カウントダウンキス
(2)

 茗子と桐平のうきどきクッキングタイム開始。
 もちろん、講師は桐平さんで、そのアシスタントがわたし。
 久能さんは、たんなる野次を飛ばすギャラリーね。むしろ、いない方がいいお邪魔虫ね。
 お煮しめにするために、しいたけやこんにゃくに飾り包丁を入れる手を、桐平さんはふととめた。
「茗子さま、ご存知ですか? おせちのひとつひとつには、意味があることを」
「え? うん。それだけはね。でも、どれが何なのかは……」
 栗きんとんをつくるために、皮をむいたさつまいもとたっぷりの水、そこにガーゼに包んだくちなしを入れ火にかけ、くるんと桐平さんへ振り返る。
 いきなり声をかけられたから、びっくりしちゃったじゃない。
 でもまあ、いいタイミングではあったかしら?
 だって、やわらかくゆであがるまでしばらくは、暇だもん。
 桐平さんはふわりと微笑み、こくんとうなずく。
 そして、久能さんが用意した、久能さんの横におかれた椅子に腰かけるよう促してくる。
 むー。あまり気はすすまなけれど、仕方がないわねー。
 ただぼうっと立って待っているのも、辛いし。
 久能さんの横ということだけはいただけないけれど、仕様がないわ。
 そろそろ相手をしてあげないと、このバトラー、すねちゃうから。
 わたしが座ったことを確認すると、桐平さんは満足そうにもう一度うなずいた。
 それから、すでに仕上がっていた黒豆を入れた器を、ひょいっと持ち上げる。
「そうですね。たとえば、これ。夏樹さまもお好きなこの黒豆は、まめに暮らせますようにという意味があるのですよ」
「へー……」
 桐平さんが持つ器の中から、一粒黒豆をつまみ、ひょいっと口へ放り込む。
 すると、その横から久能さんも一緒になって、手をのばし、つまみ食いをする。
 ……っていうか、やっぱりムカつく。
 この黒豆、やっぱりそうなのよ。
 夏樹好みに、甘さを超ひかえめにしてある。
 夏樹、桐平さんがつくるこの黒豆、たしかに好きなのよねー。
 ちょっぴりおもしろくなく、口をもぐもぐ動かす。
「田作りは五穀豊穣、伊達巻は勤勉、お多福豆は福を招来する、ぶりは立身出世、紅白なますは平和を願い、その他にもいろいろと意味がありますよ」
 もうひとつつまみ食いしようとのばした手をぴたりととめ、桐平さんの言葉に聞き入ってしまった。
 珍しく、桐平さんがすごいって思っちゃったわ。
 だってわたし、本当に、おせちの意味なんて全然知らなかったんだもん。
 こうして聞いていると、けっこうおもしろいわねえ。
 なんだか、横の久能さんが、とっても意外そうな顔をしているけれど。
 それって間違いなく、わたしにしては珍しく、素直に桐平さんの言葉に耳をかたむけている。天邪鬼で素直じゃないわたしは、あえて思っていることと反対のことをするのに、とでも言いたそう。
 まったく、失礼しちゃうわね。
 わたしだって、そこまで天邪鬼じゃないわよ。
 自分が知らないことには、しっかり耳をかたむけることも、……まあ、たまにならあるわよ。
 むうっと頬をふくらませ、ぎろりと久能さんをにらみつける。
「あ、そろそろ、さつまいもがいい感じにゆであがったようですよ」
 すると、久能さんは慌ててそう言って、火にかけたお鍋を指さす。
 ……まったく、いい言い逃れができたようね。
 たしかに、お鍋の中のさつまいもは、いい感じにゆであがったみたい。
 桐平さんが確認して、わたしを手招いているから。
 もう、仕様がないなー。
 まだ、もうちょっと久能さんに恨みを伝えたりないところだけれど、それじゃあ、いきますか。
 さつまいも裏ごしねりねりタイムー。
 すっくと立ち上がり、そそくさと手に木べらを持ち、戦闘準備完了!
 あ、そうそう。この時、忘れてはいけないのが、これ。
 大量のお砂糖!
 尋常じゃないほど大量のお砂糖!
 ええいっ、シロップと水あめもたっぷりおまけしちゃえっ。
 なんてわたしって、太っ腹なのかしら。
 普通こんなに甘さを強調なんてしてくれないわよね?
 むしろ、さつまいもや栗がもつ自然の甘さだけでも十分かもしれないけれど、もったいぶらないところが茗子さまなのよ。
 ……ふふふっ。とっても楽しみだわ。
 うきうきわくわくと、さつまいもをねりねりしていると、ふと気づいた。
 今、桐平さんは、数の子と里芋と橙を、とっても楽しそうに重箱につめていっている。
 それに、そこはそう、そしてそれはこう、などと、並べ方にこまかく指示を出す久能さんもいて……。
 それってもしかして――。
「……ねえ、ちょっと待って。桐平さん、さっきの話からすると……」
 ねりねりする手をぴたりととめ、じとりと二人をにらみつける。
「そうですねえ。数の子に里芋に橙。これらはすべて、子宝、子孫繁栄を願う――」
 実に楽しそうににっこり笑いそう言いかけた桐平さんに、思わず、持っていた木べらを投げつけていた。
 けれど、わたしの素敵なコントロールのおかげで、それは桐平さんにはあたらず、憎らしく笑う久能さんに見事命中。
 だ、だ、だってだってだってー、それってつまりは!?
 思わず目に涙をいっぱいため、顔を真っ赤にして、力の限り怒鳴っていた。
「やっぱり、そういう魂胆だったのね! 絶対に絶対にぜーったい、それだけは食べてなどやるものですか!」
 やれやれといったように、桐平さんは、床に落ちた木べらを拾い上げている。
 その横では、木べらを投げつけてやったにもかかわらず、動じる様子なく、久能さんがにたにたといやらしい微笑をうかべていた。
 きいっ。悔しい!
 本当、何なのよ、この使用人コンビは!
 ばんと、作業台をたたきつけ、あまりの悔しさのため、その場でじだんだを踏んでいた。
 その時、ゴーンゴーンと、どこからか、消え入るような大きさで、鐘をつく音が聞こえてきた。
 そういえば、もうそんな時間になっていたのね。
 気づかなかったけれど、一体、いつからつかれていたのだろう?
 百八つのうち、今は何番目?


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update:08/01/01