死よりももっと
fake〜うそっこ王子〜

「アメリア……!!」
 クレイを振り払い、キオスはアメリアへ駆け寄り、そのままぎゅっと抱きしめた。
「やだっ、それ以上は聞きたくない」
 アメリアはそのままキオスの胸にしがみつき、そこで泣き叫ぶように言い放つ。
 がくがくと体全部が大きく震えている。
 キオスはきゅっと顔をゆがめ、もっと強くアメリアを抱きしめる。
 強く強く抱きしめる。アメリアの中から苦しみをしぼりとるように。
「アメリア……」
 苦しげに、キオスはくぐもった声でアメリアの名をつぶやいた。
 それは、アメリアがずっと知りたいと願っていた事実。
 けれど、実際にその時をむかえ、つきつけられた事実は、なんと残酷なのだろう。
 しかもそれは、まるで虫けらを殺すように、せせら笑いながらもたらされた。
 こんなに残虐なことはない。
 キオスはぎりっと歯を鳴らし、すっとアメリアを引き離した。
 そして、ぐるりと振り返り、そこに嘲るように立つアエトスをにらみつける。
「ちっくしょー! 絶対に許さねー! ぶっ殺してやる!!」
 そう叫び、キオスはばっと立ち上がり駆け出そうとする。
 同時に、キオスの腕がぐいっと引かれた。
 不思議に思いばっと振り返ると、キオスをまっすぐに見つめキオスの腕をひくアメリアがいた。
 その目からは、ぼろぼろ涙がこぼれている。
「ア、アメリア!? どうしてとめるんだ!? あいつらが、あいつらがアメリアの……!!」
 困惑気味に叫ぶキオスに、アメリアはふるふると首を横に振る。
 そして、すうとひとつ、大きく呼吸をする。
 震える声が、アメリアの青ざめた小さな唇からもれる。
「キオスを人殺しになんてしたくない。人を殺しちゃったら、あの人たちと同じになっちゃうよ」
「アメリア……」
 体いっぱいで苦しみ嘆いているのに、それでもアメリアはキオスを案じている。
 自分の心を投げ出してまで、アメリアはキオスを思っている。
 どこまでも優しいその心根に、アメリアの強さに、キオスは自分を恥じるようにきゅっと唇をかむ。
「キオス、お前の負けだよ。この娘の言うとおりだよ」
 ぐらぐらゆれ悩むキオスの肩にぽんと手をおき、クレイが微苦笑してみせる。
 キオスはクレイをじっと見つめ、そしてふうと大きく息を吐き出した。
 それから、悔しげにこくんとうなずく。
「安心なさい、キオス王子。死よりももっと辛い思いを味わわせてあげるから。あなたのお兄様とわたしの弟がね」
 兵たちの間から優雅に現れたフィーナが、にっこりと悪魔の笑みを浮かべる。
 ころころ笑うその姿に、キオスはさあと顔色を失っていく。
 しかも、さりげなく、フィーナ自身ではなく他人にその役をおしつけている辺りが抜け目ない。自らの手は決して汚そうとはしない。
 この状況でそう言えることもそうだけれど、何より、こんな危険な場所に楽しげにやってくるその王妃様に、キオスは得も言えぬ恐怖を感じてしまった。
 本当に、このようなところに自らすすんでやってくる王妃がどこの国にいるだろう。
 そして、そんな王妃の強行をとめない王もどうかと思う。
 もちろん、そんな二人相手だから、近習たちが制止できないのも当然の結果。
 キオスがちらっとクレイを見ると、あははと愛想笑いを浮かべた。
 つまりは、王の力をもってしても、王妃のわがままはとめられないということだろう。……わかっていたけれど。
 けれど、フィーナのその常識外の行動のおかげで、キオスはずっとためらっていた何かを吹っ切れたこともたしかだろう。
 キオスは腕をつかむアメリアをさっと抱き寄せ、すっと顔をあげる。
 陽光を浴び、そこに颯爽と立つ。
 ……ところで、どうしてそこで、フィーナの弟がでてくるのだろう?
 ふと、キオスがその疑問にいきあたった時だった。
「そのようなことを言っていられるのは今のうちですよ、王妃。こちらには人質がいるのですから」
 アエトスは不敵に笑みを浮かべると、先ほどアメリアに襲いかかろうとして矢によって阻まれた覆面へ向け、さっと手をあげた。
 同時に、その覆面はキオスの腕の中からアメリアを奪い取り、首に剣をぐいっとおしつけた。
 一瞬の出来事に、キオスもクレイも手も足もでなかった。
 油断した。
 目の前でみすみすアメリアを人質にとられてしまい、キオスはぎりっと唇をかむ。血がにじむ。
 覆面はアメリアの顔に自らの顔を近づけ、首につきつける剣をなめるような素振りをする。
 同時に、アメリアは「え?」と小さくつぶやいたかと思うと、不思議と体からすっと力が抜けた。
「さあ、この娘の命が惜しければ剣を捨て道をあけなさい!」
 アエトスとアメリアを抱える覆面が、互いにじりじり歩み寄る。
 アエトスはどこか焦りの色をにじませつつも、変わらず憎らしいまでにふてぶてしい笑みを浮かべている。
「んー、どうしようかな?」
 しかし、そんなアエトスに対し、クレイはなんともあっけらかんとそう首をかしげた。
「な……っ!? 娘の命が惜しくないのか!?」
 アエトスがそう叫ぶと同時に、キオスがクレイにつかみかかった。
「クレイ! お前、アメリアを見捨てる気か!?」
 胸倉をつかみあげるキオスの手をあっさり解き放ち、クレイは呆れたようにふうとため息をもらす。
「まあまあ、落ち着きなさい、キオス」
 そして、アエトスへすっと鋭い視線を流す。
 またつかみかかろうとするキオスの腕を難なくおさえつけ、クレイは静かにアエトスに問いかける。
「その見てはいけない現場とは、プルレインの取引現場だね。しっかりネタは上がっている。――マリーン嬢がもたらしてくれたこの書類でね」
「……なっ!?」
 クレイは得意げににっと笑いそう告げ、胸元からさっと書類らしき束を取り出す。
 そして、アエトスの足元へざっと投げつける。
 ひらり舞った一枚の書類に目を落とし、アエトスは明らかな動揺の色を見せた。
 まさか、そこまで突きとめられているとは思ってもいなかったというように。
 しかも、それが、マリーンからの報告とまでは夢にも思っていなかったのだろう。
 びくりと震えるマリーンの肩を、フィーナが安心させるようにそっと抱き寄せた。
 キオスに協力したとはいえ、やはりマリーンも女性、恐怖を感じないわけがない。


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update:09/11/22