どのくらい好き?
(3)

「へえ〜。茗子、とっても嬉しいよ。それよりも、指は大丈夫? なめてあげようか?」
 当然のことながら、茗子をぼくが解放するはすがない。
 きゅっと胸に抱いたまま、茗子の白くて綺麗な手をすっととる。
 そこには、絆創膏がはられた左人差し指があったから。
 別に、針で指をさしたくらいで、絆創膏をはる必要はないだろう。
 だけど、そこが針でさした場所とわかるように、久能がわざと、むりやり絆創膏をはったに違いない。
 それはもちろん、このことを知った時のぼくの行動を予測し、おもしろがって。
 久能という男は、そういう男だから。
 最近、ぼくと一緒に、ぼくの行動をおもしろがっている。
 ……まあ、いいけれどね。
 だって、久能は、ぼくが望むことをお膳立てしてくれるから。
 茗子で遊ぶ。
 そんな楽しい時間を、久能はお膳立てしてくれる。
「な、夏樹……!?」
 茗子は、当然のことながら、ぎょっとぼくを凝視した。
 もちろん、その顔はいまだに真っ赤っか。
 本当に、茗子ってかわいいよね。
 絆創膏がはられた茗子の指にもてあそぶように触れ、そのままそこにはられた絆創膏をゆっくりとはがしていく。
 そして、現れた、茗子の白く長い指。
 そこには、たしかに針でさしたような、小さな赤い点。
 それに、そっと口づけてみた。
 同時に、ちらっと茗子を見上げ、にこっと微笑んでみる。
 瞬間、茗子の体ががくんとゆれた。
 と同時に、くずおれていく。

 ……へ?

 思考が停止しそうになったけれど、そこはどうにかこらえて、ぐっと茗子の体を支えてみる。
 すると茗子は、ぼくの腕の中、くるくると目をまわしていた。
 完全に……のぼせている。

 ……くすくすくす……。
 あはははははっ!

 茗子。
 君って、本当にかわいいね。
 そして、ぼくに望んだものをくれる。
 幸せを運んできてくれる。
 なんて、なんて愛しい存在なのだろう。

 どうやら茗子は、こんなことくらいで、腰がくだけてしまったよう。
 キスした時だって、キスマークをつけた時だって、こんなことはなかったのに。
 ……本当、楽しいよね。茗子。
 どんなことで、どんな反応を見せてくれるのか、毎回毎回、楽しみで仕方がない。
 当然、予想外のこの展開に、久能はぽけっと、間抜けに口を開けていた。
 久能ですらも、かなり驚いたようだ。
 茗子の、この意外な結末に。
 まあ、ぼくだって、あまりにも意外すぎる茗子の反応に、一瞬、思考が止まってしまいそうになったくらいだけれどね?
「夏樹も久能さんも、大大大大大っ嫌い〜っ!!」
 十八番の言葉を叫び、茗子は、ぼくの腕の中で、無駄に大暴れしてみせる。
 本当にかわいいな〜。茗子って。


「夏樹。馬鹿はそれくらいにして、早く夕食にしようよ。俺、腹が減った」
 ぼくと茗子の楽しいひと時をぶち壊すがごとく、そんな言葉がふいにぼくの耳に入ってきた。
 声のした方へちらっと視線をやると……そこには、呆れた顔をして壁にもたれかかる由布の姿。
 ……お前は、また来ていたのか。性懲りもなく。
 いくら来たって、茗子はやれないけれどね。
「由布……。どうしてお前まで……」
 あからさまに嫌そうな顔をして、嫌そうな声をだしてやった。
 しかし、由布にはそんなものはまったくきいていない。
 それもわかっていたことだけれど……。
 本当に、腹が立つな〜。この男も。
 久能も桐平も腹が立つけれど、この由布以上に腹が立つ男は、恐らく、今のぼくのまわりにはいないだろう。
 茗子が気を許していることをいいことに、いつもちょろちょろと茗子のまわりをうろつきやがって……。
 ……ムカつくな。

 ――人選……間違ったかな?
 茗子の護衛に、由布を選んだこと。
 まあ、そんなことを言っても、今さらという気が限りなくして、この上なく嫌だけれど。
「茗子に誘われたのだよ。たまには、由布も一緒に夕食をしようって。夏樹と二人だけだと、どこかの誰かさんが、すぐにおかしなことをしたがるからってさ」
 くすっと試すように笑い、ちらっとぼくに視線を流してきた。
 ……つまりは、それは宣戦布告ということかな? 由布くんっ。
 いい根性をしているじゃないか。
 わかっていたことだけれど。
 本当に……腹立たしい男だな〜……。
 それにしても、おかしなこととは失礼だね。茗子。
 それもこれも全部、全ては、ぼくの愛情表現なのに。
 ……まあ、時折、多少、度を越していることは……認めてあげないこともないけれど?

「それよりも、夏樹。俺、ずっと聞きたかったのだけれど……。鳳凰院の壊滅後、夏樹はどうするつもり? 俺は自由がきくけれど……夏樹はそうもいかないでしょ?」
 ふいに、由布がそんなことを言ってきた。
 もちろん、ぼくは一瞬、ぽかんとしてしまった。
 まさか、こんな時にそんなことを聞かれるなんて、思いもよらないじゃないか。
 それとも……こんな時だから、こんなふざけたことをしている時だから、聞けること?
 まあ、どうでもいいけれどね。
 もうずっとずっと前から、答えは決まっている。
「鳳凰院の名を捨て、狩野の名を名乗るよ」
 ぼくのその答えを聞いて、茗子も由布も久能も、ぽかんと口を開いた。
 まったく……。そんなに予想通りに反応しないでくれるかな?
「だから、茗子にお婿にもらってもらうから、平気っ」
 瞬間、茗子の華麗なる平手打ちが、ぼくの左頬に炸裂した。
 「まじめに答えなさいよっ!!」という、怒りに満ちた怒声とともに。
 ……あながち、嘘でも、ふざけてもいないのだけれどな〜……?
 鳳凰院の名なんて、この先ずっと名乗ってなどいたくないから、結婚後は、茗子の姓を名乗るということ。
 これは、茗子の両親にも打診していることだし……。
 まあ、今はいいか。
 冗談とか、ふざけているとか思われたって。
 茗子には、いずれ、ちゃんと話すから。
 もちろん、邪魔者なんていない、二人きりの時。


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update:04/09/12