二人で昼食を
fake〜うそっこ王子〜

「だけど、本当に助かったよ。ありがとう、アメリア」
 キオスはにっこり笑い、ぽんとアメリアの頭をなでる。
 ずっと捜していたものが見つかりよほど嬉しいのだろう、アメリアのいつもと違う様子には気づいていない。
「これをなくしたのがばれて、フィーナちゃんに大目玉をくらったんだよなー。いやー、助かったよ、これでフィーナちゃんのお怒りがとけるよ」
 キオスに触れられさらに苦しそうに顔をゆがめたアメリアに気づくことなく、キオスはなおもうきうきしている。
 フィーナちゃんとは、王妃のことだろう。
 以前、お忍びの王妃とばったり会った時、キオスはそう呼んでいた。
 また、やはりばったり会ったマリーン夫人は、キオスにはただ一人本気の姫君がいると言っていた。
 そしてキオスは、その本気の姫君は、現在は王のお妃になっていると言っていた。
 では、キオスにそれを贈った人は、王妃ということだろう。
 やはりキオスは、飾り紐を大切に持ち歩くほど、必死に探しまわるほど、まだ王妃のことを……?
 アメリアは、何かをこらえるように、胸元をきゅっと握り締める。
「そうだ、お礼に何かご馳走するよ。何がいい?」
「え?」
 ふいにキオスに手をひかれ、アメリアは目をぱちぱちしばたたかせた。
「遠慮はいらないよ」
 アメリアのその行動を、キオスはそう勘違いしたらしくにっと笑う。
 アメリアは、別に遠慮をしてキオスを見つめたわけではない。
 ふいのその言葉、握られた手に驚いてしまっただけ。
 キオスに握られた手はそのままに、アメリアはすっと顔をそらす。
 キオスの顔をずっと見つめていることはできないけれど、せっかく握られた手ははなしたくなかった。
「だ、だけど、わたしはすでにキオスに助けられて……。むしろ、お礼をしなければいけないのはわたしの方だよ」
 アメリアはそらした顔を再びキオスへむけ、じっと見つめる。
 あまりにも真剣な顔でアメリアがそう言うものだから、キオスは少し気おされるように肩をすくめる。
「んー。それじゃあ、俺のお茶の時間につき合って。それがお礼ってことで、ね。ちょうど小腹がすいてきたんだよね。一人だと淋しいからつき合って。それですべてちゃら。……どう?」
 握るアメリアの手を少しだけぐいっと引き、キオスは得意げに笑う。
 アメリアは、そんなキオスをやっぱりじっと見つめる。
 本当は、そんなの嘘のくせに。
 キオスはアメリアに気を遣わせまいとして、あえてそう言っているのだろう。
 キオスのそのさりげない優しさが、アメリアの胸にじんわり染みる。
 アメリアだって、キオスのせっかくのこの気遣い、それでも嫌だと言えるほど強くはない。
 だって、キオスにおごってもらうとかはおいておいて、キオスと一緒にお茶をすることはとても嬉しいと思うから。
 できるならば、アメリアだってキオスとお茶をしたい。お茶を飲みながら、お話したい。
 それは、アメリアが心の底でそっと願っていることでもある。
 こんなチャンスを逃すほど、アメリアは人ができていない。
 首をかしげてアメリアの返事を待つキオスに、アメリアはちょっぴり眉尻をさげくすりと笑う。
「よろこんで」
 そうアメリアが答えた時には、キオスに手をぐんぐんひかれていた。
 どうやら、小腹がすいたというのもあながち嘘じゃないらしく、キオスには行きたいお店があるらしい。
 さすが、普段若い娘たちをはべらせているだけはある。
 城下の若い娘たちが好みそうなお店をよく知っている。
 いくらか角をまがったところに、水路に面したテラスを持つ小洒落た店がある。
 そこの露天のテーブルのひとつに、キオスは腰をおろす。
 アメリアもキオスに促されるまま、そこに座った。
 水路の上を通っていく風がテラスまでやってきて、よそよそ髪をゆらし心地いい。
 ちょうど真上辺りに達した太陽の光を浴び、水面はきらきら光っている。
 アメリアは、城下にこんなお店があるなんて知らなかった。
 それも当然かもしれない。
 普段、このように高そうなお店に、アメリアは入ることはないから。縁がないから。
 あまりにも場違いに思えて、アメリアがちらりとキオスを見ると、キオスはたんたんと給仕に注文をしていた。
「アメリア、何を飲む?」
 そして、見つめるアメリアに気づいて、キオスはにっこり微笑む。
「え、あ、あの……お、お茶。クロリーヌのお茶」
 アメリアが慌てて答えると、キオスは得意げに笑う。
「さすがアメリア、お目が高い。ここはクロリーヌ茶がいちばんおいしいんだ。俺もそれにしよっ」
 キオスはそう言って、給仕に注文の続きをする。
 どうやら、アメリアに尋ねたのはお茶だけで、食べ物はキオスが勝手に注文してしまったらしい。
 あまりもの手際のよさにあっけにとられつつも、アメリアは内心ほっとしていた。
 お茶くらいならまだどうにかなるけれど、ここで料理を聞かれてもアメリアにはどうすることもできない。
 だって、普段入らないお店なだけあり、品書きを見てもいまいちぴんとこないものばかりが並んでいる。
 ちんぷんかんぷんなので、アメリアでもどうにか大丈夫そうな値段の料理をとりあえず目で探す。
 どれもこれも結局、アメリアが普段食べないような値段の料理ばかり。
 アメリアはまた、ちらりとキオスを見る。
 するとキオスはテーブルに方肘をつき、アメリアをじっと見つめにっこり微笑んだ。
 その顔は、今のアメリアの戸惑いに気づいて、「大丈夫だよ」と落ち着かせようとしている。
 あえて「俺のおごりって言っただろう」と言わないあたりが、なんだかキオスの優しさのようにアメリアには思えた。
 キオスはキオスなりに、アメリアのことをいろいろ考えているのだろう。
 そして、体全部で「俺にまかせて」と言っているから、そうする方がキオスのためにもなるだろう。
 ここは下手に遠慮などせず、キオスの言うとおりにした方がきっといい。
 アメリアはむりむりそう思うようにして、素直にキオスとの食事を楽しむことにした。
 だって、こんな奇跡のようなこと、もう二度とめぐってこないかもしれないのだから、この限られた機会を大切にしなければならない。
 大切に過ごして、大切な思い出にすればいい。
 アメリアは思わず、ほわっと顔をゆるめてキオスをじっと見つめてしまう。
 なんだか目頭が熱くなって、涙があふれそうになった。
 嬉しくて、嬉しすぎて、アメリアはもうどうにかなってしまいそう。
 キオスがアメリアのために気を遣い、優しくすることが、壊れてしまいそうなほど嬉しい。
 そうしている内に、クロリーヌの花を乾燥させそれで作ったお茶が運ばれてきた。
 互いにちらっと目を合わせ、同時にゆっくり一口お茶を飲む。
 それにあわせるように、どんどん料理が運ばれてきた。
 これは小腹がすいたからちょっとお茶でもというレベルじゃない。普通に昼食をとる勢い。
 たしかに、ちょうどお昼時なので、それでもかまわないだろう。


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update:09/09/21