首都への招待状(2)
闇夜の月に焦がれる太陽

 遠くの方で、乱暴に地を蹴る音がする。
 それは、次第に大きくなり、そう時を要さずすぐそばまでやって来た。
 かと思うと、何故かマリーベルが暮らす小屋の前でぴたりととまり、同時に吹っ飛びそうな勢いで扉が乱暴に開かれた。
「マリーベル! どういうことよ!? あのぼんくら馬鹿当主のところへ行くって!!」
 間髪をいれず、一気に叫び散らす。
 いきなりのことに、マリーベルは思わずぎょっと扉を見た。
 マリーベルの家を壊す狼藉者は誰だと視線を向けると、そこには、ぜいはあと肩で荒い息をし、悪魔の如き形相で小屋中を見まわすロザリアが立っていた。
 開けられた扉は、いまだびりびり震えている。
 ぴたりとマリーベルに焦点を定めると、ロザリアはそのままずんずん歩み寄る。
「ロ、ロザリア、びっくりするじゃない」
 ほうと小さく息をはくマリベールの両腕を、ロザリアは乱暴につかむ。
「びっくりするじゃないじゃないでしょう! ねえ、一体どういうことなのよ!!」
 マリーベルの腕をにぎる手にぎゅうと力をこめ、ロザリアはずいっと詰め寄る。
 あまりの力強さに、マリーベルは思わず顔をゆがめた。
「どういうことって、そういうことかな〜?」
 マリーベルは目線をあらぬ方向へやり、あえてすっとぼけてみせる。
 これだけの剣幕のロザリアに何を言っても無駄だと、マリーベルは早々に誤魔化すことに決めた。
 ロザリアがマリーベルラブなのも知っているし、あれ以来、どこかのぼんくら馬鹿当主を死ぬほど嫌っていることもマリーベルは知っている。
 だから、まともに相手をすれば、マリーベルが窮地に追い込まれる。
 それをさけるためとぼけることにしたけれど、どうにもロザリアの視線はちくちくさしてとっても痛い。
 そこで、マリーベルは次の手に出ることにした。
 あははと愛想笑いをしながら、目線をデュークへ送る。
 デュークは、奥のソファでまったりくつろいでいる。
 いつかのように、首都へ向かうための準備をするマリーベルを、ロザリアが闖入するまでデュークは楽しげに眺めていた。
 やっぱりデュークにも何を言っても無駄だと諦めて、マリーベルはそのまま放置していた。
 デュークは、向けられたマリーベルの視線に気づくと、ひくりと頬をひきつらせた。
 とっても嫌な予感がしたのだろう。
 もちろん、その予感はさらに嫌なことに的中する。
 マリーベルの泳ぐ視線の先にめざとく気づき、ロザリアはマリーベルを解放し、その視線の先へずんずん歩いていく。
 デュークは身の危険を感じたのか、座っていたソファからばっと立ち上がり身構える。
 同時に、すぐ目の前までロザリアは迫っており、そのまま後ずさるデュークを壁際まで追いやっていく。
 デュークの背がとんと壁にあたり、逃げ場を失った。
 どすんと、デュークの顔の横に怒りに震えるロザリアの拳がうまる。
「さあ、きっちり答えてもらおうじゃない、当主さま? どうしてあなたさまは、こうもマリーベルにつきまとうのでしょう!?」
 射殺さんばかりの勢いで、ロザリアはデュークをにらみつける。
 気おされそうになりつつも、デュークはふと口のはしをあげた。
 そして、ひょうひょうと言い切る。
「愛しているから」
 瞬間、マリーベルとロザリアのダブル鉄槌が下ったことは言うまでもない。
 まったく、この大ボケ当主は何を言い出すのだろうか。
 冗談にしても、誤魔化すにしても、たちが悪すぎる。
 デュークがマリーベルを愛しているなど、間違ってもあり得ない。
 あんな、女好きなんて噂がある当主にそんなことを言われても、ただ腹立たしいだけ。
 マリーベルは汚らわしげに、鉄槌が下り床にしゃがみこむデュークを見下ろす。
 殺してやろうとじわりじわり寄るロザリアに気づき、さらなる身の危険を感じ、デュークは慌てて体勢を立て直す。
 そして、やはり意地が悪い笑みをすっと浮かべた。
 ちらりと、試すようにロザリアを見る。
「まあ、それはさておき、どうしてマリーベルが俺のところに来ちゃいけないのかな? ロザリアちゃん」
 ぴくりと、ロザリアの眉が怒りにゆがむ。
 それから、鼻で笑うようにすっとデュークに視線を流す。
「決まっているじゃない、あなたのところなんかにマリーベルをやったら、何をされるかわかったものじゃないわ!」
 どすんと、またデュークの顔の横の風をきり、ロザリアの拳が飛ぶ。
 しかし、デュークは気にしたふうはなく、くすりと笑った。
「心外だなあ。俺はそんなにひどい男じゃないぞ?」
「嘘おっしゃい! ネタはしっかり上がっているのよ! あなた、ずいぶんおもてになるそうじゃないの? そう、毎夜毎夜、ともに過ごす女性には困らないとか!?」
 どすんと、もう一発、デュークの顔の横の壁にロザリアの拳がうまる。
 びーんと、小屋全体が揺れたような気がした。
「まいったなあ、本人をさしおいてそんなことまで噂になっていたのかあ。それにしても、マリーベルだけじゃなくロザリアちゃんにまで知られていたとは……。俺もまんざらではないってことかな〜?」
 デュークはぽりぽり頭をかき照れたふうを装い、やはりロザリアをからかうようににたにた笑う。
 その後、ロザリアがどのような行動に出たかは言うまでもない。
 壁に拳をうめるはずの手もとは意図して狂い、そしてデュークの左頬がほんのり赤みをさした。
 さすがにはじめの頃はマリーベルもロザリアとともにデュークを非難しようとしたけれど、途中からなんだか馬鹿馬鹿しくなり、二人をほって荷造りのつづきをはじめていた。
 デュークがロザリアをからかいはじめた辺りから、結果など見えていた。
 この二人のやりとりは、近頃ではよく見るようになった。
 デュークがマリーベルに会いに来るたび、ロザリアが妨害しに来る。そうすると、デュークがロザリアを挑発しからかい、追い返す。それの繰り返し。ロザリアは結局、毎回返り討ちにあっている。
「ねえ、デューク、荷造り終わったわよ」
 そろそろデュークの勝利が見えてきた頃、マリーベルは面倒くさそうにそう声をかけた。
「ほら、遊んでいないで、早くしなさいよ。すぐに立つのでしょう?」
 さらにたたみかけるようにマリーベルが言う。すると、デュークははっと気づいたようにマリーベルを見た。
 勝負の勝敗が決まる前にさらっと戦線離脱して、さっとマリーベルへ駆け寄る。
「ああ、そうだな、すぐに立とう!」
 また新たなお邪魔虫がやってこないうちに、デュークは心のうちでそっとそうつぶやく。
 あっけないその結果に、ロザリアはちっと舌打ちする。
 何よりも、その様子から、明らかにマリーベルが自分の意志ですすんで行こうとしているのが、ロザリアはとてつもなくおもしろくない。
 デュークが強引にというなら何がなんでも邪魔するところだけれど、それがマリーベルの意志となるとそうはいかない。
 ロザリアは、マリーベルの邪魔をすることだけはできない。


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