの横には、両手を合わせ幸せそうに微笑むフィーナがいる。
 やっぱり、この状況、フィーナはまったくわかっていない。むしろ、楽しんでいる。
「虹色に輝く、それはそれは美しい湖でしてよ。ねえ? クレイさま」
 などとかわいらしく首をかしげてくれちゃったりするから、クレイってばもうたまらない。
 そのままがばっと抱きしめてしまいたいとばかりに、思わずフィーナへ手がのびてしまう。
「え、ええ。まあ、たしかに……」
 しかし、目の前からばちばちと送られてくるその火花に邪魔され、あえなく断念。
 少しだけフィーナへと出た手が、ちくちく痛い。
 ついでに、胸も痛い。
 だって、クレイはフィーナを抱きしめられなかったから。結局。
「今日はそこで、ピクニックをしようじゃないか」
 しかも、やっぱりファセランから出るとは思えないそんな提案まで出てきて……。
 ――一体、何を企んでいる?
 クレイはそう思わずにはいられない。
 しかし、あからさまに怪訝な表情を浮かべるのも芸がないので、とりあえず平静を装う。
 装いきれるかどうかは別として。
「はあ……」
 ひとまず、クレイは気がない返事をする。
 どうも拍子抜けしてならない。今朝のファセランは。
 昨日は、あんなにぎんぎんに敵意むき出しで、クレイに脅しまでかけていたのに。
 この変わりようは、一体何事だろうか?
 やっぱり、何かを企んでいるとしか思えない。
「うふふ。楽しみですわね」
 そんな二人をよそに、フィーナは変わらず楽しそうに笑っている。
 それと同時に、クレイは気づいてしまった。
 これは、なんとなく、嫌というほど、裏にある人の陰謀があると。
 今隣で無邪気に笑う、このお姫様の陰謀が……。
 きっと、フィーナがただ湖に行きたいがために、ファセランに吹き込んだのでは……?
 あり得る。あり得まくる。このお姫様ならば。
 そう、あのちゃらんぽらんキオスですら、気づいてしまえるほどに。
「……って、結局、フィーナちゃんのわがま――」
「何かおっしゃって?」
 フィーナは両手を合わせ、にっこりとキオスに微笑みかける。
 当たり前のように、キオスの言葉を遮って。
 しかも、そんなキオスの目の前では、ナイフがテーブルにつきささり、ぶるんぶるんとふるえている。
 それは、どこから飛んできたものかなどとは、口がさけても言えない。
 だってほら、クレイの向こう側で、「あら? 少しそれてしまいましたわ」なんて残念そうに首をかしげるフィーナがいるのだから。
 手首をぐりぐりとまわしながら。
 それでは、少しそれなければ、本来どこを狙っていたのでしょう?なんてことは、絶対に聞いてはいけない。
 その答えは、絶対に恐ろしいものだとわかっているから。
 ――いつか本気で、このお姫様に()られちゃうかもしれない。
 ふと、キオスはそう思ったとか思わなかったとか。
 しかし、それでも、キオスがフィーナに寄せる思いは変わらないけれど。
 むしろ、障害があればあるほど、燃えるというもの。恋というものは。
 結局、そうして自分の都合がいいところにいきついてしまう。
 さすがは、ちゃらんぽらん王子。


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update:06/02/26