いたずらキス
(2)

 その後、お目当ての久能さんだけ書斎から引っ張り出し、リビングへとやってきた。
 ……はずなのに、やっぱりいるのよ。この男たちもっ。
 まあ、この男たちが一緒にやってくるなんて、わかりきったことだったけれど。
 夏樹に、由布っ!
 本当にもう、なんてワンパターンな男たちなのかしら。
「はい? かぼちゃを用意して欲しいと?」
 そんな二人を前に、久能さんが、目を見開き、聞き返してくる。
 どうやら、「かぼちゃ」という単語が、わたしの口から出るなんて思ってもいなかったらしい。
 だけど、でる時もあるのよ。時期によっては。
「うん。ランタンを作りたいの。おっきな、かぼちゃのおばけ」
 そう。だってもうすぐ、ハロウィンなのだもの。
 この屋敷って、どうもそういうイベント系には弱いらしく、クリスマス以外、ちょっと淋しいのよねえ。
 だから、今年は、茗子さまが、思い切り盛り上げてあげようと思って。
 屋敷のあちこちに、とりわけエントランスホールに、手作りかぼちゃのおばけを並べるの。
 そして、夜には明かりを落とし、火をともし……。
 ああ、なんてロマンチックなのかしらっ。
 ――いいっ! 我ながら、ナイスアイデアよね!?
「……茗子さまが……ですか?」
 なのに、このバトラーったら、そんな訝しそうな眼差しを向けてくる。
 本当、失礼しちゃうっ。
「何よ? その疑わしげな目は」
 じろりとにらみつけてやる。
 ここまで話がすすんできているというのに、夏樹も由布も口をはさんでこないというのが、ちょっと不思議だけれど。
 こういうイベントの時って、絶対二人は邪魔してくるはずなのにね?
 まあ、それはそれでいいわ。
 もしかしたら、夏樹も由布も、ハロウィンなんてお祭り、知らないのかもしれないし。
 だって、このご子息さまたちってば、そういうイベントをあまりしたことがないみたいだし。
 茗子さまがやってきたからには、世間のイベントは全制覇よ!
 ……これまで、そういう楽しいことを、すべて諦めてこなきゃいけなかった夏樹のためにも。
 わたしが、夏樹に、いっぱいいっぱい、楽しいことを教えてあげる。
 それが、わたしが夏樹にしてあげられる、精一杯のことのように思えるから。
「いえ……その、大丈夫ですか? 茗子さまに刃物なんて持たせたら、心配で目をはなせませんよ」
「だから、それ、どういう意味よ?」
 じりっと久能さんに詰め寄り、もう少し強いにらみを入れる。
 なんだか、答えが予想できちゃう辺り、すでに胸の辺りがむかむかなのだけれどね。
「え? そのままですよ。危なっかしくて見ていられません。そして、ランタンなど、夢のまたゆ――」
 久能さんは、何故だかそこで言葉を切った。
 おかしいわねえ?
 ただちょっと、みぞおち辺りに、ごすっと拳をお見舞いしてあげただなのにねえ?
 それくらいで、言葉を切ってしまうなんて。
 忠実かつ優秀なバトラーのはずでしょう? 久能さんってば。
 それくらいじゃへこたれない、無敵のバトラーじゃなかったっけ?
 ……っていうか、まったく、失礼しちゃうわねっ。
 そりゃあ、わたし、料理をさせたら、天才的な結果を生み出すけれど、工作はまたべ、別……よねえ?
 ――なんだか、ちょっと自信がないけれど。
「と、とにかく、ランタンを作るのー! 作るったら、作るの!」
 なんだか思いっきり腹が立ってきたから、そうして駄々をこねてみる。
 そうすると、このバトラーは折れると知っているから。
 普段は、こういうわがままは言わないのだけれどね。
 でも、なんかバトラーのその言動にムカついたから、わがままを言わせてもらうわ。
 っていうか、わたしがハロウィンをしたいって言ったら、反対なんてできないはずだけれど。
 ほら、すでに、久能さんの後ろでは、ご主人様が、にっこりと微笑んで、「かぼちゃ、用意してあげて」と言っているじゃない?
 それには、さすがのバトラーも、絶対に逆らえない。
 だって、忠実なバトラーだものね?
「はいはい。わかりました。ですが、ちゃんと由布さまに手伝ってもらってくださいね」
 呆れたように言ったかと思うと、同時に念を押すように、じっと見つめてくる。
 ちょ、ちょっと待ってよ。
 きゅ、急に迫ってこないでよね。
 なんか、調子狂うじゃない。
 せっかく、珍しく――ん? 珍しくー?――わたし優勢ですすんでいるのにっ。
「どうしてそこで、由布がでてくるのよ!?」
 ちょっと苦しまぎれに、もう一度にらみを入れる。
「だって、夏樹さまはお忙しいですし……。由布さまは、まあ、夏樹さまよりはご多忙ではありませんので」
 にっこりと、やっぱり腹立たしいくらい、さわやかに微笑む。
「それ、答えになっていないわ」
「ですから、茗子さまが怪我をなさらないように、監視が必要だと言っているのですよ」
 やれやれと肩をすくめ、言い聞かせるように身を乗り出してくる。
 その後ろでは……夏樹と由布が、うんうんと首を縦にふり、とっても同意している。
 ……む、むーかーつーくー。
 そろいもそろって、わたしを何だと思っているのよ!?
 あーもー。みんなみんな――
「大嫌い!!」
 そう言い放ち、リビングを後にしていく。
 なんだか、背後で、くすくすと楽しそうに笑う声が、三通りほど聞こえるけれど……。
 この際、無視よ、無視!
 気にしたら、余計に腹が立つから!
 それにしても、本当に……あの男たちなんて、大嫌いっ!


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update:05/10/30