君を見つけた
fake〜うそっこ王子〜

 フィーナは一瞬むっとしたように口のはしをゆがめ、そしてやはり誰もを魅了するような妖艶な笑みを浮かべる。
「あら、けれど、キオス王子は許しているわよ。それで十分じゃない」
「お、王妃!?」
「それに、考えてごらんなさい? この王子相手に女性に身分を求めるなど、高望みもいいところよ。このような王子でもいいという奇特な女性がいるなんて、ありがたいことじゃない」
 にっこり微笑み、フィーナはちらりとキオスを見る。
 キオスは困ったように肩をすくめ、微苦笑を浮かべた。
 そして、おろおろとするアメリアを、重臣たちから守るようにもう少しだけ抱き寄せる。
 どんなに言われたって、キオスはアメリアを譲る気もあきらめる気もない。
 それを体全部で示す。
「し、しかし……っ」
 けれど、重臣たちは、フィーナにびくびく怯えつつも、執拗に食い下がる。
 ここであきらめては、身分違いの娘を認めることになるので、それだけはどうにか避けたいらしい。
 フィーナは、不満げにむっと頬をふくらませた。
 そして、やって来ていたクレイの腕をぐいっと抱き寄せ、そこに頭をもたれかけた。
「なーに。それじゃあ、クレイさまとわたくしでは、不足とでもおっしゃるの?」
 フィーナとクレイは互いに顔をあわせ、重臣たちにそろってにっこり笑ってみせる。
「う……っ」
 先ほどまでとは違い、重臣たちの間に明らかな動揺、そして戦慄がはしった。
 まさか、王と王妃ともにそんな笑顔の圧力をかけるとは思っていなかったらしい。
 この二人がほがらかに微笑めば微笑むほど恐ろしいことを、重臣たちはよく知っている。
「このような王子、はじめからいないものと考えた方が、クロンウォールのためじゃない?」
 とどめとばかりに、やはり二人そろってにっこり微笑む。
 それは一体、誰に対してのとどめだったのか……キオスは考えたくもなかった。
 間違いなく、キオスに対するとどめ、あてつけ。
「た、たしかに……」
 しかも、よりにもよってその言葉で、とうとうあきらめてしまったのか、それとも今度ばかりは納得せざるを得なかったのか、重臣たちは悔しそうに声にならないつぶやきをもらす。
 たしかに、キオスに関してはそう言えないこともない。
 はじめからいないものと考えた方が、重臣たちにとってもクロンウォールにとっても有益になるだろう。心の平穏をたもてる。
 キオスは、それくらいに困った王子。
 重臣たちの渋々の白旗を認め、フィーナとクレイは楽しげにくすくす笑い出す。
「やっぱり俺って、そういう扱いなのね……」
 フィーナのあまりもの言いようもだけれど、それにはあっさりうなずく重臣たちにももう何も言えず、キオスはがっくり肩を落とした。
 すると、フィーナはぐいっとクレイの腕を引きながら、少しだけキオスとアメリアへ近寄った。
 それから、すっと手をのばし、キオスの腕の中のアメリアの頬にふうわりと触れる。
 先ほどまでとは違い、フィーナは見守るような優しげな光を目にたたえている。
「ねえ、アメリアといったかしら? このようにどうしようもないへっぽこ王子だけれど、よろしくね。こんなのでも、一応わたくしたちのかわいい弟だもの」
 アメリアは目を見開き、まじまじとフィーナを見つめる。
 くいっと少しだけ首をかしげてうなずくフィーナに、アメリアはくしゃりと顔をくずした。
「王妃さま。……はい、ありがとうございます」
 そして、今にも泣き出しそうなほどうるむ瞳でフィーナを見つめ、満面の笑みを浮かべる。
 フィーナはクレイの腕を引き、その場に戸惑うようにたたずむ重臣たちを促し、そのまま部屋を出て行こうとする。
 優雅に歩きながらも、重臣たちを乱暴に蹴散らすその姿の、なんとりりしいことか。
 しかも、フィーナに腕をひかれるようにしているクレイなどは、なんと恐ろしく重臣たちを威圧していることか。
 二人そろってにこやかに笑いつつ、有無を言わせず重臣たちを追い払っている。
 その様子を、キオスは複雑そうに微笑を浮かべ、ちょっぴりやられたといったふうに見送る。
 そうして、扉が閉められた。
 扉の向こうの廊下から、何故だか禍々しい空気が流れてきているような気がするのは、恐らくキオスの気のせいではないだろう。
 今頃は、重臣たちは、あの二人にどんな残酷なお仕置きをされていることだろう。
 キオスはおいておいて、アメリアを侮辱した報復は、間違いなくクレイとフィーナがしてくれている。
 呆れだとかあきらめだとか恐怖だとか安堵だとか、いろいろな感情を込めて、キオスがふうっと大きくため息をついた時だった。
「だけど、本当にわたしなんかでいいの?」
 キオスの腕の中で、アメリアが不安げにキオスを見つめる。
 キオスはぱちくりと一度まばたいて、得意げににっと笑った。
 アメリアの茶色い髪をひと房、その手にとる。
「俺は絶世の美女が好きなんだ」
「知っている」
 アメリアは眉尻をさげ困ったように微笑を浮かべ、肩をすくめる。
「誰よりも美しく純粋な心を持った女性、絶世の美女をずっとさがしていた」
 キオスは上目遣いにアメリアを見つめつつ、手にとるひと房の髪にそっと唇を寄せた。
 一瞬、アメリアの瞳が悲しそうにゆらめいた。
 髪に口づけをされたことにうろたえるより、キオスのその言葉の方がアメリアを打ちのめす。
 わかっていたことだけれど、あらためて言われるとひどく胸が痛む。
 アメリアは、絶世の美女などではないから。
 きゅっと唇をかみしめるアメリアの手を、キオスはおかしそうに笑いながらすっととる。
 それから、ゆっくりアメリアの体を少しだけはなし、とった手をふわりと両手で包み込んだ。
「そして、アメリア、君を見つけた」
「キオス……?」
 まっすぐに真剣に見つめるキオスを、アメリアは目を丸くして見つめる。
 胸の痛みなどさっと消えうせ、今はどきどきばくばく弾んでいる。
 それは、一体どういう意味なのだろうか?
 胸の痛みはなくなったけれど、今度は頭の中がぐるぐるまわりはじめた。
 キオスは両手でにぎるアメリアの手に顔を近づけ、そこにそっと口づけを落とした。
 そして、アメリアに、世界中の幸せいっぱい独り占めしたような優しい笑みを落とした。
「アメリア、俺は君でなければ嫌だ」
 瞬間、アメリアの目からつうっと涙が一筋伝い落ちた。
 そしてそのまま、アメリアは自らキオスの胸の中に飛び込んでいく。
 キオスは喜びに満ちあふれたように微笑み、飛び込んで来たアメリアを力いっぱい抱きしめる。
 普段からいっぱいいっぱいわがまま放題の王子様だけれど、今度のわがままは究極のわがまま。
 これまでのわがままを封印したっておしくない、何よりもかなえたいわがまま。
 このわがまま以外は、いらない。

 近頃城下で流行るもの。
 隣国アルスティルからの高品質農作物。
 緑の観光王国エメラブルーの景勝地めぐり。
 軍事大国バーチェスとの永世友好条約、またの名を仲良し宣言。
 そんな話題があふれ、城下は今日も活気に満ちている。
 この国にはもう、年頃の娘は王子に絶対見せるなという不名誉な警告はない。
 そこにあるのは、この国の困った王弟の、幸せいっぱいの恋物語。


fake〜うそっこ王子〜 おわり

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update:09/12/19