恋するマリオネット
(11)

 時折吹く風にさあっと髪を遊ばれながら、かさかさと木の葉が揺れる下、朝食はすすんでいく。
 向かい合うように座る二人の間にも、まるで戯れるように、朝の風が吹き抜けていく。
 そのような時、ふと食事の手をとめ、フィガロットはうかがうように萌歌に問いかけた。
「口に……あわないか?」
「え?」
 そのつぶやきに気づいた萌歌も、持っていたグラスをことりとおき、くいっと顔をあげる。
 そして、フィガロットを見る。
「さっきから、食がすすんでいない」
「あ……」
 図星をつかれ、萌歌は悔しそうに声をもらしていた。
 たしかに、さきほどから、食べ物があまりのどを通ってくれない。
 だけど、それは、口にあわないからではなくて、体が食べ物を受けつけないからのような気がする。
 この席に並べられた朝食は、萌歌がとまっているホテルの朝食と、さほどかわりない。
 いや。それよりも、数段豪華。
 だから、きっと、口にあわないわけではない。
 ホテルの朝食は、たっぷりと平らげていたのだから。
 ばつが悪く、思わず、萌歌はふいっと顔をそむけてしまった。
 すると、その瞬間、フィガロットの顔がくもったような気配を見せる。
 だけど、顔をそむけた萌歌には、それはわからない。
 その時だった。
「フィガロットさま……」
 そのように、フィガロットにジョルーがすいっと寄り添った。
「ん? ジョルー、どうした?」
 一瞬見せた切なそうな顔はもうそこにはなく、フィガロットは無表情にジョルーへ視線を移す。
 すると、ジョルーは、腰を少しかがめ、すっとフィガロットの耳元へ顔を寄せていく。
「それが……」
 そして、そっと耳打つ。
「はあ!? お披露目!?」
 次の瞬間には、フィガロットが、そのようなすっとんきょうな声を上げていた。
 それに、萌歌は、びくっと体をふるわせる。
 ともにやってきて控えていたランバートは、「おや?」とどこか楽しそうに首をかしげている。
 ジョルーは、まったく動じる様子なく、こくりとうなずく。
「はい。王子の伴侶が決まった今、是非とも早急にお披露目していただきたいと、重臣たちが……」
 ジョルーは、困ったようにそう告げる。
「まったく。あのくそじじいどもめっ」
 同時に、フィガロットがはき捨てていた。
 しかし、同時に反応していたのは、フィガロットだけではなかった。
 がたんと椅子を蹴散らし、萌歌が立ち上がっていた。
「ちょっと待ってよ! お披露目って何よ!?」
 そう叫びながら。
「おや? 聞こえていましたか」
 そのような萌歌の後ろでは、両腕を組み、楽しそうにくくくと笑いをかみ殺すランバートがいた。
 ぐりんと首をまわし、萌歌はぎろりとランバートをにらみつける。
 そして、何か文句を言ってやらねばと口を開こうとしたけれど、それはかなわなかった。
「ランバート。お前は黙っていろ」
 妙に厳しい口調で、フィガロットがそう制していたから。
 すると、ランバートは驚いたように目を見開いた後、にやりと微笑んだ。
「はーい」
 そう、馬鹿にしたように間延びした返事をして。
 そのようなランバートに、妙に冷めた眼差しを送り、フィガロットは横のジョルーへと視線を戻していく。
「ジョルー。とにかく、それはもう少し待たせろ」
「はあ……」
 フィガロットの言葉に、ジョルーはどこかやる気なく答える。
 待たせろと言われても、ジョルーには、そのような権限はない。
 それ以前に、あの重臣のじいさまたちをどうにかできるなんて器量、ジョルーにはない。
 あのじいさまたちをどうにかできるのは、この国ではごく少数。
 異国の女性の向こう側で、何やら楽しそうににたにた笑う、あの腹立たしい神官くらいだろう。
 ――あとは、王。そして、この王子。
 それなのに、それを知っているはずなのに、この王子はなんとむちゃな命令をするのだろうか。
 まあ、王子がこうおっしゃているので、そうしてください、といえば、ジョルーに惜しむことなくにらみを入れつつ、不平をぶつけつつ、渋々従うだろうけれど。
 ただ、それを想像すると、ジョルーはとても憂鬱になる。
 胃がきりきりと痛んでくる。
「そうですよ。まだ口説き落としていないのですから。これからという時に、邪魔をされてはおもしろくありません」
 ジョルーがどんどん気が重くなっていくなか、あちらの最高神官は、またしても、余計なことをくちばしりはじめた。
「ランバート。だから、お前は……」
 先ほどお叱りをうけたばかりだというのに、ランバートは懲りることなく、相変わらず、そのようなふざけたことを口にする。
 フィガロットとしては、とっても望ましくないその言葉を。
 せっかく、萌歌の警戒心を解きほぐしにかかっていたのに、それではもとのもくあみ。台無しになってしまう。
 恐らく、それをわかっていて、あえて言っているのだろうけれど。この神官は。
 だから、余計に腹が立つ。……この場で、首をしめてやりたい程度に。
 フィガロットが、どれだけ本気かということを知らないのだろうか。
 ――いや。知っているはずだ。
「でもまあ、仕方がありませんね。ささっとお披露目をするのもいいかもしれません。どちらにしても、このお嬢さんには、拒否権などありはしないのですから」
 しかし、たしなめようとするフィガロットさえもさらっと蹴散らし、ランバートはたんたんと続けていく。
 自分の言いたいことを。
 さすがに、それには、萌歌も黙っていられない。
 ランバートをにらみつけながら、怒鳴っていた。
「ちょ、ちょっと! それってあまりにも強引、横暴じゃない!?」


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update:07/03/26