星の騎士守り
change〜とりかえっこ王子〜

 ふと視線をとめ、キオスは不思議そうにじっと一点を見つめる。
 キオスが見つめる先は、何故だかクレイ。クレイというよりは、いそいそとフィーナの世話をやくために立ち上がり見えた、その腰につけているもの、――剣。
 クレイの剣の柄に、キオスは見慣れないものがついていることに気づいた。
 お兄様大好きなキオスだから、クレイの少しの変化にだって目ざとく気づく。
「あれ? クレイ、剣についているそれ、何? 見たことないのだよな?」
 そして、キオスは思ったままを口にしていた。
 クレイは手をとめ、自分の腰へ視線を落とす。
「え? ああ、これは……」
「おやおや、それは星の騎士守り≠セね」
 クレイが答えるまでもなく、別の場所からそう声が上がった。
 先程もそうだったけれど、どうやらエイパスは、クレイの言葉をとるのがお好きらしい。
「星の騎士守り=H 何、それ」
 キオスは興味を覚えたらしく、クレイではなくエイパスへずいっと上体を突き出す。
 本当に、何をどう間違ったのか、キオスはエイパスになつきつつあるよう。
 ねえねえと、急かすようにエイパスの服の袖を引っ張っている。
 エイパスもまた、単純にあっさりしっぽを振るキオスに情でもわいたのだろう、優しい視線を向けてこくりとうなずいた。
「ああ、キオスくんは知らないのだね。その飾り紐は、古くからアルスティルに伝わるお守りだよ」
 キオスはむむっと眉間にしわを寄せ、不審げにエイパスを見る。
「どうして、そんなこと、あんたが知っているんだ?」
「だって、わたしだから」
 エイパスはにっこり微笑み、さわやかにそう言い切った。
 瞬間、キオスはエイパスの袖からばっと手をはなした。
 そして、ずざざーと勢いよくのけぞる。
 どうやら、キオスもようやく、エイパスの胡散臭さに気づいたらしい。
 耳としっぽをたれ、おびえたようにエイパスを見ている。
 しかし、びくびくと警戒するキオスになどかまわず、エイパスはたんたんとつづけていく。
「かの世界を巻き込んだ大戦の際、この国を救った星の騎士と呼ばれた騎士に贈られたことから、そう呼ばれるようになったのだよ」
 そう言って、エイパスは妙に優雅にお茶を一口口に含む。
 そのエイパスに胡散臭げな視線を送るフィーナに、クレイがこそっと耳打つ。
「あれ? それじゃあ、女性が大切な男に贈ったというのは……?」
 クレイの問いかけに気づき、フィーナはほわりと頬をゆるめた。
「ええ、本当にあったことと伝え聞いておりますわ。出陣の際、その無事を願って、花のように可憐な乙女が、星のようにきらめく騎士に贈ったことがはじまりですのよ」
「へえ、だから、星の騎士守りなんだ」
 どうやら、クレイとフィーナの会話を聞いていたらしく、その横で、キオスが感心したようにつぶやいた。
 ちらりとキオスを見て、フィーナは皮肉るように笑みを浮かべる。
「キオス王子にしては、立派ですわね。ちゃんと理解できていますもの」
 それから、楽しげにころころ笑い出した。
 どうやら、キオスに八つ当たりできて、フィーナはとっても満足らしい。
 これまで、散々エイパスに調子を崩されていたから、その喜びはひとしおだろう。
「ひっどい、フィーナちゃん。俺のこと何だと思っているの!?」
「そのようなこと、決まっていますわ。三国一のちゃらんぽらんですわ」
 さらりと言い放ち、フィーナは優雅に意地悪く、くすくす笑う。
 同時に、キオスは傷ついたように目を見開き、そのままフィーナの横にいるクレイへ抱きついていく。
「わーん、クレイー。フィーナちゃんがいじめるー!」
 と、やはりそのようなことを叫びながら。
 もちろん、クレイはそれをあっさりかわし、殴り倒し、蹴散らす。「寄るな、馬鹿がうつる」と無言の圧力を、にっこり笑ってかけながら。
 テーブルに両肘をつき、両手を組み、そこに顔をのせて、エイパスは楽しげにつぶやく。
「クレイ王子も、フィーナからもらったのだねえ」
「ええ!? それって、フィーナちゃんからの贈り物なの!?」 
 瞬間、床とごっつんこして遊んでいたキオスががばりと上体を起こし、驚愕したようにフィーナを見つめる。
 フィーナはにっこり笑顔を浮かべて、クレイの腕に両手をすっとそえた。
「そうですわ。星の騎士守りは、アルスティルの乙女に伝わる、大切な男性へ贈るお守りですもの」
「な、何、それ! 俺、もらっていないよ!?」
 衝撃を受けたように目を見開き、キオスはすがるようにフィーナに手をのばす。
 しかしもちろん、その手はクレイの見事な早業によってばっちんと払いのけられる。
 ふうふうとたたかれた手に息を吹きかけるキオスに、フィーナはいまいましげにはき捨てる。
「当たり前です。誰があなたなどに贈るものですか」
「うわー。やっぱり強烈なパンチだね、フィーナちゃん」
 もうすっかり返ってくる言葉を悟っていたのか、キオスは嘆く様子なく、さらりとそうつぶやいた。
 その横で、これまでこの馬鹿げた騒ぎを静かに聞いていたローシャルが、カップから手をはなし、すっと腰に手をやり、そこに携える剣にそっと触れた。
 そこには、まるでクレイとおそろいのように、ブルーの紐にブルーの石と鈴がついた星の騎士守りがついていた。
 石と鈴をきゅっとその手に包み込み、ローシャルは切なそうにフィーナを見る。
 見つめるフィーナは、楽しそうにキオスをいじめている。
 いつもなら、フィーナとのその触れあいの中に、ローシャルもいるのに……。
 すうと、ローシャルの胸が寒くなる。淋しさを覚える。
「そうそう、フィーナ、わたしももらっていないようだけれど?」
 それまで楽しげに様子を見ていたエイパスが、試すようにフィーナにそう問いかける。
 するとフィーナは、キオスいじめの手をぴたりととめ、冷めた視線をすっとエイパスに送った。
「うふふ。お戯れを。たとえキオス王子に一パーセントの可能性があったとしても、あなたには可能性の欠片すらありませんわ」
 フィーナはにっこり微笑み、きっぱり言い切る。
 それから、さっとエイパスから顔をそむける。
「これはこれは、わたしは嫌われたものだね」
「当たり前ですわ。あなたのような裏表なく、外も内もすべて真っ黒く染まっている人など、贈る価値もありません。できれば、かかわりたくもありません」
 エイパスに視線を向けることなく、フィーナはスコーンにたっぷりの薔薇のジャムをつけることに精を出している。
 それに気づいたクレイが、フィーナの手からスコーンをさっととり、かわりに薔薇のジャムとクリームをのせていく。
 どうやら、クレイはフィーナの好みを知っているらしい。おまけされたクリームに、フィーナは満足げな笑みを浮かべている。
「照れるから、あまり誉めないでくれよ」
 カップを持ち上げ、エイパスがフィーナににっこり微笑みかける。
 するとフィーナも、クレイから薔薇のジャムとクリームがたっぷりのったスコーンを受け取り、極上の笑みを浮かべてみせた。
「うふふ。本当に、常に間違った方向へ前向きな方ですわよね。うらやましいわ」
 その笑顔の下には、妙に禍々しいものが隠すことなく浮かべられていることには、もちろん触れてはいけない。
 あまつさえ、おほほほ……などと優雅に笑う声が聞こえてきそうなのは、きっと気のせいではないだろう。
 どうやら、最凶王女は、極楽鳥王子にとってもご立腹らしい。


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update:08/06/06