恋するマリオネット
(14)

 ひらひらゆれるカーテンの向こうに、時折ちらりと見えるその姿。
 長くつややかな黒髪も、風にさらわれるようにゆれている。
 そこには、椅子に腰かける女性がいて、そのすぐ下にひざまずく男のシルエット。
「これで、止血はすみましたよ」
 そう言って、男はふいっと顔をあげる。
 そこには、明らかな警戒と恐怖をにじませた萌歌がいる。
 どうやら、フィガロットにむりやりつれて来られ、手当てをされたらしい。
 もちろん、フィガロットには、そのような心得はないので、心得のある者にまかせた。
 その者は、手当ての間中、何やらちくちくとつきささるような……むしろ、射殺されそうなとってもいたい視線を背に感じていたけれど、それにはあえて気づかないふりをした。
 ……ふりをできていれば、いいのだけれど……。
 両腕を組み、この部屋の扉にもたれかかり、フィガロットはずっと手当ての様子を見つめていた。
 何故だか萌歌をお姫様だっこするフィガロットとでくわしてしまったがために、男はこのような状況になっている。
 当然、萌歌のこの傷の具合からして、医者を呼んだはずだろうに……どうして、ギリッシュが手当てをしなければならないのだろうか。
 しかも、このお姫様の怯えようといったら……。
 一体、どのようなひどい仕打ちをしたのか……。
「……フィガロットさま。とりあえず、応急処置はしておきましたが、やはり、医者に診せた方が……」
「今呼ばせているところだ。もちろん、お前などには期待していない。止血さえすめばそれでいい」
 相変わらず扉にもたれたまま、フィガロットはじっとこちらを見つめている。
 それは、見つめているというよりは、にらみつけているといった方が正しいかもしれないけれど。
 そのような視線に、萌歌の怯えは、ますますひどくなっていく。
 それに、ギリッシュは、ふうっと小さく吐息をはいた。
 フィガロットが心配していることは、ギリッシュにはわかるけれど、そのようにぎんぎんににらみつけていては、萌歌は誤解してしまう。
 まだ、出会ってほんの少ししかたっていないのだから、フィガロットを理解するまでには当然いたっていないだろう。
 それどころか、出会ってからというもの、萌歌は散々な目にあわされ続けているのではないだろうか?
 いくら儀式で選ばれたからといって、来たこともない場所へ強引に招かれ、見たこともない男たちにかこまれ、半分脅しのような扱いをうけている。
 何よりも、すでに告げられているであろうそのことは、萌歌にとっては拷問以上のものだろう。
 ギリッシュは、常々、この召喚の儀式に不審を抱いていた。
 このようなこと、個人の感情をまるで無視したこと、果たしてこのまま続けていても……?
 それ以前に、このようなこと、科学の発達した現代では、非常識、超常現象に他ならないと思われる。
 ……ギリッシュが調合する例の言葉がわかる薬も、現代においては理解し難いものだろう。
 この国は、ちょっと不思議なものに囲まれた、ちょっと不思議な国。
 科学とちょっと不思議が同居する、常識外の国。
 ――ただし、それも、王宮関係者の、ほんの一握りの人間にしか知られていないことだけれど。
 国民のほとんどは、王宮がレトロに支配されているなど、当然知らないだろう。
 このようなこと、公にしようものなら……世界中を巻き込んだ大スキャンダルになりかねない。
 それこそ、どこかのマッドサイエンティストの、いい研究材料にされてしまいかねない。
「まあ、慌てることもないとは思いますが。……弾はかすっただけですよね?」
 すっと立ち上がり、萌歌の向こうに見えるクローゼットへと歩いていく。
 ギリッシュのその行動を訝しげに見つめながら、フィガロットはさらっと言い捨てる。
 どこかおもしろくなさそうに。
「しかし、痛いことにかわりない」
 ちょうど、クローゼットに触れる手をぴたりととめ、ギリッシュは思わずフィガロットを凝視してしまった。
 そこには、相変わらず扉にもたれ、ほんのり頬をふくらませたような、どことなく憎らしいような複雑な表情を浮かべるフィガロットがいる。
 ……そういえば、先ほどから、この部屋へ入った時から、フィガロットは、萌歌と視線を合わせようとしない。
 まあ、それは、萌歌が怯えきって、拒絶しているのもあるだろうけれど……フィガロットも、どこかばつが悪そうに、それをさける傾向にある。
 やはり、ひっかかるものは、あるのだろう。
 いや。これで何にもひっかからない方がおかしい。
 それこそ、血も涙もない冷血漢になってしまう。
 少しの罪悪感くらい覚えて、当たり前。
 だって、いくら儀式とはいえ、このような遠くはなれた異国の地へ、何も知らない女性をひっぱってきてしまったのだから。
 その上、このような傷を負わせている。


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update:07/04/28