見捨てられた教会(3)
闇夜の月に焦がれる太陽

「なあ、メリッサ。たしか、地下室があるんだよな? それで、そこにいるのだろう?」
 どうにかほこりとくもの巣をかきわけ、礼拝台までたどり着いた。
 ニッキーは燭台の灯かりを左右にふり、辺りを見る。
「そうよ。この礼拝堂のちょうど礼拝台の下に、地下への扉があるのだって。そして、そこに棺があるそうよ。――ニッキー、楽しみでしょう?」
 ニッキーの問いかけに、メリッサは皮肉るようににやりと笑い、試すようにそう答える。
「ああ!」
 するともちろん、ニッキーは得意げに胸を張ってみせる。
 しかし、さりげなく足がふるふる震えている辺りから、強がっているだけだろう。
 そのようなニッキーに気づき、メリッサはくすくすとおかしそうに笑う。
 メリッサを、ニッキーがすねたようににらみつける。
「な、何だよ!?」
「べ〜つに〜」
 ニッキーの強がりが、さらにメリッサの笑いを誘う。
 ニッキーはむっと眉根をよせ、しかしここでむきになって否定すれば、余計にメリッサの笑いが増すと悟り、ふんと鼻をならしてさらに強がってみせる。
 ニッキーは、メリッサに口で勝てたためしがない。
 下手に言い返すよりも、この方が得策だろう。
 そして、おびえるマイクの背をどんと蹴り、燭台の灯かりを礼拝台下の床へと移していく。
 先ほどメリッサが、その辺りに地下へ続く扉があると言っていた。
 ニッキーは扉を探すふりをして、強がりを悟られないように誤魔化す。
 ニッキーと、ニッキーに蹴られながらマイクが、懸命に扉を探しはじめる。
 するとすぐに、床に違和感を覚えた。
 足で、たまったほこりをはらったそこに、床から突き出たものを見つけた。
 ニッキーは、それにすっと指をさす。
「メリッサ、これじゃないのか?」
 そして、扉を探すニッキーたちを楽しそうに見ていたメリッサへ視線を移す。
 メリッサは、さっと寄り、ニッキーが指さすそこを見下ろした。
「本当、こんなところにとってがあるわ。……きっとそうよ。これが、地下室への入り口に違いないわ!」
 ニッキーとメリッサは互いに目配せするように見つめ合い、こくんとうなずき合う。
 それから、ニッキーはその場にひざまずき、そのとってのすぐ横に燭台を下ろした。
 そして、ほこりがかぶったとってに触れ、ぐいっと持ち上げる。
 しかし、とっては動く気配がない。
「くそ〜っ。びくともしねえ!」
「錆びついているのかしら?」
 懸命に力をこめるニッキーの横で、メリッサがすまして首をかしげる。
「ねえ、みんなで引き上げてみれば?」
 そして、なんとも他人事のようにそう提案する。
 それに、瞬時に嫌な顔をしたのはマイクだった。
 どうして僕が、そんな力仕事をしなければいけないのだよ……とでも言いたげに、とても不服そうな顔をしている。
 だからまた、マイクはニッキーにげしっと足蹴にされてしまった。
 その横では、ジェリーが、馬鹿にするようにふうっとため息をもらしている。
「おい、マイクとジェリー。手伝えよ!」
 いらだたしげに、ニッキーがマイクをにらみつける。
「う、うん」
 すると、慌ててマイクがすとんとしゃがみこんだ。
 どうにも、ニッキーにすごまれたりにらまれたりすると、マイクは逆らえない。
「……わかったよ」
 ジェリーは、やはりため息をもらしながら、気が進まない様子でのっそりひざまずく。
 そして、三人、とってを持ち、力を合わせ、ぐいっと引き上げはじめる。
「お、重いよ。これ……」
「マイクって、本当に文句ばかりだな」
「う、うるさいなあ〜……」
「おら! がたがた言わず、ちゃんと力を入れる!」
 三人三様にそんなことを言いながら、喧嘩まじりに扉を持ち上げようと奮闘している。
 マイクに関しては、ニッキーが怖いので、渋々といった様子が相変わらずぬぐえない。
「けけっ。怒られてやんの、マイク」
「ジェリー、お前もだ!」
 おびえるマイクを嘲笑うようにそう言うと、今度はジェリーまでもニッキーに怒鳴られた。
 ジェリーはおもしろくなさそうに、ちっと舌打ちをする。
 マイクがニッキーに怒鳴り飛ばされるのはいつものことだけれど、ジェリーは自分が怒鳴られるのはとってもおもしろくない。
 おびえるマイク、すねるジェリー、そしていらだつニッキーの三人で、もう一度同時に力をこめてみた。
 すると今度は、ぎぎぎぎ……と気味の悪い音を立て、ゆっくりと扉がもちあがりはじめる。
 互いに顔を見合わせ、もう一度同時に力をこめてみる。
「開いたぞ!」
 次の瞬間、ニッキーが嬉々として叫んだ。
「やったわね!」
 メリッサも、嬉しそうに声を上げる。
 得意げにうなずき、ニッキーはすぐ横においていた燭台を持ち上げた。
「行くぞ、お前たち!」
 そして、そう叫び、開けたばかりの扉からのぞく、地下への階段を下りていく。
 それに、四人の子供たちもつづく。
 やはり、この階段も、ぼろぼろに崩れている。
 下手をすれば、そのまま足元が崩れ、いちばん下まで転げ落ちかねない。


 どうにか下まで降りきると、五人は緊張から解放されたように、ほうっと小さなため息をもらしていた。
 そんな自分に気づき、ニッキーはばつが悪そうに、いつものふてぶてしい態度をさっとつくりなおす。
 そして、手に持つ燭台をかざし、辺りを照らす。
 すると、すぐそこ、この地下室の中央に、存在をしっかりと見せつけるように、真っ黒い棺が横たわっていた。
 棺のちょうど胸の辺りには、銀の十字架がついている。
 まるで、その十字架で何かを守るように。
 ……いや、何かから守るように。
 棺のまわりには、やはりたっぷりとほこりがつもっている。
 しかし、その棺は、十字架の色までもわかるくらい、何もかぶっていない。
「おい……。まじかよ。まじであったぞ!?」
 どくどくと弾む胸を必死に落ち着かせながら、ニッキーが嬉しそうに叫ぶ。
「だから言ったじゃない。嘘じゃないでしょう! ねえ、マイク!」
 それに続け、メリッサも得意げに言い放つ。
 すると、瞬時に、マイクがしゅるしゅるしゅる〜と縮こまってしまった。
「意地悪だね、メリッサ。――悪かったよ。僕が悪かったよ。おばあちゃんのことは謝るよ」
 そして、ぷうっと頬をふくらませ、ぶっきらぼうにつぶやく。
「それでいいのよ」
 ばつが悪そうなマイクを見て、メリッサはにやっと微笑む。
「ねえ、それよりも、あけてみようよ?」
 二人の横では、ジェリーがわくわくとした様子で、ニッキーにそう提案していた。
 すると、ニッキーも得意げに言い放つ。
「おう!!」
 そうして、ニッキーが代表となり、銀の十字架がついた棺の蓋に手をかけた。
 すると、思いのほか簡単に、蓋は持ち上がった。
 それを見た子供たちは、好奇にきらきらと目を輝かせる。
 ――瞬間、断末魔に似た悲鳴が、この気味の悪い教会を覆った。


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