柚巴の災難

「世凪なんて、嫌い!」
 そんな、近頃ではあってはならない叫びが、限夢宮は王子の居住区一帯に響き渡った。
 もちろん、それを耳にしてしまった者たちは、皆一様に顔を真っ青にする。
 ……いや。真っ青を通りこして、生きた心地がしなかったかもしれない。
 何しろ、その言葉を発したのは……王子がこの世でたった一人、愛してやまない少女だったから。


 小春日和。
 まるで春のようにぽかぽかとあたたかい、晩秋のある日。
 大きな屋敷がたち並ぶその一角。
 たしか、王の弟もそこに屋敷をかまえている。
 王弟には、二人の子がいる。
 近頃は、そのうちの一人、兄の方が、城下で何かと話題にのぼっている。
 同時に、人気もうなぎのぼり。
 そして、もう一人の子、妹の方も、最近、王子の婚約者となった人間の少女と、親密なおつき合いをしているよう。
 つい数日前も、一緒に城下で遊びまわってきたばかり。
 傍流に追いやられた王族の末路にしては、何ともはれやかなこと。
 などと、のほほんと思っているとか。
 そんなのんびりおだやかな時間も、この屋敷においては、すぐに大騒ぎになってしまう。
 意図する必要なく。
 たとえば、兄妹喧嘩の末、屋敷が吹っ飛ばされるなんて当たり前で――


「のどかですね〜」
 木漏れ日が差し込むテラスで、秋の風に頬をなでさせながら、まったりと紗霧羅がつぶやく。
 藤の椅子にたっぷりと背をあずけ、左手にソーサー、右手にカップを持ち。
 ぱらぱらと落ちてくる、赤く染まった葉を目で追う。
「そうよねえ。パルバラ病の脅威がなくなってからというもの、刺激がなくておもしろくないわ」
 お気に入りのティックルを満足げにのどの奥へと流し込み、華久夜はにっこりと微笑む。
 そして、スコーンにたっぷり生クリームをのせて、それをぽいっと口の中に放り込む。
 もちろん、瞬間、華久夜の顔は、幸せすぎるくらいほにゃっと崩れていく。
 それをちらっと横目で見つつ、さりげなく、莱牙は自分の分のスコーンを華久夜のお皿の上においてやる。
 ……何というか、相変わらず、兄バカ莱牙。
 恐らく、華久夜のその顔をもう一度見たい、とか何とか思っているに違いない。
 むっつりシスコン。
「お前たちな〜……。そうそう刺激なんてあってたまるか」
 思いっきり目をすわらせ、思いっきりあきれたようにそう言って。
 口ではどんなに馬鹿にしたって、結局のところ、莱牙はこの二人のことを気に入っていないわけではない。
 しかし、それを素直に表に出せないのが、莱牙が莱牙である所以だろう。
「あら? お兄様だって、刺激があった方がいいのじゃない? だって、そうじゃないと、愛しの柚巴に会いに行く口実がないでしょう?」
 莱牙がお皿の上においたスコーンを当たり前のように手にとり、今度はいちごジャムをたっぷりのせて、また一口でぺろりとたいらげてしまう。
 もちろん、ほにゃんと満足げに笑みを浮かべて。
 その後すぐに、くすくすくす……と嫌味たらしく笑い、にやりと莱牙に意地の悪い視線を送る。
 スコーンの恩など、華久夜は持ち合わせていない。当然。
 瞬間、ぶちぶちぶち〜っと何かがぶっち切れる音が、このテラスに響いたとか響かなかったとか。
「華久夜。お前、マジつぶすぞ」
 がちゃんと勢いよくカップをソーサーに置き、莱牙はぎろりと華久夜をにらみつける。
 だけど、それくらいで華久夜がひるむはずがなく……。
 むしろ、増長させる。
「できるものならしてごらんなさい。無能なお兄様」
 にしゃりと、挑発的な笑みを顔いっぱいにたたえる。
 もちろん、それと同時に、顔を真っ赤にした莱牙が、がたんと立ち上がっていたことは言うまでもない。
 だけど、そこまで。
 本気で華久夜をつぶすことなんてできない。
 だって、華久夜の言う通り、莱牙は華久夜より弱いから。
 いつも喧嘩をしては、華久夜に負けてしまう。
 そして、そのついでに、華久夜が屋敷を半壊やら全壊やらにするのだけれど……そのお説教は、何故だか莱牙一人できくはめになる。
 そんな兄妹を前に、紗霧羅はもう慣れたことと、一人、落ちゆく赤や黄に染まった葉を愛でる。
 その時だった。
 紗霧羅が、何かに反応したように、ぱっと目を見開いた。
 そして、かしゃんとソーサーとカップを同時にテーブルの上におく。
「……いや。待ってくださいよ。二人とも。――ほら、刺激の方が、向こうからやってきた」
 そう言って、にやりと微笑む。
「あらっ!」
 すると、華久夜もすぐにそれに反応し、顔をぱっとはなやがせた。
 もちろん、その後二人そろって、莱牙ににっこりと微笑む。
 瞬間、莱牙の肩が、がくんと落ちる。
 どうやら、この二人には、もうすっかり頭があがらな……かなわないらしい。
 まあ、こんなたちの悪い二人に目をつけられては、いくら莱牙でもたわいもないだろう。
 一人だけでも厄介だというのに、よりにもよって二人とは。

 耳をすませば、ぱたぱたぱたと、廊下を駆ける足音がする。
 それは、まっすぐに、ここテラスへと進んでくる。
 しかも、その足音。嫌というほど聞きなれた足音。
 だって、その足音の持ち主は――
「またか」
「またね」
「またですね」
 はあとため息をもらし、それぞれ思い思いに、呆れとも諦めともとれるポーズをとる。
 本当は、ちょっぴりくらいは胸が弾んでいるのだけれど……。
 嬉しいのだけれど……。
 それを、互いに悟られまいとして。
 悟られたが最後、絶対に集中攻撃をくらうから。
 三人が同時にそうつぶやいた刹那、テラスにまた≠ェ現れた。
 ゆっくりと顔を上げ、そのまた≠ノ視線を移していくと……。
「やっぱり」
 三人そろって、思わず、そうつぶやいてしまっていた。
 だってそこには、顔をぐしゃぐしゃに涙でぬらした柚巴が立っていたから。
 そして、まるで捨てられた子犬のように、三人を……とりわけ、莱牙を見つめてくる。
 もちろん、それと同時にだだだっと莱牙に駆け寄ってきた。
「莱牙さまあっ! 今すぐわたしを人間界へ帰して!」
 そんなことを叫びながら、莱牙にすがりつく。
 瞬間、めまいに襲われたことは言うまでもない。
 それは、莱牙に柚巴が駆け寄ってきた悦びからくるめまいではなく……また、厄介なことに巻き込まれる。そうに違いない。
 そういった思いからくるめまい。
 それが何とも情けなくて、莱牙らしい。
 ぐわしっと抱きつき、すがってくる柚巴をひきはなしながら――それでもやっぱり、もったいないと思いつつ――莱牙はため息まじりにつぶやく。
「ほら、みろ」
 ……ろくでもなかった。
 そう続けはしなかったけれど、絶対にその顔はそう言っている。
 呆れを装いつつも、柚巴をひきはがしつつも……。
 しかし、その手はちゃっかりと柚巴の手をにぎったままはなされはしない。
 それにめざとく気づいた華久夜が、莱牙の手の中からばばっと柚巴の手を奪い取る。
 瞬間、ちっ……という舌打ちが聞こえたことは気にしてはいけない。
「で、今度は、あの男、何をしたの?」
 莱牙から柚巴を奪い取り、華久夜は、自分と紗霧羅の間に柚巴を座らせていく。
 もちろんそれは、むっつりスケベなお兄様から、大好きな柚巴を守るため。
 莱牙もそれを知っているから――むっつりスケベだとは思っていないけれど――むすっと目をすわらせる。
 そして、椅子に体を思いっきり沈めていく。
 それはどこからどうみても……完全にすねてしまっている。
「聞いてくれる? 華久夜ちゃん」
 そんな莱牙は放っておいて、莱牙の目の前では、柚巴と華久夜の会話がすすんでいく。
 もちろん、それに紗霧羅も加わって。
 相変わらず、莱牙はぞんざいな扱いしか受けない。
「あまり聞きたくはないけれどね〜。どうせろくなことじゃないから。でも、いいわ。聞いてあげても」
 やけに偉そうにそう言い捨て、華久夜は悟りの境地に至ってしまう。
 何しろ、まさしくそれなのだから。
 柚巴がこうやって莱牙のもとに駆け込んでくる時はいつも、ろくなことがあったためしがない。
 もちろん、柚巴が駆け込んできたそのすぐ後には――
 ほ〜ら、こうやって、どこかの俺様王子様もやってくる。
 むっつりすねた顔をして。
 思いっきり不機嫌オーラを漂わせ。
 それが、いちばんの迷惑。ろくでもないこと。
「なっ……! せ、世凪! どうして追いかけてくるのよ!」
 涼しい顔で(くう)から現れた世凪をみとめると、柚巴はざざっと紗霧羅の背に隠れる。
 そこから、びくびくと小動物のように体を震わせ、ちらちらと世凪を盗み見る。
 それが何とも、世凪を拒絶しようとしているのではなく、本当は気になって気になって仕方がないといっているように見えてくるから……結局のところ、柚巴は何をしたいのか。
「当たり前だろ。柚巴こそ、何故逃げる?」
 ゆっくりと、だけど着実に、柚巴との間合いをつめながら、当たり前のようにそう言い放つ。
 その言葉通りに、どうして柚巴が今こうやってびくびくしているのかもわからないというように。
 しかし、首をかしげるのではなく、ふんぞり返ってそれを言う辺りは、さすがは俺様王子様。
 どこまでも、わが道をいく。
 震える柚巴と、不機嫌オーラを発する世凪の間にはさまれた紗霧羅は、たまったものではない。
 ちら〜りと、華久夜に救いを求める視線を送る。
 しかし、華久夜は再びカップを手にとり、何故だか優雅に、一人お茶の時間を再開させている。
 呆れて頭を抱える莱牙も、こちらの一触即発な三人もまったく無視して。
 まるでここには、華久夜一人しかいないかのように悠然と。
「逃げるに決まっているじゃない。あんなことを言われたら……」
 ぎゅむうっと紗霧羅の背に顔をおしつけ、柚巴は涙まじりにつぶやく。
 くぐもった声が、どことなく切実感を運んでくる。
「あんなこと?」
 背に抱きつく柚巴をするっと前へと抱き寄せ、紗霧羅は首をかしげる。
 すると柚巴は、びくんと一度大きく震えた後、ゆっくりと顔をあげてきた。
 そして、すがるように紗霧羅を見つめる。
 そのうるむ瞳がなんともかわいらしくて、思わず理性が吹っ飛びそうになる。
 しかし、ここで柚巴をむぎゅうっと抱きしめては、この怒れる王子様の怒りをさらに増幅させることになるので、そこはぐっとこらえる。
 これ以上こじれては、手がつけられなくなるから。
 ほーら。目の前では、めらめらと炎に身を包む王子様が……。
「あのね、紗霧羅ちゃん。世凪ったらね……」
「俺のことが好きなら、柚巴からキスしろって言って何が悪い?」
 柚巴の言葉を遮るように、世凪はさらっとそんなとんでもないことを言い放った。
 瞬間、テーブルにひじをつき頭を抱える莱牙の手から、ずるりと頭がすり落ちたことも……。
 口につけていたカップが、ずるりと華久夜の手の中からすべりおちたことも……。
 柚巴を抱き寄せる紗霧羅の膝が、がくんと崩れたことも……。
 もちろん、言わずと知れたこと。
 その事実が、あまりにも馬鹿馬鹿しくて。
 それにしても……この王子様は、柚巴と心通わせてからというもの、調子にのりすぎ。
「無理に決まっているじゃない!」
 さらっと爆弾発言をやってのける世凪に、やっぱり紗霧羅を盾にして、柚巴はブーイングを投げつける。
 どうにも、正面切って世凪に立ち向かえないという辺り、迫力に欠けるけれど。
「まあ、たしかにねえ。柚巴には無理だろうねえ……」
 なんだかとっても痛い頭を抱えて、紗霧羅は適当にそう言ってみせる。
 適当だけれど、それは間違ってはいない。
 どこかの王子様と違って、柚巴はめっぽう弱いから。その方面は。
 人前でもかまわずいちゃつきたがる王子様と違って、この人間の少女は恥ずかしがりで初心。
 それを当然、この王子様も知っているはずなのに……。
 それでもなお、そんな暴挙にでますか。
 欲望のままに行動しますか。
「だから、できないのなら、俺からキスをさせろって……」
 ずいっと一歩踏み出し、世凪はそうやって紗霧羅に抱き寄せられる柚巴に迫っていく。
 その目が、何故だからんらんと輝いて見えるのは……恐らく、触れてはいけないことだろう。
「そう言ってね、世凪ったら、わたしにおかしな香をかがせようとするのよ!」
 世凪のその行動を見て、柚巴は悲鳴に似た叫びを上げる。
 もちろん、同時に、もっと紗霧羅にぎゅうっと抱きついたことは言うまでもない。
 そして、それを見た王子様が、もうちょっとご機嫌をななめにしたことも。
「おかしな香?」
 そろそろ、くらくらとしはじめた頭を懸命にたもち、紗霧羅は、聞きたくはないけれど、一応そう聞いてみる。
 尋ねなければ尋ねないで、また別の厄介事になりそうだから。
 すると柚巴は、またびくびくっと体を大きく震わせ、ぼたぼたと涙を流しはじめた。
 顔が涙でぐしょぐしょになって……はっきりいって、今の柚巴はかわいくない。
 しかし、心の底から紗霧羅に助けを求めていることだけはわかるので、無下にもできない。
 本当のところは、かかわりたくないのだけれど。できるならば。
 どうしてこの二人は、こうも面倒なことばかり持ち込んでくるのだろうか。いつも。
「呪術部屋で見つけた、年頃の娘に媚薬のような効果を与えるという香のどこが悪い? そのままだと、柚巴は絶対におとなしくキス――」
「外道〜っ!!」
 当たり前のようにけろりとそう言い放つ世凪に、ぶっち切れた叫びが捧げられた。
 三重奏(トリオ) で。
 さすがに、無視を決め込んでいても、そのとんでもない発言には、反応せずにはいられなかったらしい。
 無駄にぜいぜいと荒い息をさせ、莱牙も華久夜も紗霧羅も、ぎろりと世凪をにらみつける。
 それにしても……呪術部屋には、本当に何でもあるらしい。
 次第に、その部屋の名称や目的から、ずれはじめてきているように思えるけれど。
 その部屋の住人が住人なだけに……それも、仕方ないのかもしれないけれど。
 それ以前に、そのような香、一体どこから手に入れて……?
 いや、そんなものが限夢界には存在する?
 そこから、疑問が泉のようにわいてくる。
 どんなに考えても、答えは見つからないような気がするけれど。
 何しろ、彼らには、柚巴の常識など通用しないのだから。
 そして、その存在を、この王子様は、当たり前のように知っていたというのか。
 みんなそろって、なんとも恐ろしい連中である。
 ……違った意味で。
「ねえ、ひどいでしょう? その香、いやにあまったるい香りがして気持ち悪いの。どうせかがせるのなら、もっといい香りのものにして欲しいのに」
 むうっと頬をふくらませ、柚巴は紗霧羅たちに同意を求めてくる。
「って、あんたがひっかかるのは、そこかいっ!」
 そう叫び、紗霧羅は思わず、抱きつく柚巴をべりっとひきはなしてしまっていた。
 そして、ぼすんと椅子になだれこむ。
 もちろん、紗霧羅に見捨てられてしまった柚巴は、びくびくと震えながら、それでも必死に世凪に抵抗の視線を送っている。
「もっと別のところを気にしてもらいたいわね」
 そのような柚巴を冷めた目で見て、華久夜はずずうっとティックルをすすっていく。
 こんな馬鹿らしいことにつき合っていたために、ティックルはもうすっかり冷めてしまっている。
 ……あまりおいしくない。
 それでも、最後までおいしくいただくのが華久夜だけれど。
 莱牙に至っては、ばたんとテーブルに突っ伏している。
 そしてそこで、あまりの馬鹿馬鹿しさのため、ご臨終。
 完全に三人から見捨てられてしまったことにも気づかずに、柚巴は懸命に、世凪がいかにひどいかを語り続ける。
「それでね、それでね。思わずひっぱたいちゃったの。そしたらね、『王子の俺に対する無礼、その体をもって償ってもらおう』なんてむちゃくちゃなことを言い出してね……」
「責任をとって、今日一日、ずっと俺のそばにいろ」
 けろりとそう言いながら、ついには柚巴は世凪に捕獲されてしまう。
 その趣味の悪い真っ黒いマントで、包むように抱きしめて。抱きすくめて。
 もちろん、ゆっくりと着実に柚巴の顔へ自分の顔を寄せていく。
 無駄に熱く……暑苦しく見つめながら。
「そう言って、抱きしめたがるの〜! だから、嫌いって言って逃げてきたの」
 すでに抱きしめられているにもかかわらず、それにはまったく気づいた様子なく、柚巴はわんわんわめき続ける。
 世凪の腕の中で。
「それくらい、好きにさせてやりなさい」
「そうそう。そうしたら、まわりの者が平和ですむからさ。暴れん坊を野放しにしておく必要もないだろう?」
 椅子からすっと立ち上がり、華久夜と紗霧羅は冷たく柚巴を突き放す。
 ……いや。冷たくというよりはむしろ、もうかかわっていられないというように。
 それに続けるように、莱牙もめまいを覚える頭に叱咤しながら、よろりと立ち上がる。
 馬になど、蹴られたくない。
 この時、三人が三人とも、そう思っていたに違いない。
 そのような三人にこたえるように、世凪の愛撫はエスカレートしていく。
 すりすりと柚巴の頬に自分の頬をすり寄せ、ご満悦顔でにっこり微笑む。
 そして、辺り一帯をピンク色に染め、ハートをばらまき、世凪の幸せな時間がはじまる。
「だから嫌なのだ。こいつらにかかわるのは」
 ひらひら揺れるカーテンの向こうへ消えながら、莱牙がぽつりとそうもらしていた。
 とっても嫌そうに。
「そうね。無駄にあてられるだけだもの」
 それに続け、華久夜もはあと盛大にため息をもらす。
「あほらし……」
 ぽりぽりと頭をかきながら、莱牙と華久夜に続いて、紗霧羅もカーテンの向こう、屋敷の奥へと消えていく。
 なんだかとてつもない疲れを覚えつつ。
 本当に、この二人にかかわると、ろくなことがない。
 あらためて、ひしひしとそう思ったとか思わなかったとか。
 三人にとっては、まったくもって、いい迷惑。

 もちろん、三人が去った後、テラスに二人きりで取り残された柚巴は……目もあてられない世凪のらぶらぶ攻撃に、一人悲鳴を上げていた。
 それでも、次第に抵抗をやめ……ずるずると流されるように、世凪にこたえていたとかいないとか。
 その背に、そっと腕をまわし。
 その夜、満身創痍(まんしんそうい)の柚巴が、莱牙たちの前に現れたことは言うまでもない。
 まったく、何をしているのだか。本当に。
 この二人は。
 ……いや。この王子様は。


 結局のところ、この騒ぎも……柚巴と世凪の、ただのおのろけ。
 そうやって、小春日和の一日が、平和に終わっていく。


柚巴の災難 おわり

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update:04/12/11