思いの力
(1)

 こんな色気のないところに、さらに色気のない集団がある。
 松明の灯りから、少しはなれた城の下。
 見上げれば、闇の中に吸い込まれるようにたつ比礼城。
 そのいちばん内側の城壁に、色気のないこの集団の姿がある。
 六人と一匹。
 男ばかりの、はなのない集団。
 しかも、その六人と一匹。
 それぞれに、とっても個性的で、扱いが面倒な男たち。
 二人は王族らしく俺様横柄不遜男で、二人は真面目が靴をはいて歩いているような男。
 一人は、冷たいのか熱いのかわからない、銀髪が目にまぶしい男。
 残り一人は、いつもにこにこ顔の、何を考えているのかわからない老人。
 そして、おまけの一匹は……黒いだけの役立たず球体。
「鬼栖。わかったな? お前は今からそちらへまわれ」
 六人の男に見下ろされ、つんつんとけられる鬼栖。
 しかも、その蹴っている男は、この世で最も嫌いな男、世凪。
 何故嫌いかというと、それはもちろん、この傲慢な態度が気に食わないから。
 ――鬼栖とて、人のことを言えた義理ではないはずだけれど――
 そして、何より気に食わないのは、いつも柚巴を我が物顔で独占していること。
「はいはい。わかっていますよーだ。まったく、人使いが荒い王子だな」
 げしげしっと蹴ってくる世凪の足を、ばしんとたたき、その足から逃れる。
 そして、ふいっとななめに体を向け、そこでふっと哀愁めいたため息をもらしてみる。
 それを見た世凪に、さらにいじめられることなど、目に見えているはずなのに……。
 鬼栖ときたら、まったく成長しない。
「ん? 何か言ったか?」
 妙に黒いオーラを発する世凪の顔が、鬼栖の顔にぐいっと近づいてきた。
 腰に手をあて、腰をまげて。
 もちろん、額に青筋を浮かべたその顔で、にたりと微笑みを浮かべて。
 瞬間、鬼栖の体がかちんと凍りつき、動きを失うことも、また当たり前で……。
「わかったら、さっさと行け!」
 そう怒鳴られ、やはりまたげしっと蹴飛ばされる。
 その拍子に、ころんと、見事な三回転を披露する。
 そして、ぶつぶつとつぶやきながら、まんまるの体を起こしてくる。
「けっ。お前なんか、柚巴に嫌われてしまえっ!」
 へっと鼻で笑うように、挑発的な笑みをのぞかせる。
 もちろん、それを見逃してなど、聞き逃してなどいない世凪の足が、再び鬼栖に襲いかかってくる。
 ぐに〜と踏まれ、ぐにぐにと地面にすりこまれる。
「……そんなに死にたいなら、今すぐ殺してやろう」
 すっかり地面に埋まってしまった鬼栖に、にやりとそう微笑むたちの悪い王子様。
 鬼栖はどうやら、王子様の逆鱗に触れてしまったらしい。
「負け犬の遠吠え」
 そんなすばらしく弱いものいじめをしている王子様の横で、紫の髪が印象的な王族様がぼそりとつぶやく。
 あまりにも的を射すぎた、その言葉……。
 たしかに、負け犬の遠吠え。
 しかし、その負け犬の遠吠えは、世凪を打ちのめすには十分すぎる。
 柚巴に嫌われる。
 それは、王子様にとって、死ぬよりも辛いことだから。
「それよりも、あれは人ではないですよね? 小悪魔使いと訂正しておいた方が……」
 さらにその横で、妙にまじめに考えこむ王子様の従僕。
 この闇の中でも、そこだけがやけにきらきらと銀の光を放っている。
 どんなところにあっても、その見事な銀髪は色あせることはない。
「そこ、論点違っていますよ」
 さらにその横で、やはり真面目に言葉を発する、術師見習い。
 ぐにぐにと小悪魔を踏みつける王子様の横で、それぞれ好き放題言っている。
 それが王子様の怒りに、さらに拍車をかけることなど……当然、お見通しで。
 た、たちが悪すぎる。
「お前たち、うるさい!」
 ぶちぶちぶち〜と見事な音をたて、血管を破裂させ、大爆発。
 もちろん、その影響は、ある一点にだけいくことを彼らは知っているので、これといって慌てた様子などない。
 妙に涼しい顔で、その後の成り行きを見守る。
 たまったものではないのが、この一匹だけ。
 いまだ世凪の足の下で、おもしろいくらいに地面に埋まっていく鬼栖。
 鬼栖が埋まるまわりに亀裂が入りそうなほど、執拗に踏みつける。
 それに気づいた梓海道が、ひょいっと世凪の足の下の鬼栖をのぞきこむ。
 そして、ざっくりと痛烈な一言。
「おや。まだいたのですか? そんなところに」
 当然、鬼栖が世凪にいたぶられていることなど知っているはずなのに、さらりと言い捨てる、氷のような男。
 まあ、梓海道にとっては、世凪と柚巴以外、どうでもいいのだろうけれど。
 特に、このような小悪魔などは。
 いるだけ、目障り。
「むっき〜! 俺様、お前らなんて大嫌いだあ!!」
 こんなかわいそうな状況にあるにもかかわらず、誰一人として情けをかけてくれないことに、鬼栖はとうとうぶっちぎれた。
 相変わらずの世凪の足の下で、そう叫び散らす。
 それが、さらにこのたちの悪い男たちに、興をそそいでしまうことなど露にも思わず。
「くすくす。はじめて意見が一致しましたね」
 にっこりと、由岐耶のさわやかな笑顔が降ってきた。
 瞬間、鬼栖の思考は、ちーんという音を立て、停止。
 同時に、しでかしてしまった失態……失言に、気づく。
 墓穴をほったようなもの。
 こんなにさわやかに、痛い一言を言われたのははじめてだったのだろう。
 再起不能となり、ようやく鬼栖は世凪の足の下から解放される。
 そして、ぐったりと地面に寝そべる鬼栖の上では、何事もなかったかのように会話が続けられていた。
「それにしても……今日はやけに騒がしいですね」
 ふと、気づいたように由岐耶がつぶやくと……誰ともなしに、それに同意していた。
「そういえば……」
 生ける屍となっている鬼栖などさらっと無視し、六人は互いに顔を見合わせる。
 まるで、何かを確認し合うかのように。
 それが、鬼栖はどことなくおもしろくない。
 まるで自分一人……一匹だけ、のけものにされているようで。
 まあ、事実、意識的にのけものにされているのだろうけれど。


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update:05/06/07