迷惑な出会い
(3)

「それで、そろそろいいかね? このニ人に自己紹介をさせてやっても?」
 いまだ首をひねる柚巴に、さあその話題はおしまい、本題本題と言わんばかりに、幻撞が話を切り替えてくる。
「え? あ、うん」
 それに慌てて柚巴が返事をした。
 やはり、頭はまだぼうっと、あらぬことを考えていたけれど。
 そんな柚巴に苦笑すると、幻撞は虎紅と芽里に目配せをした。
 すると二人はこくんとうなずき、虎紅がすっと一歩前に歩み出た。
 そして、柚巴に向かい一礼をする。
「幻撞の弟子、虎紅と申します。以後、お見知りおきを」
 虎紅がそう挨拶を終えると、今度は鬼栖を持ったままの芽里が一歩前に出てきて、同じく柚巴に一礼した。
「同じく、芽里と申します」
 そして、にっこりと微笑む。
「え……。あ。柚巴です。よろしくね」
 戸惑いながらも、柚巴はそう答え微笑んだ。
 どうも柚巴には、この二人のこの態度が理解できていないようである。
 二人のこの態度、それは、どう見ても、柚巴を目上の者として扱っている……そのようなものだったから。
 柚巴には、そのように接される覚えはまったくないのだから、どうしても首をかしげずにはいられなかった。
 そうやって首をかしげる柚巴に向かい、芽里がおずおずと話しかけてくる。
「あの……。つかぬことをおうかがいしますが……」
 そして、柚巴の横でふんぞり返っている世凪にちろっと視線を送る。
 そんな芽里の訳のわからない行動に、柚巴は首をさらに横にたおしていく。
 まったくもって、先ほどから、柚巴には訳のわからないことずくめである。
 鬼栖が間違って人間界へ行くと大事になるからはじまり――
「あなたはたしか、王子との婚約が伝えられた、御使威家のご令嬢ですよね?」
 芽里は胸にぎゅっと鬼栖を抱き、ずいっと柚巴につめ寄った。
 そして、じっと柚巴の目を見つめる。
「え? ああ、うん」
 柚巴は芽里のその迫力に、思わず小さくのけぞり、そして頬をほんのり染めて、もじもじと体をよじらせる。
 そんな柚巴にかまうことなく、芽里は先を続ける。
「そのあなたが一緒にいるということは、その方がもしや……?」
「違います」
 再び世凪にちろっと視線を送ろうとした芽里を邪魔するように、柚巴の言葉がさっくりと飛び出てきた。
 そして、どこか涼しい顔をしている。
 その態度は、柚巴の大切な友達、多紀のそれを思い起こさせる。
 ……そう。もう、決して会うことのかなわなくなってしまった、大切な友達、多紀――
 彼はもう、二度と柚巴の前に、人間の少年、多紀として現れることはない。
 柚巴に、柚巴の身に課せられた使命を告げ、柚巴の前から去っていった。
 それは、あまりにもあっさりしたものだったので、今でも柚巴の心にぽっかりと穴をあけたままである。
 もう会うことはできないけれど、だけどやはり、多紀は柚巴の中にはっきりと存在している。
 いつもひょうひょうとして、つかみどころのない男だった。
 だけど、柚巴には優しかった。
 もう二度と、庚子をからかい、そしてじゃれ合う姿を見ることはない――
「え?」
 あまりにもさらりと柚巴が答えたものだから、芽里は拍子抜けしたようにぽかんと口を開けた。
 そんな芽里の肩を、呆れながら虎紅がぐいっとつかむ。
「芽里。その男は、あの世凪だぞ」
 赤髪長髪、黒マント。それはたしかに、世に聞く世凪の姿。
「ええ〜っ!?」
 ずだだだだあ〜と、凄まじい勢いで芽里が後ずさる。
 そして、びたんと壁にその背をはりつけた。
 しかし、もうへまはしないぞとばかりに、その両腕にはきっちり鬼栖が抱かれている。
 芽里の、必要以上のリアクションの大きさに、むすっとしてふんぞり返っている世凪の眉がぴくりと動いた。
 ふんと馬鹿にするように、芽里に一瞥を下す。
 そんな世凪の不機嫌などおかまいなしに、虎紅がたんたんと語りはじめる。
「世凪といえば、破天荒で有名だ。そんな奴と王子を一緒にするとは、とんでもないことだ。そして、聞けば世凪は、王子との結婚が決まる前から、柚巴殿をつけまわしていたというではないか……」
 そして、いかにも世凪にあてつけているかのように、はあっと大きなため息をもらした。
「そうですね。言われてみればそうです。すみません。変なことを聞いてしまって」
 芽里は、いまだ壁にへばりついたまま、ひくひくと頬の筋肉をひきつらせ、どうにか誤魔化し笑いを浮かべる。
 当然、世凪はさらにぶすっと表情をゆがめ、ついにはぷいっとそっぽを向いてしまった。
 せっかくの柚巴との二人きりの時間を邪魔されたあげく、この言われよう。
 さすがに世凪も、とことんおもしろくない。すねずにはいられない。
 しかし、邪魔したという理由で、幻撞と虎紅と芽里に、ここで即座に攻撃を加えなかったのは、世凪も少しは成長したということになるだろう。
 少しは、我慢というものを覚えたらしい。
 それは多分に、柚巴が影響していることも、また、周知の事実である。
 柚巴は、虎紅の言葉と世凪のこの態度に、あははと愛想笑いをするしかなかった。
 そして、そんな若者たちから一歩ひいて、幻撞は涼しい顔でその様子を眺めていた。
 世凪の至福の時も、困った使い魔たちによって、すぐさま、たわいもなく、ぶっつぶされてしまうのである。


* TOP * HOME *
update:04/01/13