お姫様のお気に入り
(18)

「それだけそろっていたら、あんなまどろっこしいことをしなくても、柚巴くらい簡単に見られたじゃない!」
「ほら、そこはやっぱり、自力で見たいじゃないか」
「ああ、もうっ!!」
 やはりにっこり笑いけろっと答える茉に、華久夜は悔しげにばんとテーブルを一度たたきつける。
 そこから少し距離をおいて、華久夜と茉の様子を見ていた紗霧羅が、あきれがちにぼそっとつぶやいた。
「あのぼっちゃん、とんだ食わせ者だね」
「まったくだ」
 握り拳をぶるぶる震わせ、莱牙がぎこちない動きでうなずく。
 どうやら、抱いた怒りをこらえることで必死らしい。
 よくもかわいい妹を謀ってくれたなというように。
 しかし、莱牙は、華久夜を騙したこととは違ったことで憤っているようだけれど。
 何しろ、先ほどからされている会話は、とんでもないことだから。
 莱牙のかわいい凶暴で凶悪な妹に求婚する愚か者の大罪人が目の前にいる。
 少しでも気を抜けば、莱牙は即座にそれ≠消滅させてしまいかねない。
「というか、あんな奴いたのか? 知らなかった」
 紗霧羅が、憤る莱牙を困り顔でちらっと見ながら、つぶやく。
 下手にフォローをして刺激したら手のつけようがなくなるので、そこはあえてスルー。
 華久夜と莱牙の兄妹の扱いに慣れた紗霧羅だから、下せる判断だろう。
 他の者なら、気づかずに月並みなフォローをして瞬間、抹殺されている。
「彼は文官ですからね。武官のあなた方が知らなくて当然ですよ」
 すると、どこからともなく現れた衣狭が、当たり前のように答える。
「……あ、都詩に衣狭、来たのか」
 もちろん、紗霧羅も莱牙も、都詩と衣狭が突然現れても動じた様子はない。
 気配なく現れることなど、彼らの間ではごく当たり前のこと。
 恐らく、どこかから瞬間移動してきたのだろう。
「ええ、なんだかおもしろそうなことをしているようですから」
 都詩と衣狭もまた、ごく当たり前のこととして、さらっと答える。
 たしかに、これだけ大騒ぎをしていたら、都詩や衣狭ともなれば気づいて、興味を覚えやってくるだろう。
 ともに、そこに柚巴の気配を感じたら、やって来ないはずがない。
 彼らもまた、柚巴馬鹿予備軍だから。
 そして、それを面白がるのは、彼らだけではない。
「って、幻撞さまや竜桐さま、由岐耶たちまで?」
 紗霧羅の言葉通り、ぞろぞろと幻撞や竜桐、由岐耶たちがやって来る。
「ああ、暴走した場合を考えてね」
 竜桐がため息まじりに答えた。
 ともにやって来た麻阿佐が、おかしそうにくくくと笑う。
 幻撞もふぉふぉふぉと愉快そうに笑い、由岐耶は明らかに呆れた顔をしている。
「それはご苦労さまです」
 紗霧羅があははと愛想笑いをすると、由岐耶が面倒くさそうにすっと視線をそらした。
「世凪と華久夜さまがそろったら、こんなところひとたまりもないですからね」
「たしかに」
 紗霧羅は力強くうなずく。
 その横では、莱牙がすべてが面倒くさそうに、髪をかきあげ、世凪たちの馬鹿げたお遊びを見ている。
 もはや、世凪たちへもそうだけれど、こちらの暇な使い魔たちにも加わる気はないらしい。
 莱牙に言わせると、どっちもどっちといったところだろう。
 本当に、こんなちびっこいじめをわざわざ見に来るなど、物好きにもほどがある。
 いや、ちびっこいじめでなく世凪をあざ笑いに、または一部は世凪と華久夜の暴走をとめにだろうか?
 どちらにしても、馬鹿馬鹿しいことには変わりない。
 こんなことのためにわざわざ時間をさくなど、まったく平和な連中である。
「さーて、これからどうなるかねえ。華久夜さま、ここが踏ん張りどころだね」
 紗霧羅はちょっと意地悪げに目を細め、くすくす笑う。
「もっと踏ん張りどころは、虎紅だけれどねえ。……ういた話がないと思えば、変態(ロリコン)だったのか」
 都詩もにたにたと楽しそうに笑みを浮かべる。
 その都詩の肩にのしかかるように衣狭が腕をのせ、にっと笑った。
「あのぼっちゃん、とんだ食わせ者だけれど、なかなかいいところがあるな。――気に入った」
「ん? じゃあ、とりたててやるのか?」
 都歌はくいっと首をまわし、すぐ横の衣狭の顔をじっと見る。
 すると、衣狭はけろっと言い切る。
「それとこれとは、話が別だよ」
「だよな」
 都詩もやっぱり、さらっと言ってうなずく。
 都詩と衣狭の地位があれば、茉一人を取り立てるくらい簡単だけれど、そういう理由では区別しない。あくまで実力で判断する。
 それに、たしかに気に入ってはいるけれど、仲間に入れてやる気はない。
 取り立てるということは、すなわちそういうこと。
 一緒に世凪をからかって遊ぶ仲間に入れるということ。
 まだそこまでは茉を気に入ってはいないし、これから気に入ることもないだろう。
 都詩と衣狭が互いに肩を組合いくくくと楽しそうに笑う横では、やはり愉快そうにその成り行きを眺める使い魔たちがいる。
 その光景とは、憤っているのか戸惑っているのかどっちともつかない、いつもとは違う華久夜の慌てぶり。
「それで、お父様、まさかOKしたのじゃあないわよね!?」
 華久夜は茉に言いたいことは言い切ったのか、次は標的をそちらへ変えた。
 ぐるんと勢いよく振り返り、玲依をにらみつける。
 玲依は華久夜のあしらいには慣れたもので、微笑すら浮かべている。
「いや、まだしていないよ。とりあえず、華久夜の気持ちがいちばんだと思ってね。だから、こうして確かめにきたのだよ」
 おだやかに微笑む玲依の横には、やはりゆるやかに笑う限夢王、玲央がいる。
 玲依の言葉に合わせるように、ゆったりうなずく。
 王と王弟がそろって、突然このようなところにやってきたかと思えば、どうやらそういうことだったらしい。
 しかし、そのようなことのためだけにわざわざ足を運ぶなど、なんと腰が軽い王族なのだろうか。
 いやまあ、この二人の場合、騒ぎをききつけやってきた使い魔たちと、さほど変わらない理由という可能性も否めない。むしろ、九割方くらいそれだろう。
 いつもの華久夜ならそれにも気づき悪態のひとつでもつくけれど、どうやら今はそのような余裕はないらしい。
 素直に玲依の言葉を鵜呑みにし、ほっと胸をなでおろす。
「よ、よかった……。じゃあ、わたしの答えはNO≠諱v
 そして、あっさり断言した。
 玲依は少し驚いたように目を見開いて、くいっと首をかしげる。
「どうして?」
 恐らく、華久夜以外のその場にいる全ての者には、その姿、そこはかとなく胡散臭く見えていることだろう。
 使い魔たちにもそろそろ、玲依が考えていることがわかりはじめている。
「ど、どうしてって、だって……っ」
 華久夜はじりっと一歩後退し、目を泳がせる。
 明らかに動揺している。


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update:09/09/27