命にかえても守れ
fake〜うそっこ王子〜

 野菜をたっぷり使ったパイをほおばりながら、キオスは何気なくつぶやいた。
「ところでアメリア、命を狙われるような心当たりはない?」
 それはあまりにもさらっと告げられたので、アメリアは一瞬何のことかわからなかった。
 食事の手をそのままに、ぽかんとキオスを見る。
 だって、そんなこと、普通、そんなにたわいなく口にできるものじゃない。
 それに、命を狙われるとは、どういうことだろう?
 先ほどのことを言っているのであれば、あれはキオスが狙われていたのではないだろうか?
 けれど、キオスはいちばんにアメリアの安全を確保していた。
 そして、今思えば、キオスは襲撃者たちからアメリアを守るように戦っていたよう。
 では、やはりそうなのだろうか?
 狙われたのは、キオスでなくアメリア?
 けれど、どうして?
 アメリアには、そんな心当たりはまったくない。
 心当たりどころか、わざわざアメリアの命を狙って得をするような人なんて絶対にいない。アメリアはそんな立場にはない。
「心当たり……? そんなのはな――あっ!」
 けれど、そこまで言いかけて、アメリアの脳裏にさっと奇妙な光景がよぎった。
 そういわれれば、そしてあえてそう思えば、アメリアはいつもと違う行動をしたことがあった。
「どうした!?」
 キオスは食べかけのサラダをぽいっと放り出し、アメリアへぐいっと上体を寄せる。
 アメリアは少し気おされるように、難しい顔でつぶやくように言う。
「も、もしかしたらあれかな? 一週間くらい前に、キオスと会う前に間違って裏通りに近づいちゃったんだよね。あのりんごの時だよ。それくらいしか、いつもと違う行動は……」
「そ、それだ!」
 キオスはどんとテーブルをたたき、声を荒げて言い放った。
 アメリアは思わず、ぐいっと身を引く。
 いつものキオスとは違い、どことなく乱暴な振る舞いに見える。
 それに、たったそれだけで「それだ!」と言い切れるほどの情報はなかったはず。
 それなのにそう言い切るということは、もしかしてキオスにはすでにある程度予測できていたのだろうか?
 そして、アメリアの言葉で確信した?
「キオス?」
 キオスの勢いに負け、アメリアはおろおろとした様子で顔色をうかがう。
 するとキオスは、すっと席を立った。
「ちょっとごめん、アメリア」
 そう言ったかと思うと、キオスは水路へ続く階段へ歩いていく。
 このテラスからは直接水路横の遊歩道に出ることができるようになっている。
 何段か階段を下りた辺りで、キオスは立ち止まった。
 その様子を、アメリアは不思議そうに見ている。
 アメリアからは死角になり見ることができないけれど、階段の陰にシュリが忍ぶように控えていた。
「シュリ、どうした?」
 キオスは訝しげにシュリに問いかける。
 どうやら、そこにシュリがいることに気づき、キオスは席を立ったらしい。
「キオス王子、城へお戻りください。かこまれています」
 キオスの問いかけに許しを得たと判断し、シュリは険しい顔で耳打つように告げる。
 キオスも瞬時に顔をひきしめ、視線だけをぐるりとめぐらせた。
 そして、押し殺すような声でつぶやく。
「ああ……。ふーん、そうか、そうきたか。それでシュリ、あの逃げ遅れた覆面は何かはいたか?」
「いえ、まだ。しかし、時間の問題かと」
「そう……」
 キオスは何かを考えるようにぴたりと動きをとめ、ぽつりつぶやいた。
「シュリ、俺は戻らないよ」
「え!? キオス王子!?」
 シュリはぎょっと目を見開き、キオスを見つめる。
 そのシュリの顔にすっと顔を近づけ、キオスは耳打った。
「それと、クレイへ伝言を頼まれてくれない?」
「はい……?」
 シュリはすっとキオスへ視線を向け、難しい顔でとりあえずそう答えてみた。
 そして、ちょいちょいと招きよせるキオスに従い、さらに耳を寄せる。
「ほ、本気ですか!?」 
 二言三言キオスが何かをささやいたかと思うと、シュリはぎょっと目を見開きキオスを見つめた。
「もちろん」
 キオスはにやと得意げに笑い、シュリの胸倉をつかみぐいっと引き寄せる。
 そして、すごみをきかせて言い放った。
「シュリ、いいな。命にかえてもアメリアを守れ」
 シュリはじっとキオスを見つめ、ごくりとのどを鳴らした。
 それを諾の意と判断し、キオスはシュリの胸倉から手を放し、何事もなかったように楽しげにアメリアのもとへ帰っていく。
 シュリはどことなく不安そうに、キオスの後ろ姿を見つめていた。
 一体、あの王子は何を考えているのかとでも言いたげに。
 シュリはなんとなく、キオスが噂されているような王子と少し違うような気がしているのだろう。
 誰もキオスの護衛をしたがらないので、半ば仕方なく気にかけてはいるようでもある。
 その関係で、シュリはこうして今はキオスと行動をともにしている。
 すると、噂で言われているようなちゃらんぽらんが正しいのだろうかと、だんだんわからなくなりつつあるのかもしれない。
 王からも当のキオスからも護衛の必要はないといわれているから好きにさせているけれど、今キオスが扱っていることはとても危険なことに変わりない。一国の王子が自らすすんでするようなことではない。
 事実、今こうしてかこまれているのだから、キオスはもう少し危機感を持ってもいいだろう。
 自分の身はなおざりなのに、ただの街娘を命をかけて守れとまで言っている。
 こんなむちゃくちゃな王子、シュリは他に知らない。
 シュリにはますますキオスが理解できなくなった。
 まあ、しかし、利害関係上、ここはキオスにしたがっておいた方がいいだろう。


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update:09/10/01