恋するマリオネット
(52)

「いい気なものね」
 描かれた血溜りにふむっと感心していると、突如、頭上から刺々しい声が降ってきた。
「え……?」
 萌歌と真央子は同時にくいっと顔をあげ、その声の主を確認する。
 すると、顔をあげたそこには、いまいましげに萌歌を見下ろす数人の女子学生の姿があった。
 先ほどまで、たしかに、嫌がるフィガロットを追いかけまわしていたはずなのに。
 とうとう、ふられてしまって、こちらへ流れてきたのだろうか?
 向こうの方で、男子学生たちと楽しそうにお化け制作をしているフィガロットを見ると――。
「この間まで光也くんをふりまわしていたと思えば、今度はフィガロットくん? 男をたぶらかして、はしたない女ね」
 女子学生たちは憎らしげにそう言い放たつと同時に、萌歌の肩をどんと押していた。
 その勢いに逆らえず、ぐらりと萌歌の体がゆらぐ。
 萌歌は慌てて体勢を立て直し、真央子の腕にしがみつく。
 真央子も慌てて萌歌を支える。
 そして、目の前にたちはだかる数人の女子生徒たちを、きっとにらみつける。
「あんたたちね、いい加減にしなさいよ。ただ、萌歌がねたましいだけでしょう。珍しい金髪碧眼の留学生をとられて。因縁つけてくるのじゃあないわよ」
「な……っ!?」
 ふっと鼻で笑うように、真央子はそう言い切った。
 そして、すいっと視線をそらす。
 萌歌の顔に手をやり、それをぐいっとそらしながら。
 そして、さっさとポスター作りを再開させようとする。
「ちょっと、真央子! あんた、萌歌の肩を持つ気!?」
 今度は、無視を決め込もうとする真央子の肩が、ぎゅっとにぎられた。
 それに、あからさまにむっと顔をゆがめて、真央子は乱暴にその手をふりはらう。
「肩を持つってねえ、これは、どこからどう見ても、あんたたちの方が――」
「ま、真央子。いいから。やめて」
 それから、真央子はそう言おうとしたけれど、それは何故だか萌歌にとめられてしまった。
「だって、萌歌……!」
 とめる萌歌に非難の眼差しをむけたけれど、真央子はそこでぐっと言葉をのんでしまった。
 萌歌が必死に目で訴えかけている。
 それ以上言ったら、真央子まで恨まれてしまう。だから、やめてと……。
 そのような目で萌歌に見つめられると、真央子は逆らえない。
 悔しそうに、ぎゅっと唇をかんだ時だった。
 また、頭上から声が降ってきた。
「お嬢さん方おそろいで楽しそうだね」
 見れば、見下ろす女子学生たちの横に、にっこり微笑むこの状況の原因がいた。
 瞬間、真央子の中で、何かがぶつりとぶっちぎれた。
「あんた……! どこに目をつけ――」
 真央子はそう言いかけ、ぐっと言葉をのんでしまった。
 とめるように強く真央子の腕をつかむ萌歌にもだけれど、それよりも、にらみつけるフィガロットが浮かべる、その目の奥の光に気づいてしまい。
 顔はにこにこ微笑んでいるけれど、その目は恐ろしく不気味に光っている。
「だけど、感心しないなー。君たちの綺麗な顔が台無しだよ? 美しさとは内面からにじみでるはずなのにね?」
 そしてやはり、フィガロットは極上の笑みを落とす。
「フィ、フィガロットくん!?」
 詰め寄る女子学生たちはかっと顔を紅潮させ、フィガロットからずざざっと後ずさる。
 そのような女子学生たちに、フィガロットはやはりにっこり微笑みとどめをさす。
「女性は、いつも笑っている方が魅力的でかわいいよね?」
 瞬間、女子学生たちに超ド級の雷が落ちた。
「な、何よ……!」
「覚えていなさいよ!」
 そう叫び、女子学生たちは悔しそうにだだだっと走り去っていく。
 まるで、嵐が去るように。
 転がるように逃げ去る女子学生たちを眺めながら、真央子は馬鹿にしたようにぽつりとつぶやく。
「わーお。典型的な捨て台詞をありがとう」
「真央子……。楽しまないで」
 がっくり肩を落とした萌歌の手が、真央子の肩にぽんとおかれた。
「あらん?」
 うなだれる萌歌に、真央子はくいっと首をかしげ苦く笑う。
 どうやら、萌歌には、真央子が途中から楽しんでいたことを気づかれていたらしい。
 本当に、萌歌の不幸を、災難を楽しむなんて、真央子はなんという親友なのだろうか。
 まあ、さすがに、この年になって、こどもじみた言いがかりをつけられたからと、真央子もこどものように怖いもの知らずなむちゃはしないだろうけれど。
 むむーと恨めしそうににらみつける萌歌と、から笑いで誤魔化す真央子を、フィガロットは困ったように見ている。
 そして、ぐいっと萌歌の腕をつかんだ。
「萌歌、ちょっと一緒に来て」
 そう言って、フィガロットは真央子から萌歌を奪い取る。
「え? フィ、フィガロット!?」
 萌歌はフィガロットをぎょっと見つめて、だけど素直にひっぱられていく。
 どうせ、逆らったところで、萌歌はフィガロットの力にはかなわないとわかっているから。
 そのような二人を、真央子はどこか楽しそうに見送っていた。
 恐らく、この後の二人の展開が、真央子には手に取るようにわかるらしい。
 くふふと、真央子はほくそ笑む。


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update:08/04/09