危険なパーティー
ダイスキ

「茗子ちゃん、おそろいね?」
 目の前で、そうにっこりと微笑むブルーのドレスのお嬢さん。
 あまつさえ、すっと腕をのばしてきて、そのままわたしの腕をからめとる。
 それから、ぎゅうっと抱きしめ、嬉しそうににこにこ微笑む。
 頭のまわりに、音符やら花やらが飛びかっていることは……あえて無視。スルー。
 気にしたら、その時点で終わりのような気がしてならないから。
 ブルーのふわふわドレスの裾をふわりとまわせ、アップにした髪につけたブルーの髪飾りをしゃらんと鳴らす。
 なんだか……見た目だけは――そう、見た目だけ≠ヘ――良家のお嬢様のこのお嬢さん。
「あかりちゃん……。うん」
 そんなお嬢さんに、すでにどことなく疲れを覚え、一応相槌をうつ。
 うっておかないと、なんだかとっても、後々、面倒なことになりそうな予感がするから。
 あかりちゃんの言う通り、わたしのドレスは、あかりちゃんとおそろい。色違い。
 あかりちゃんがさわやかなブルーなら、わたしはかわいいピンク。
 どうしてこういう色になったの? 逆でもいいじゃないって言ったら、夏樹とあかりちゃん、二人そろって、妙に真剣に言ってきた。
「茗子(ちゃん)は、ピンクと決まっているの! っていうか、それしかあり得ない」
 ……だから、どうしてそうなるのよ?
 それに、あり得ないって何!?
 なんか、ピンクなんて着ちゃうと、子供っぽくなっちゃうような気がするのだけれど……。
 ほら、だってこの男、あかりちゃんとは反対側のすぐ横にいるこの男、鼻の下をでれーんとのばし、「茗子、かわいい」なんて言っちゃってくれているから。
 さすがに、こういう場所では声には出さないみたい。だけど、その目がきっちりきっかりそう言っている。
 大っ嫌い。
 ――それにしても……やっぱり、この二人って、同類のような気が、果てしなくしてならないわ。
 そんなわたしにまとわりつくあかりちゃんのすぐ横では、どこか呆れたように意識を遠くへはせる京也さんがいる。
 嗚呼。この京也さんも、普段から、あかりちゃんには振りまわされっぱなしなのね。きっと。
 ……お気の毒に。
「ねえ、ところで夏樹。このパーティーって何なの?」
 あかりちゃんに大人しく腕一本を提供して、横の夏樹のタキシードの袖をちょんとつまんでみる。
 こういうところにきたら、夏樹なんてさっさとわたしを放り出し、挨拶まわりとかにいっちゃうのかと思っていたけれど……なんだか、そういう様子はない。
 だけど、そのうち、少しくらいは、挨拶まわりをしなくちゃならないのだろうけれど。夏樹のその立場上。
 それはまあ、京也さんにもいえることなのだけれど。
 京也さんも、ずっとわたしたちについてくれている。
「……ああ。鳳凰院の分家が主催する、毎年恒例、『お世話になっている方々に、日頃の感謝をこめてパーティー』だよ。だから、建前上、当主のぼくも呼ばれているというわけ。そしてやっぱり、世間体で、ぼくも出席せざるを得ない……と」
 にっこりと微笑み、さらっとそんな問題てんこもりなことを言ってくれちゃう。
 っていうか、それって、とってもとっても危険じゃないの!?
 それに、このパーティーが分家主催なんて聞いていないわよ!
 それが、いちばん問題だというのに。
 夏樹、一体何を考えているの!?
「って、あんた! そんなところによく――」
 だから、即座に、わたしもそう叫ぶわけで……。
 だけど、案の定、最後まで言い切らないうちに、遮られてしまったけれど。
 夏樹のキスによって。
 だから、この男、TPOというものを、少しは考えてくれないかしら!?
 いつでもどこでもおかまいなしに、キスしてくるのだから。
「大丈夫だよ。さすがに、こんなに人目があるところでは、表立っては何もできないから」
 そんなことを言いつつ、夏樹ってばくすくす笑う。
 たわいないとばかりに。
 ふわりと、ひと房、わたしの髪を手にとる。
 そしてそこに、当たり前のようにキスを一つおとしてきて……。
「まあ、逆に言えば、陰に隠れてならしちゃうかもねー」
 むぎゅうっとさらにわたしに抱きついてきて、あかりちゃんってば、けろっとそんなとんでもないことを言ってくれる。
 ――あ、あかりちゃん。あなたって……。
 やっぱり、あかりちゃんの横では、頭をかかえる京也さんがいて……。
 というか、なんだか話がかみ合っているような気がするのは……京也さんたちも、あのことを知っているということ?
 鳳凰院の分家連中が、わたしを狙っていること。
 ふーん……。
 そんなことを話せちゃうくらい、夏樹と親しいんだ。
 知らなかった。だって、夏樹の知り合いと会ったのだって、この二人がはじめてで……。
 夏樹、あまりわたしを人目に触れさせようとしないから。
 その理由も、ちゃんとわかっている。
 危険だから……。ゴキを一掃するまでは。
 ――ん? そう思えば……だったらどうして、今回、こんな場所にわたしを連れてきたの?
 やっぱり、どこか腑に落ちないわ。
「それじゃあ、茗子。ぼくたちは、ちょっと席をはずすよ。さすがに、少しは相手をしておかないと、後々うるさいから」
 そうして、名残惜しそうにわたしの髪から手をはなしていき、夏樹は悲しそうに言ってくる。
 その腕を、京也さんにひかれながら。
 あららっ。
 ちょっと考え事をしている間に、状況は展開しちゃっていたのね。
 ふーん。やっぱり、仲良しさんなのかもしれないわね。
 夏樹が、こんなに素直に京也さんに従っているのだもの。
 そうか。こんな極悪悪魔でも、ちゃんとつき合える人もいるんだ。
 ――意外。
 名残惜しそうに、悲しそうに京也さんに腕をひかれていく夏樹を、あかりちゃんと一緒に、ひらひら手をふり見送る。
 あかりちゃんなんて、どこか楽しげに見送ってくれちゃって……。
 それにしても……あの夏樹を、簡単にあしらえちゃうなんて、この兄妹、侮り難しっ。
 そうして、夏樹と京也さんは、人の中に消えていった。
 それが、なんだかちょっぴり、淋しい。
 そんな淋しさを覚えたわたしの耳に、ふとあかりちゃんの落ち着いた声が聞こえてきた。
「あのね、今日ここにきたのはね、茗子ちゃんの暇つぶしのためだよ。それに、わたしが一緒にいるのは、いわば、茗子ちゃんの護衛かな? わたしに手を出してくる馬鹿はいないから。だから、絶対に一人になっちゃ駄目だよ」
 伏目がちに、にこっと微笑む。

 ……そっか。そうなんだ。
 夏樹も……そしてあかりちゃんたちも、わたしのことを考えてくれていたんだ。
 普段、めちゃくちゃなことをしているけれど……。
 わたしって、本当、守られているのだな〜……。
 なんて、つくづく思っちゃう。
 そんなのに、ぬくぬくとひたっているような茗子さまじゃないけれど……今は、我慢。
 ゴキ一掃が終わるまで、大人しく守られていてあげる。
 何もできないわたしが唯一できることが、それだと思うから。
 夏樹たちの邪魔にならないように、夏樹たちの思い通りになっていてあげる。
 今は。今だけは。
 ゴキを一掃しちゃった後は、どうするかわからないけれどね?

 本当、わたしのまわりの人たちって、にくい奴ばかりよね?


「あれー? あれって、由布くんだよね?」
 けろりとした、あかりちゃんの明るい声が耳のすぐ横でした。 
 本当に、あかりちゃんって、なんて変わり身の早いことで……。
 さっきまでは、あんなにしおらしかったのに。
 ――というか、由布って?
「え?」
「ほら、あそこ。向こうの扉の近くにいるの」
 きょとんと首をかしげるわたしの腕をぐいぐいと引き、あかりちゃんは向こう≠フ方を指さす。
 すると、本当に、向こうの扉の方に、会話をしている由布の姿があった。
 見かけないと思っていたら、そんなことろにいたんだ。
 いつもとはちょっと違う、どこか落ち着いた大人の雰囲気をかもしだして。
 ふーん。由布でも、ちゃんとしようと思えばできちゃうんだー……。
「本当……。由布も一応、鳳凰院の分家だったものねー……」
 あかりちゃんと二人、肩を寄せ合って、そこをじいっと見つめる。
 なんだか、由布の動向が気になっちゃって。
「まあねー。今は、由布くんの家は、分家の中ではそこそこ力がある方だから」
 まっすぐにそこを見たまま、あかりちゃんはけろっとそう教えてくる。
 それにちょっぴり驚いちゃって、まじまじとあかりちゃんの顔を見てしまう。
「そうなの?」
「うん。二年くらい前だったかな? 有力分家をぶっつぶしちゃったからね、夏樹さん」
 ちらっとわたしに視線を向けた後、またまっすぐに由布を見て、やっぱり平然とそう言ってくる。
 どことなく楽しそうなのは……やっぱり気にしちゃいけないところ?
 ……そういえば……それって……寿の一件?
 だけど、由布、一体、何を……誰と話しているのだろう?
 その人たちは、誰……?
 まっすぐ、由布を見つめる。

 わたしって……本当、何も知らないんだ。鳳凰院のこと。
 知りたいと思っても、夏樹がそれを許してくれない。
 協力したいと思っても、わたしはただ守られていることだけしかできない。
 だけど、それが、わたしにできる、精一杯の協力だということもちゃんとわかっているから……。
 でも、やっぱり、淋しい。
 わたしにも、教えて欲しかったな。そういうこと。夏樹の口から。
 どんなことでもいいから、夏樹に教えてもらいたい。
 急に心がすうっと寒くなって、思わず、わたしの腕を抱くあかりちゃんの腕をぎゅっと握ってしまっていた。
 すると、それに気づいたあかりちゃんが、ふわりと微笑む。
 かと思うと、次の瞬間、とってもステキに極悪色をたたえた、にやり笑いを浮かべてくれた。
「ねえ、茗子ちゃん。盗み聞きしちゃおうっ!」
 そんなとんでもない言葉をそえて。
 だからもちろん、わたしはぎょっとあかりちゃんを凝視するわけで……。
「え? ちょっと、あかりちゃん!?」
「ほらほら。そこのついたての後ろに隠れるのだー!」
 そんなむちゃくちゃなことを言って、ぐいぐいとわたしの腕を引っ張っていく。
 それに抗うことができず、わたしもずるずる引きずられていって……。
 ああ。もう! あかりちゃんってばっ!
 どうして、みんな、こうもめちゃくちゃな人ばかりなの!?


 ――だけど……うん。たしかに、それはわたしも気になる。


* BACK * NEXT *
* TOP * HOME *
update:05/10/23