恋人浪漫
(5)

「ああ。そうそう。早紀ちゃん。紹介を忘れていたけれど……。この男、わたしたちのいとこで、桜木湊(さくらぎみなと)ね。で、湊。こっちが海の婚約者の、菅谷早紀(すがやさき)ちゃん」
 横に立つ、写真の男の人……湊さんの腕をぐいっとひっぱり、空さんがそう紹介してくる。
 そして、湊さんにもわたしを紹介してくれる。
 空さんの紹介を、湊さんはおだやかな微笑みを浮かべ聞いていた。

 って、なんだ。いとこさんだったのか。
 この間、空さんが写真を見せたりなんかしてくるから……てっきり、そのつもりかと思っちゃったわ。
 だって、空さん。
 本当に、毎日のように、海なんてやめて……って言ってくるから。
 半分くらい冗談だけれど、半分くらいは本気のような感じが、そこはかとなくしていたから、つい……。
 海をいじめるためなら、空さんは手段を選ばない人だしね?

 でも、そっか。
 きっと、今日の日を企んで……想定して、あらかじめ、わたしに写真を見せてくれていたのだわ。

 うん。でも、納得。
 格好いいはずよね。
 だって、海のいとこさんなんだもの。

「早紀……ちゃん? こんなことになってしまったけれど……よろしくね?」
 空さんの紹介を受け、湊さんがそう握手を求めてくる。
 にっこりと微笑むその顔は……うん。やっぱり、海に似ている。

 わたしも、握手を求める湊さんに右手をのばそうとすると、その手をぐいっとつかまれてしまった。
 そして、そのまま海の胸の中に、すっぽりとおさめられてしまう。
 って、って、海〜!?

「こんな奴と、よろしくしなくていい。っていうか、消えろ。お前たち二人とも。せっかく、早紀と二人きりで過ごせると思ったのに……」
 ぎろりと、目の前の空さんと湊さんを憎らしげににらみつけ、海はそうはき捨てる。
 そして、わたしをひょいっと抱きかかえ、そのまますぐ後ろの別荘の中へとさらっていく。
 ごくごくスマートに。

 海〜。
 いくらなんでも、それはちょっと失礼すぎやしないかなあ?
 と思いつつも、海にはどうやっても抵抗できないのが、わたしなのだけれど。
 だってわたしは、海の都合のいい女だから。
 海が嫌と思うなら、わたしもそれに従うわ。

 ……ううん。そうじゃなくて……。
 わたしも、海に旅行に誘われた時から、二人きりがいいな……って、そんなことを思っていなかったわけじゃないから。
 ちゃんと、覚悟もしていたから。
 もっと進んだ、深い関係になってもいいかな……?って――

 海に抱きかかえられたそのままで、海の首にきゅっと抱きついてみる。
 すると海は、くすっと肩をゆらして笑っていた。
 頬に触れる海の髪が、くすぐったい。
 そして、気持ちいい。

 単純。
 どうやら海、もうご機嫌がなおっちゃっているみたい。
 おかしなの。
 どうして、そんなに簡単になおっちゃうの?
 あんなに、たくさんたくさん、ご機嫌を損ねていたのに。

 そんなわたしに向かって、空さんがにやにやと笑いながら、手を振っていた。
 ……って、やっぱり、とっても嫌な予感がする。
 空さあ〜ん。
 一体、何をたくらんでいるの?


「え? 何もたくらんでなんかいないわよ? わたしはただ、海の邪魔をするのがこの上なく好きなだけ」
 お風呂上り。
 空さんに、素朴?な疑問をなげかけると、そんな答えがかえってきた。
 ソファに体を投げ出し、我が物顔で占領して。
 なんだかちょっと、格好いいかも。男らしくて。

 っていうか……。
 ……え?
 それって、あのお〜……。

「あの男、なんだか腹が立つのよねえ〜。どんなにいたぶっても、どこかひょうひょうとしちゃってさ。かわいげのかけらもない。あれがわたしの弟だと思うと……ムカつくわ」
 ぎゅっとにぎりこぶしをつくり、力説する空さん。
 ……つまりは、そういうこと?
 海の嫌がることなら、なんだってする……という……。
 別に、たくらんでいるとかそういうのじゃなくて、海にちょっかいをかけて遊んでいるだけ?
 海をいたぶるのが楽しいだけ?
 そしてわたしは、それに巻き込まれちゃっているだけ?
 なんだか、それって……。

「こういうヤツだよな。空って……」
 空さんの横で、湊さんが、妙に納得したようにそう相槌をうっている。
 空さんと同じく、ソファに体を投げ出して。
 なんだか、ある意味、いいコンビっぽいかも……。
「それより、あの男は、今何をしているの?」
 すっと立ち上がり、わたしに歩み寄り、空さんはわたしを抱き寄せる。
 そして、おもむろに、がしがしとわたしの頭をふきだした。
 手に持っていたバスタオルを奪い取り。

 ……あ。そっか……。
 わたしまだ、ちゃんと髪をふいていなかったわ。

 えへっと、空さんを見ると、空さんてば、「仕方がないわね」と、眉尻を下げ微笑み、しずくがしたたるわたしの髪を、またがしがしとふいてくれる。
 少し乱暴なそのふき方だけれど、なんだかとっても嬉しいや。
 そしてやっぱり、空さんって、男らしい。

「え? うん。あのね、花火がしたいって言ったら、海、わざわざ用意してくれるっていって……」
 それで、どこかに消えちゃったのよね。
 わたし、一人おいて。
「早紀は、先にシャワーでも浴びて待っていて。少し時間がかかるから」
 とか、そんなことを言って、別荘を飛び出していった。
 それが、つい三十分ほど前。
 海ってば、一体何を考えているのかしら?
 わざわざ、街まで花火を買いにいってくれたとか?
 だったら……ちょっと申し訳ないことを言っちゃったかな。
 でもでも、わたしのためにそこまでしてくれているのだとしたら、やっぱりとても嬉しい。
「用意って……。あの男、またろくでもないことをたくらんでいるんじゃないでしょうね」
 わたしはそう思っていたのに、何故だか空さんは、憎らしげにそう言い捨てていた。
 そして、ぐいっとわたしを抱きよせて、抱きしめる。
 空さんのおかげで、髪はぐしゃぐしゃだけれど。
「ろくでもないこと?」
 空さんの胸の中から、空さんをきょとんと見上げる。
 すると、今度はわたしをすっとはなして……。
 どこから取り出したのか、ブラシでわたしの髪をおもむろにすかしはじめる。

 ……ああ。空さん。
 ありがとうございます。
 何から何まで……。


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update:04/09/02