おくりもの
change〜とりかえっこ王子〜

 結局、クレイの逃亡劇はまったく実りなく終わった。
 楽しげに笑うエイパスに颯爽と引っ張られ、再び人気がある場所までやって来た。
 ちらほらと、手入れが行き届いた庭園を楽しむ紳士淑女の姿が見える。
「なんだかのどが乾かないかい?」
 などと、エイパスは通りかかった侍女に聞こえるように、さりげなくじゃなくお茶の催促をした。
 その言葉を発した男に気づいた侍女は、すぐ横にフィーナがいることを認め、すがるように視線を向けた。
 するとフィーナは、盛大に疲れたようなため息をもらし、「申し訳ないけれど、用意してくださる?」と優しく、優しーくお願いした。
 そうして、慌てて準備に向かった侍女のおかげで、フィーナたちは今ここで、庭園を見渡せるテラスで、仲良くお茶の時間に突入するはめになった。
 仲良くとはあくまでエイパスの言いで、そのほかつき合わされているフィーナたちはとっても不服そう。
「それで、エイパス王子はどうしていらっしゃりやがりましたの?」
 がっちゃんと大きな音を立て、フィーナがカップをソーサーに叩きつけるように置く。
 そして、じろりとエイパスをにらみつける。
 その横では、勢いで飛び出たお茶で汚れたフィーナの手を、クレイがかいがいしく白いハンカチでぬぐっている。
「あはは、フィーナは相変わらず正直だね」
「あなたに取り繕うことほど、馬鹿らしいことはございませんもの」
 見事なまでの尻にしかれっぷり、へたれっぷりを披露するクレイをちらりと見て、エイパスは愉快そうに目を細める。
 フィーナは相変わらず、びんびんの敵意をエイパスに向けている。
 ――そういえば、フィーナと一緒になり、あれほどエメラブルーの王子≠目の敵にしていたはずのクレイは、何やらとっても大人しい。
 もしや、まともに相手をするだけ無駄だと、さっくりとその存在を無視しているのだろか?
 クレイなら、あり得る。
 気に入らない相手は即座にたたき出すクレイだけれど、無駄だとわかっている相手には、はじめから余計な手はかけない。
 それに、エイパスは、極楽鳥だけれど、決してクレイの敵というわけではない。……まあ、困った王子ではあるけれど。
 その証拠に、エイパスはフィーナと会話を楽しむことはあっても、よこしまな目で見ることはない。――バーチェスのあのファセランのように。
 フィーナに手を出さないのなら、別に問題ない。どうでもいい。
「そうそう、そういえば、例の二人だけれどね、あれは、わたしからの婚約祝いの贈り物だよ。クレイ王子とフィーナにね」
 カップからのぼる湯気を鼻の前でゆったり揺らし、エイパスはその香りを楽しむ。
「ころっとさらっと無視してくださいましたわね。……ところで、贈り物、ですって?」
「ああ、あの二人のおかげで、フィーナとクレイ王子は仲をより深められた、……違う?」
「……くっ」
 ちらりと試すように視線を流すエイパスに、フィーナは悔しそうに言葉をつまらせる。
 たしかに、あのお邪魔虫二人のおかげで、フィーナはより一層クレイを好きになったことは、悔しいことに間違いない。
 そして、クレイはたくさんフィーナを愛していると感じられたことも、悔しいけれど、たしか。
 カップのとってを握るフィーナの手が、ふるふる震えている。
 それにあわせ、やっぱり中のお茶がたっぷんたっぷんと揺れ、フィーナの白くて綺麗な手を汚していく。
 クレイはエイパスの発言などさっぱり気にしたふうはなく、憤るフィーナの世話をやはりかいがいしくつづけている。
 本当に、クレイにとってはエイパスなどどうでもいい存在らしい。相手にするまでもないらしい。
 図星をさされて悔しさと恥ずかしさに頬を染めるフィーナをちらりとみて、エイパスはさわやかに言い放つ。
「いやー。本当にフィーナは正直でいいなあ。――まあ、わたしの妹にはかなわないけれどね。もとより、わたしの妹以上にかわいい姫は、この世に存在しないけれどね」
「でましたわね、変態(シスコン)
 目をすわらせたフィーナが、即座にぼそりと言い捨てた。
 エイパスは言葉にしたその妹の姿を思い浮かべているのだろう、うっとりとした様子で青く澄んだ空を見つめている。
 それから、すっと視線を戻してきて、クレイににっこり微笑みかける。
「そういえば、今日はやけに静かだね、クレイ王子」
「あなたの相手をするほど馬鹿らしいことはありませんので」
 フィーナの手を汚したお茶を綺麗にふきとり、満足げに小さく吐息をもらすクレイに、エイパスは不思議そうに問いかける。
 するとクレイは、今度は大きな吐息をもらし、疲れたように言い捨てた。
「あはは。やっぱり、クレイ王子も正直だなー」
 しかし、邪険にあしらわれてもエイパスはさっぱり気にした様子なく、むしろ楽しそうに声を上げて笑う。
 すみっこで身を小さくしてこそこそとお茶を飲んでいたキオスがそれに気づき、こくりと首をかしげ、クレイとエイパスを交互に見る。
「クレイも知り合いだったの?」
「クレイ王子だけでなく、ローシャルもね。フィーナ、ローシャル姉弟とは、幼い頃からの友人なのだよ、キオスくん」
 エイパスは楽しそうにキオスを見て、優しく諭すように答える。
「とんでもない誤解ですわ。わたくし、あなたと友人になった覚えなどありませんわ」
「僕もだよ」
 目に怒りの炎をたぎらせ、フィーナはにっこり微笑む。
 大人しくキオスの横でちびちびお茶を飲んでいたローシャルも、さすがにこれには黙っていられなかったのか、ぼそりとつぶやいた。
 クレイ同様、エイパスの相手をまともにしては疲れるだけと、ローシャルも悟っているらしい。
 そして、そうだとわかっていても、フィーナはどうしても反論せずにはいられないよう。
「へー、そうなんだー」
 キオスは感心したように、こくこくと首を縦に小さく振っている。
 どうやら、キオスとしては、エイパスは嫌いな部類でも苦手な部類でもないらしい。
 むしろ、丁寧にキオス相手に答える辺り、好印象を抱いているよう。
 まあ、キオスはもともと、誰にでも無邪気になつく傾向があるようだけれど。


* BACK * NEXT *
* TOP * HOME *
update:08/05/28