恋する女の子の味方
fake〜うそっこ王子〜

 一方、件の王子様はというと、やっぱりというか何というか、今日も元気に若い娘たちをはべらせている。
 同時に、城下の人々から白い目で見られてもいる。
 あの王子、一体どうしてくれようかと、憎憎しく思っている若い男も少なくないだろう。
 だって、あの王子は、若い娘を独り占めしているのだから。
 しかも、たちの悪いことに、その娘たちが上玉ばかりというから、若い男たちは憎くて憎くてたまらないだろう。
「ねえ、王子様、お願いがあるのだけれど……」
「ん? 何?」
 娘の一人がキオスの腕に両腕をからませ、しなだれかかる。
 上目遣いに見つめる娘に、キオスは動じる様子なくにっこり微笑む。
「あ、あの、これを……。近衛のセイに渡してもらえないかな?」
 キオスの腕からすっと手をはなし、娘はぽっと頬を染め、細かな細工が施されたいかにも若い娘が好みそうな封筒をさしだす。
「ああ、うん、セイだね。いいよ」
「ありがとう、王子様!」
 キオスはにこにこ笑ったまま、娘の手からその封筒を受け取った。
 すると娘は、キオスの首にとびつき、ぎゅっと抱きつく。
 抱きつく娘をゆっくりはなしていきながら、キオスは変わらず微笑んでいる。
「うまくいっているようだね、よかった」
「うふっ。王子様のおかげよ」
 娘は嬉しそうに肩をすくめ、幸せそうにふふふと笑う。
 その娘の両肩にぽんと手をおき、他の娘が背からひょいっと顔をのぞかせる。
「王子様は、恋する女の子の味方よね!」
「だから、だーい好き!」
 その娘につづけ、他の娘たちも、口々にキオスにラブコールを降り注ぐ。
「そうそう、そんな大好きな王子様だから、わたしたちも応援しちゃうわよ!」
 そのうちの一人が得意げにそう宣言する。
 それまで少し困ったように、だけど微笑ましそうに娘たちを見ていたキオスが、不思議そうにくいっと首をかしげた。
「応援?」
「ええ、そうよ。王子様の恋の応援!」
 娘たちは顔を見合わせにやっと笑ったかと思うと、声をそろえて高らかに言い放った。
 キオスはぎょっと目を見開く。
 それから、やれやれと肩をすくめる。
 困った娘たちだと言いたげに、それでも愛しげに微笑をたたえている。
「恋の応援って……。君たち何を言い出すかと思えば」
「とぼけたって無駄よ。わたしたちには、ちゃーんとお見通しなのだから」
「そうよ、何しろわたしたちは、王子様のことが大好きだから、王子様のことなら何でもわかっちゃうのよ!」
 娘たちが楽しげにそう言ったかと思うと、また顔を見合わせ、「ねー?」と首を傾げあう。
 そんな勝手なことを言って楽しむ娘たちを、キオスははやり困ったように見て微苦笑を浮かべている。
 けれど、そんな娘たちを、キオスはやはり憎くは思えないよう。
 微苦笑を浮かべつつも、その目は見守るように娘たちを見ている。
 娘たちが楽しげに、そして幸せそうに微笑んでいることこそが、キオスの幸せとでもいうように。
 娘たちの幸せのためなら、キオスは無条件で何でもしそうなほど、瞳の奥に慈愛に満ちた光が宿っている。
 きゃっきゃきゃっきゃとキオスをよそに盛り上がる娘たちを見ていると、キオスの背でふいに驚いたような声が聞こえた。
「あ……!」
 その声にはじかれるように、キオスはぐるっと振り返る。
 するとそこに、その声の通りに驚きに目を見開き、キオスを見つめるアメリアが立っていた。
 アメリアのまわりには、キオスがよく見知っている楽しそうに微笑む娘たち。
 彼女たちも普段、今楽しそうに騒ぐこの娘たちとともにいる。
 その奇妙な取り合わせに、キオスは思わず小さく眉根を寄せた。
 彼女たちには申し訳ないけれど、ふと嫌な予感がよぎってしまった。
 けれど、次の瞬間には、キオスのその予感は吹き飛んでいた。
 アメリアが、彼女たちとともにいて戸惑っているようではあるけれど、決して嫌がっていないことに気づいたから。
 アメリアが嫌がっていなければ、困っていなければ、問題ない。
 何より、キオスが愛する娘たちに、そんな野蛮なことをする者などいない。そう信じている。
 彼女たちは本当に、きらきら光って幸せに満ちあふれている。花のように可憐な娘たちばかり。心が貧しいものなどいない。
 まして、キオスが嫌がることは絶対にしないはず。
 その考えは間違っていないようで、キオスとともにいた娘たちと、アメリアとともにやって来た娘たちは、互いに楽しげに目配せしてくすりと笑い合った。
 それから、どぎまぎとこの状況にぎこちなくいるアメリアの背を問答無用でどんとおす。
 アメリアはその勢いに負け、まっすぐにキオスの胸へ倒れこむ。
 キオスは慌ててアメリアを受けとめる。
 すると、それを確認して、娘たちはにやっとどことなく意地が悪い笑みを浮かべた。
「それじゃあ、王子様、頑張ってねー!」
 そう楽しげに叫びながら、娘たちは皆軽い足取りで、さっさとキオスを捨てて去って行った。
 先ほどまでとはうって変わり、やけにあっさりとキオスを捨てる。
 手のひらを返したようなその様子に、キオスはちょっぴり切なくなる。同時に、たっぷり困惑する。
 去っていく娘たちは、皆楽しげにころころくすくす笑っている。
 そんな娘たちの勢いに気おされ、アメリアはあっけにとられたようにぽつりとつぶやいた。
「な、何だったの? 今の……」
 キオスの腕の中で、アメリアは呆然と去り行く娘たちの背を見ている。
 キオスはアメリアを抱き寄せたまま、苦く笑う。
 キオスには、彼女たちが言いたいことが、なんとなく――いや、思い切りわかってしまったから。
 まったく、とてつもないおせっかいをやいてくれるものである。
 いや、おせっかいなどではなく、それはきっと勘違い。
 キオスは別に、アメリアのことは……。
 たしかにお気に入りの娘ではあるけれど、きっとまだそれだけのはず。
 キオスは、女の子なら皆平等に大好き。
 アメリアも、大好きな女の子の一人にすぎない。
 誰か一人を特別にするつもりはまだない。女の子は皆平等に大切にする。
 そのはずなのに、気づけば、顔のすぐ下でさわさわ揺れるアメリアの髪に、キオスはそっと唇を寄せていた。
 慌ててばっと顔をはなし、アメリアもぐいっと引き離した。
 いきなり慌てたようなキオスを、アメリアは不思議そうに見上げる。
 キオスはアメリアからさっと顔をそらし、片手で顔を覆う。
 アメリアはますます不思議そうに首をかしげている。
 そんな時、向こうの通りを、警邏兵が数人、ばたばたと駆けていった。
「ますます街が騒がしくなってきているね。なんだか嫌だな。クロンウォールは、もっとにぎやかで平和な方が似合っている」
 向こうの通りをにらむように見つめ、顔をくもらせたアメリアがぽつりとつぶやいた。
 キオスはアメリアのつぶやきにはっと気づき、慌てて顔を戻す。
 すうと、頬から熱が引いていく。
 そして、静かに相槌を打つ。
「俺もそう思うよ」
「キオス……?」
「ま、でも、アメリアが気にすることじゃないよ。俺たち……警邏たちが、どうにかしてくれるから」
 ぽんとアメリアの頭をなで、キオスはにぱっと笑ってみせる。
 アメリアは腑に落ちないといった様子でキオスをじっと見つめ、ふっと小さく苦笑した。
 それから、おどけたようににっこり笑う。
「うわー、王子様の発言とは思えないなあ」
「あははー。だって俺、どうしようもないちゃらんぽらん王子だもん」
 キオスもまた、おどけるようにけろりとそう言い放つ。
 アメリアは困った王子様ねと言いたげに、肩をすくめ笑う。
「もう、キオスはー。――でも、やっぱり普通じゃないよね。なんだか空気がぴりぴりしている」
 通りを見て、アメリアはどことなく険しい顔をする。
 キオスはそれには答えようとしなかった。
 アメリアに気づかれないようにきゅっと唇をかむ。
「なんだか、嫌い、こんなクロンウォール」
 アメリアは訴えるように、悲しげにキオスを見つめる。
 するとキオスはきゅっと顔をゆがめ、アメリアをすっと抱き寄せた。
「……大丈夫。なんとかするから」
「キオス?」
 アメリアはキオスの腕の中、不思議そうに見つめる。
 本来ならば、この腕から素早く抜け出さなければならないのだろうけれど、キオスの苦しそうなその顔を見ると、アメリアにはそれはできなかった。
 いくら友達とはいっても、キオスはやっぱり王子様なのだから、こんなに気安く接してはいけないはず。
 アメリアの中のどこかが、そう非難する。
 キオスがいくら気さくだからといって、王子様であることを忘れてはいけない。


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update:09/06/26