かぼちゃパーティー
だって好きなんだもん

 翌日、正午ちょっと前、場所を狩野家に移した。
 狩野家にやって来た時には、お庭ではすでに、狩野家の使用人さんを総動員しパーティーの準備がはじまっていた。
 今日は小春日和でお天気もいいし、ガーデンパーティーにするみたい。
 もちろん、狩野家のことだから、準備が終われば使用人さんたちもパーティーに参加するだろう。
 準備されるこの数から、そしてこの家の雰囲気から。
 狩野家は、主とか使用人とか関係なく、よくこうしてみんなでいろんなことをして楽しんでいるものね。
 それは、茗子ちゃんがやってきてから。それは、茗子ちゃんのわがまま≠ノよるものらしい。
 狩野家のいろいろな人から、笑顔でそう教えられた。
 庭に足を踏み入れると、茗子ちゃんの帰りを今か今かと待ちわびていた夏樹さん、そして優しげに微笑む由布くんが出迎えてくれた。
 もちろん、茗子ちゃんの姿を見つけるやいなや、夏樹さんは茗子ちゃんに駆け寄り奪うように抱きしめた。
 それを、由布くんが呆れたように見て、夏樹さんの耳をひっぱり強引に引き離す。
 それから、夏樹さんの恨み節がはじまったけれど、由布くんはどこ吹く風といったようにそれをさっくり無視して、お兄ちゃんと一緒にパーティーの準備を手伝いはじめた。
「あかりちゃん、座る時、それは膝の上においておくんだよ」
 夏樹さんから解放されると、茗子ちゃんはわたしのもとへやって来て、ぽそっとそう耳打ってきた。
 それとは、わたしが抱えてきた大きくもなく小さくもない袋。
 この中には、うさぎのぬいぐるみが入っている。
 しかも、ただのうさぎのぬいぐるみじゃない。
 由布くんにもらったピンクのうさぎのぬいぐるみ。それに、かぼちゃの仮装をさせている。
 昨夜、茗子ちゃんが夏樹さんに電話をしていたかと思うと、今朝早く狩野家の人がうちにやって来て、この仮装グッズをおいていった。
 急遽用意したためだろう、サイズは微妙に大きくてあっていない。でも、不恰好なほどではない。
 茗子ちゃんが言うには、由布くんもこのうさぎのことは覚えているはずだから、「こうして大切に持っています、由布くんがくれたものだから」と、さりげなくアピールしろということ。
 意図がいまいちよくわからないけれど、なんだかうまくまるめこまれ、そそのかされるまま、うさぎさんに仮装をさせ、こうして持ってきてしまった。
 まあ、たしかに、頭にかぼちゃをのせ、かぼちゃんのまんまるお洋服を着せたうさぎのぬいぐるみは、かわいいけれど。
 だけど、だからって、それが、茗子ちゃんが言う「大切に持っています」につながるのだろうか? アピールになるのだろうか?
 とりあえず、さからっても後が面倒だし、言われるままにしておくけれど。
 よくわからないけれど、さすが茗子ちゃん、わたしじゃ絶対にできない発想だなあとは、つくづく思うよ。
「あかりちゃん、ちょっといいかな」
 とんと肩をたたかれ、由布くんがまわりをはばかるように耳打ちしてきた。
 訳がわからず、思わずじっと見つめてしまう。
 すると、由布くんはわたしの返事を待たずに、そのままみんなから少し離れた木の下へ引っ張っていく。
「由布くん、どうしたの?」
「ああ、実は……」
 胸に、さっき袋から取り出したかぼちゃうさぎをぎゅっと抱き、探るように由布くんを見る。
 すると、由布くんはそう言いかけて、はっと目を見開いた。
 かと思うと、くしゃりと顔をくずす。
「それ、そのぬいぐるみ、あの時の?」
「え、あ、うんっ!」
 胸に抱くぬいぐるみを指差し、由布くんはおかしそうに笑う。
 わたしは、慌てて大きくうなずいた。
 茗子ちゃんが言う通り、由布くんはこのぬいぐるみのことを覚えていた。
 やだ、嬉しいよー。
 茗子ちゃん、やっぱりなんだかよくわからないけれど、感謝!
「かわいいことするなあ。今日のパーティーにはぴったりだね」
 由布くんはそう言うと、わたしの腕にあるかぼちゃうさぎの頭をぽんとなでる。
 それから、少しうつむいたかと思うと、意を決したように顔をあげた。
「あかりちゃん、あの時は、ごめん」
「え?」
「俺、無神経だったよね、あんなこと……。あかりちゃんを傷つけたよね」
 何のことかわからず目をぱちくりすると、由布くんは苦しそうにつぶやいた。
 ……あ、そうだった。忘れていた。
 昨日のパーティー会場でのことが頭を占め、大切なことを忘れていたよ。
 忘れていたけれど、わたしたち、喧嘩していたんだ。
 ううん、喧嘩にも至らないほどのものだった。
 ただわたしが一方的に怒っていただけ。
 わたしのお見合い話に由布くんが発した言葉に。
 そうだよね、よく考えると、由布くんにはいい迷惑だよね。とんだとばっちり。由布くんは、ごくごく一般的なことを言ったにすぎないものね。
 思い通りにならなくて、わたしはただ、由布くんにもどかしさをぶつけ、八つ当たりしただけなんだ。
「ううん、いいの。わたしの方こそごめんね」
 ふるふる首をふり、由布くんをじっと見つめる。
 由布くんは困ったように微笑を浮かべ、一度首を横にふった。
 そして、何かを少し考えたかと思うと、由布くんは再びまっすぐわたしを見つめてきた。
「あの後、茗子に怒られたんだ」
 わたしの腕を握り、由布くんはくいっとひっぱる。
 それから、木にとんと背をつけ、わたしを向き合わせる。
 え? ちょっと待って。どうして、茗子ちゃんのことが……?
 それに、怒られたって?
「家のことなんて考えず、いい加減、自分の気持ちに素直になれって」
「え? 由布くん、それって……」
 由布くんは困ったように首をかしげ、目を細める。
 わたしは思わず、前のめりになり由布くんに迫っていた。
 由布くんは、自嘲するようにふっと笑った。
「だけど、どうしても駄目なんだよ。どうしても、やっぱり俺はあかりちゃんには釣り合わないよ。今はもう何の力も持たない鳳凰院の生き残りだから」
「そんなの関係ない。だって、好きなんだもん!」
 由布くんがそう言うと同時に、その胸をどんとひとつたたいていた。
 そんなのないよ、そんなの関係ないよ。そんなの、理由にしないでよ。卑怯だよ。どうして、今さらそんなこと……。
 そんなことを言われなくたって、もう十分すぎるくらいわかっているよ。わかった上で、わたしは……。
 ううん、そうじゃない。由布くんは、自分で自分を卑下する必要なんてないんだよ。だって、もう十分、由布くんは――。


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update:10/11/09