首都への招待状(3)
闇夜の月に焦がれる太陽

 マリーベルのもとに駆け寄ると、デュークはその足元に置かれたマリーベルの荷物をさっと持ち上げる。
 マリーベルもすでに諦めているようで、それをとめようとはしない。
 まあ、持つにしても玄関前までなので、かまわないだろう。
 もうすぐしたら、リープ家の馬車が玄関前まで迎えにやって来る。
 デュークの出番はそこまで。
 とりあえず、玄関まで荷物を運ぶと、デュークは再びマリーベルのもとに戻ってきた。
 そして、当たり前のようにマリーベルの肩を抱こうと手をのばす。
 しかし、その瞬間、その手がふっと掻き消えた。
「てめえっ! 性懲りもなくまた来やがったのか! 殺す! 今度こそ、絶対に殺してやるっ!!」
 同時に、デュークの体は壁に乱暴に打ちつけられていた。
 いつの間にやってきたのだろう、額におびただしい数の青筋をたてたショーンが、殺意に満ち満ちた目でデュークをにらみつけていた。
 デュークの胸倉をつかむショーンの手がそのままなめらかに移動して、デュークの首をとらえた。
 デュークは、ショーンからさっと視線をそらし、ぼそりつぶやく。
「やっぱりでた……」
 迷惑きわまりないといったように、デュークは細い息を吐き出す。
 それから、さらりと首をつかむショーンの手をはらいのけた。
 逆に、ショーンを壁におしやり、馬鹿にするように口のはしをあげる。
「ボクちゃんには関係ないの。ほら、お邪魔虫はさっさとお家に帰って寝なさい」
 デュークは、ぺちぺちと、ショーンの頬を手の甲でかるくたたく。
 それから、ショーンの胸倉をぐいっとつかみ、そのまま玄関へむけてぽいっと放り投げる。
 よたよたと玄関へ倒れるようにショーンの足が動いたことを確認し、デュークは今度こそマリーベルの肩を抱いた。
 そして、どうにか体勢を立て直したショーンへ向けて、追い払うように手を振る。
「さ、マリーベル、行こう」
 デュークは、マリーベルにこぼれんばかりの笑顔を向ける。
 それは明らかにショーンにあてつけている。
 マリーベルは面倒くさそうに大きくはあと息を吐き出した。
 そして、肩を抱くデュークの手を、べちんとたたく。
「ひどい、マリーベル」
 たたかれた手にふうふう息を吹きかけ、デュークは恨めしげにマリーベルを見つめる。
 マリーベルは、もう一度大きなため息をつく。
「ほんと、馬鹿……」
 マリーベルはぼそりつぶやくと、訴えるような視線を向けるデュークをさっさとおいて、すたすた玄関へ歩いてく。
 そのついでに、ロザリアとショーンも家の外へ促す。
 これから出かけるのだから、二人をさっさと追い出し、戸締りをしなければならない。
 なんだかもういろいろなことが、マリーベルは面倒くさくなりつつある。
 どうして、マリーベルのまわりには、こんなに面倒な人ばかりいるのだろう。
 デュークは、相変わらずその場にとどまり、じめじめといじけたようにマリーベルを見つめている。
 これでは、埒が明かない。なかなか戸締りができない。
 マリーベルはこめかみ辺りをおさえ、がっくり肩を落とす。
 それから、諦めたように、いじけるデュークの元へ戻り、すっと手を出した。
「まったく、手だけよ」
 デュークは複雑そうに微笑み、マリーベルの手をとる。


 迎えにやって来た馬車に乗り込むマリーベルとデュークを、ロザリアとショーンはぼんやり眺めている。
 御者に指示し荷物を積み込むと、デュークはマリーベルの手をとり馬車へ乗せた。
 もうここまできてしまっては、ロザリアもショーンも、マリーベルをとめる気にはなれない。
 いや、マリーベルがそうと決めた時点で、とめるつもりはなかった。
 マリーベルは一度そうと決めたら頑としてゆずらないし、とめようものなら逆に返り討ちにあう。
 何より、マリーベルの意志を尊重したいと思っている。
 ただ、デュークが気に入らないので、いろいろ言ったりしたりして、最大限の邪魔と嫌がらせはする。
 さすがに、それくらいはしないと、二人の気がすまない。
 何しろ、二人の大切な幼馴染を、どこかの馬鹿当主はさらっていくのだから。
 たとえ短期間とわかっていても、またこの町に戻ってくるとわかっていても、マリーベルがいなくなるのは淋しい。
 マリーベルがロザリアとショーンに手をふり簡単なあいさつをすると、馬車は動き出した。
 実にあっさりした別れ。まあ、誰もがその程度のこと、一時町を留守にするとしか考えていないので、その程度でもおかしくはないだろう。
 マリーベルをさらっていく馬車をぼんやり見送りながら、ショーンがぽつりつぶやいた。
「よかったのか? 二人を行かせて……」
「ショーンこそ……」
 ロザリアはふと気づき、ちらっとショーンに視線を流し、苦笑する。
 そして、一度目をとじ、すっとあけた。
 その口元は、何かを諦めたように、吹っ切れたように、わずかにあがっている。
「わたしはいいのよ。だって、マリーベルはきっと、あの変人当主のこと、嫌いじゃないわ」
「そうか……」
「だけど、あの男だけは絶対に認めない」
 妙に静かに答えるショーンの横で、ロザリアは握り拳をつくりふりあげる。
 ショーンは一瞬あっけにとられたようにロザリアを見て、そしてふっと笑った。
 それから、断固とした決意に満ちた眼差しで、すっかり小さくなった馬車をにらみつける。
「俺も!」
 ショーンが高らかに宣言する。
 ロザリアはちらっとショーンを見て、肩をすくめた。
「あなたも、大変な恋をしたものね」
「まったく……」
 ショーンも自嘲気味に肩をすくめる。
 それから、ロザリアとショーンは互いに見つめあい、また何かを諦めたように苦笑した。
 空はそろそろ茜色にそまりはじめている。
 晩秋の風が、二人の肌をさす。
 空に浮かぶ白い月が、ロザリアとショーンにとりとめのない不安と淋しさを運んでくる。


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