ありのままの君で
(3)

「守ってもらうことに、後ろめたさなんて感じることはないよ。きっと、みんな守りたいからあんたを守っているだけだ。本能のままに守っているだけ。守りたいって言ってるのだから、大人しく守らせてやっておけばいいのだよ」
 すっとひざまずき、柚巴を見つめる。
 まるで、それは、柚巴に言いきかせるように語られている。
 そのような唖呂唖の様子を、使い魔たちは複雑に見守っていた。
 今すぐに、知ったふうな口をきくこの男をのしてやりたいところだけれど、それは、決して間違ってなどなくて、むしろ図星をさされてしまっているから……。
 どうして、柚巴には伝わらないその感情が、この男にはわかられてしまうのか……。
 ――悔しい。
 ……いや。そうでなくて、この男からその言葉がでる……ということは、もしかして、この男も……?
「どう……いう……こと?」
 にじみでてきた涙を必死にこらえ、柚巴は唖呂唖を見下ろす。
 顔を下にむければ、それだけ余計に涙がこぼれる助けをしてしまうけれど、今はどうしても唖呂唖を見たいから。
 唖呂唖の目を見れば、その言葉の意味するところがわかるような気がするから。
 ……その言葉の理由を、どうしても知りたい。
「守られることは、決して悪いことじゃないよ。力があるとかないとか、気にする必要はない。あんたはそのままで、もう十分、戦力になっている」
 にこっと優しい微笑みを送り、すいっと立ち上がる。
 そして今度は、見下ろす。
 意地悪っぽい笑みをその目にたたえ、茶目っ気たっぷりにウインクを送る。
「あんたの笑顔を見るだけでね。あんたを守りたいという思いが、こいつらを強くしているのじゃないのか?」
 その言葉に、そこにいた誰もが、ぽけっとあっけにとられてしまった。
 もちろん、その言葉を向けられた柚巴が、いちばんあっけにとられている。
 しかしすぐに、くすりと肩をすくめた。
 そして、ほんのり頬をそめ、むぎゅっと世凪の胸に顔をおしつける。
 そこで、ぽつりとつぶやいた。
「……気障」
 そのような柚巴を見て、唖呂唖はにっこりと微笑む。
 気障でけっこう、と。
 使い魔たちも、はあとため息をもらし、肩をすくめる。
 ただ一人、おもしろくないのが、この王子様だけで……。
 挑戦的なするどい眼差しを、唖呂唖に注いでいる。
「で、どうして、お前がここにいる?」
 とうとう、世凪の毒々しい攻撃が、唖呂唖に降り注がれた。
 今までは、柚巴を励まそうとしていたようだから――一応は――仕方なく黙っていたけれど……。
 ひとまず決着がついたとなれば、話は別。
 容赦なく、邪魔者は排除する。
 それが、柚巴を独り占めしたい俺様王子様のモットー。
「う〜わ〜。冷たっ」
 そのような世凪の敵意むき出し攻撃を、唖呂唖は茶化すようにかわす。
 それでますます世凪のご機嫌がななめになってしまうことを、唖呂唖とて、その少ない経験から知らないはずはないだろうに。
 だけど、何故だかそうすることが、この場合いちばんよいと思えたから、だからそう振る舞ってみた。
 安心して世凪の胸に頼る柚巴を見ていたら、そうしなければならないようにも思えて……。
 なんだか、ピエロにでもなったような気分になる。
 だけど、言うべきことは、すべきことはしなければならなくて……。
 おどけたかと思うと、今度はきっと表情をひきしめた。
 そして、世凪から視線をするりとはずし、使い魔たちへ送る。
「今日、俺がやってきたのは、ようやくわかったからだ」
「わかったって?」
 すかさず、世凪の不機嫌な声がもらされた。
 それに、非難めいた視線を唖呂唖は送る。
 使い魔たちは、あちゃあ〜と頭を抱えてしまっている。
 こうなってしまった世凪は、本当にたちが悪いことをよく知っているから。
 どうしてこの王子様は、柚巴にかかわると、こうもたちが悪くなってしまうのか……。
 普段からたちが悪いというのに、輪をかけてたちが悪くなるから手に負えない。
「あのねえ、王子さん。あんた、それわざと?」
 じとりと、世凪を見つめる。
 すると世凪は何も答えずに、ただにやりと微笑んだ。
 どうやら……正解らしい。
 わざと、あえて、唖呂唖を挑発するために言ったらしい。
 さすがの柚巴も、世凪の腕の中で、呆れてしまっている。
 しかし、だからといって、何かを言おうとはしていないけれど。
 こういう世凪は、下手に相手をせずに、思うままにさせておくのがいちばんいいことを知っているから。
 それにしても……本当に、こども。
 どうやら、世凪は、先ほどの仕返しをしているらしい。
 先ほど、唖呂唖は柚巴の頬を染めさせたから。それの仕返し。
 柚巴の頬を染めさせていいのは、世凪だけなのだから。
 世凪の中の法は、そう定めてある。
 そして、何故だか、無意味に、あてつけるように、むぎゅっと柚巴の髪に自分の顔をうずめる。
 もちろん、挑発的な眼差しを唖呂唖に向け。
 ……これは……完全にきれている。
 ぶっちぎれている。
 この場にいる誰もが、もう何も言えなくなるほど、あきれ返ってしまった。
「……あほらし。はいはい。もう、好きにしていろ」
 ひらひらと世凪に手を振り、唖呂唖は背を向けた。
 世凪を完全に無視し、使い魔たちに向き直る。
 そんな明らかに馬鹿にしているような態度をとられて、この王子様がぶっつんとこないはずはないのだけれど……。
 どうやら、柚巴を堪能することに忙しくて、それどころではないらしい。
 気持ち良さそうに目を細め、柚巴の髪に執拗に顔をうずめている。
 当然、そんなことをされている柚巴は……脱力。
 完全に、諦めに入っている。
 手がつけられないくらいいちゃついているカップルは放っておいて、こちらでは、何故だかたんたんと話が進んでいた。
「――それで、今から行こうと思うのだが。震源地へ」
 唖呂唖からそう告げられると、使い魔たちの気がかわった。
 それまでの、半分呆れたようなふざけたような雰囲気は払拭され、妙に張りつめた空気をはらむ。
 誰もが唖呂唖に注目する。
 そして、次の言葉を待つ。
「……場所は、ここから北へ一〇キロほど行ったところにある、比礼山(へれさん)。これまでのゆれ、すべてがそこからの負荷によるものだった」
 唖呂唖の口から、きっぱりとそう告げられた瞬間、全員が息をのんだ。
「……ねえ、それって、もしかして……」
 そして、次の瞬間、そうもたらされた柚巴の言葉で、皆覚醒する。
 どうやら、世凪に好きなようにされつつも、話だけはきっちり聞いていたらしい。
 もちろん、世凪とて同じ。
 相変わらず、柚巴をぎゅっと抱きしめてはいるが、その顔はもうふざけたようなものではなかった。
 時折見せる、王子の顔をした世凪。
 誰も、先ほどの柚巴の言葉に、反論する者などいない。
 何しろ、誰もが、同じことを考えてしまったから。
 皆、確信したようにうなずく。
 それと同時に、何も語らずとも、この後の行動も決定されていた。
 例外なく、誰もが、その震源地に向かうことを疑っていない。


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update:05/07/05