みんなの王子様
fake〜うそっこ王子〜

 アメリアは確認するように、恐る恐る令嬢たちをちらっと見た。
 すると令嬢たちは、怯えるアメリアなどおかまいなしに、三人仲良く話しはじめる。
「お針子のアメリアの腕がいいって、王子様べた褒めだったわよねー」
「そうよねえ、あそこまで入れ込むなんてねえ、あの王子様が」
「そんなに腕がいいなら、今度わたしも仕立ててもらいたいわ」
 くすくすと優美に笑いながら、お嬢様方は話に興じる。
 やはり、アメリアは一人ぽつんと取り残されている。
 今かわされている会話の内容がいまいち理解できなくて、アメリアはぽかんと間抜けに口をあけ、その様子を見ていることしかできないでいる。
 そのようなアメリアに気づき、令嬢の一人がおかしそうに微苦笑を浮かべる。
「あら、やだ、怖がらないで、いじめたりしないわよ。わたしたち、同士じゃない。王子様が大好きな」
 そして、そっとアメリアの手をとり両手で包み込む。
 アメリアの手を握るその手は、思いのほか優しくてあたたかい。
 アメリアはどうすればよいのかわからず、手を握る令嬢を探るようにおろおろと見つめる。
「あの、その……いいんですか? わたしはてっきり……」
「ふふふ。王子様のお気に入りだもの。誰も意地悪したりしないわ」
 アメリアの手を握る令嬢の肩にぽんと両手を置き、のぞきこむようにして他の令嬢がにっこり笑う。
「王子様の大切なものは、わたしたちにとっても大切なのよ」
「そうそう。何か困ったことがあれば、わたしたちに言ってくるといいわ」
 そうして三人、顔を寄せ合って、楽しそうにくすくす笑う。
 その目に宿る光から、彼女たちが決して口だけでそう言っているのではないと、アメリアにもなんとなくわかる。
 アメリアは、今のこの事態が理解できず、おろおろするしかできない。
 一体、何がどうなっているのだろうか?
 あの流れからすると、間違いなく、この令嬢たちはアメリアに因縁をつけるものだと思われたのに、実際にはその逆で……むしろ、とっても好意的。
「みなさんは、キオ――王子様のことがお好きなのですよね? それなのに……」
 アメリアは思い切って、そう確認してみる。
 どうしても、この事態が理解できない。
 王子様に対するアメリアの態度は、非難されることはあっても好意的にとられることはないと、アメリア自身もよく理解しているつもりだから。
 アメリアの問いかけに、令嬢たちはにっこり笑ってけろりと答える。
「ええ、大好きよ。だからみんな、王子様が大好きな仲間。仲間は大切にするわ。王子様はね、そういう醜いものが大嫌いだから。王子様に嫌われたくないもの、みんな」
「そうよ、王子様が望まないことは、誰もしないわ」
「そういうものなんですか?」
 いまいち納得できないといった様子のアメリアに、令嬢たちはどこかおかしそうに、そしてやはりけろりと言い放つ。
「そうねえ、そういうものねえ、わたしたちは。普通は違うみたいだけれど。誰も王子様を独り占めしたいと思っていないの。みんなの王子様だからいいのよね、王子様は」
 アメリアはやはり、ちんぷんかんぷんと首をかしげる。
 どうにも、その論理は、アメリアにはさっぱり理解できない。
 大好きな人を独り占めしたいと思わないなんて。
 アメリアならば、大好きな人は独り占めしたいと、自分だけを見て欲しいと思う。
 だからといって、無理強いしたりはしないけれど。
 大好きな人がみんなのものなんて、アメリアは耐えられない。
 大好きな人が他の人を見ているなんて、苦しくてたまらない。
 それなのに、この令嬢たちは、むしろそれを望んでいるようで……。
 みんなの王子様なんて、そんなの……。やっぱり、アメリアには理解できない。
「うふふ、あなたにはわからないかしら」
「でも、そのうちきっとわかるようになるわよ」
 難しく考え込むアメリアに、令嬢たちはおかしそうにやはりそう言い切る。
 そう言われると、ますますアメリアは大きく首をかしげる。ぐらぐらかしげる。
 さらに、令嬢たちが言っていることの意味がわからなくなってしまった。
 アメリアは頭を抱え、令嬢の言葉の意味に本格的に苦悩しはじめる。
 どんなに時間をかけたって、きっとアメリアにはその意味がわからないだろう。
 だって、令嬢たちが王子様が好きと言っただけで、アメリアの胸の内はこんなにざわついているのだから。
 あらためて、王子様は遠い存在だと確認するだけで、アメリアは息苦しくなる。
 胸が張り裂けそうに痛い。
 アメリアはやっぱり、みんなの王子様なんて嫌。
 けれど同時に、アメリアの王子様になることはないともわかっている。
 ――そもそも、みんなのとかアメリアのとか、そう考えることからしておこがましい。
 王子様とアメリアを同列に考えるのは、不敬罪に値する。
 アメリアは王子様に、そんな感情は抱いていない。ただ純粋に、敬うべき存在、そう思っている。思わなければならない。
 アメリアが憧れるのは、たった一人。三ヶ月ほど前に、アメリアの窮地を救ってくれたあの青年だけ。
 アメリアはあの時、きっとあの青年に恋をした。……恋をしたはず。王子様なんて関係ない。
 王子様と一緒にいるのは楽しいけれど、それは友達として。それだけ。それ以上であっては、決していけない。
 どんなに望んでも手に入れられないとわかっている人に特別な感情を抱くことほど、むなしいことはない。
 そもそも、それは抱いてはいけない感情。
 王子様――キオスは、友達。それ以上であってはならない。
 それも、王子様の好意で、アメリアは友達でいられる。


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update:09/06/17