太陽と月の恋歌(5)
闇夜の月に焦がれる太陽

 バディの弟を皮切りに、この一週間ほどで、リープ家のハンターは半減してしまった。
 どれも、それは悲惨な末路だった。
 なかには、判別さえできないほど傷つけられた遺体もあった。
 その所業から、どれほどリープ家に恨みを持っているのかはかりしれない。
 同じ殺すにしても、あの光景は凄惨すぎる。
 吸血鬼からすれば、それくらい晴らしても晴れない恨みを持っているのだろう。
 吸血鬼に恨まれても仕方がないことを、ヴァンパイア・ハンターはたしかにしている。自覚もある。
 彼らはただ純粋に自らの生命を維持するために食事≠しているにすぎないのだろうけれど、それは人間からすれば脅威になる。
 そこで、人間たちは、人間を襲った吸血鬼をハンターと呼ばれる人々を使い退治していっている。
 吸血鬼(かれら)には当たり前のことで命を奪われるのだから、その行為が理解できず憎悪の念を抱いても無理からぬことだろう。
 ただ立場が違うだけで、どちらも生命の維持に努めているだけ。
「一般人に犠牲者はいなくたって、ハンターには犠牲者がでているじゃない。どうしてそんなに落ち着いているのよ!?」
「それが、ハンターの定めだから」
 責めるように怒鳴るマリーベルをまっすぐ見つめ、デュークは静かに答える。
 マリーベルはぐっと言葉を飲み込み、悔しそうに唇をかみしめた。
 ぷいっと、デュークから顔をそらす。
 たしかに、デュークは間違っていない。正しい。
 それが、ハンターの定め。
 吸血鬼と対峙し、たとえ命を落とそうとも、それがハンターに与えられた義務であり定め。
 皆が覚悟していること。
 そう考えれば、冷徹に思えるデュークの対応も、当然のことかもしれない。マリーベルがいちいち気にしすぎなだけかもしれない。
 簡単な言葉で片づけられているようだけれど、ヴァンパイア・ハンターたちにとっては決して簡単ではない。胸の奥にずしんと響く、重い重い言葉。――定め。すべてはそこに集約されている。
 ふと何かに思い至ったように、マリーベルは勢いよくデュークへ振り返る。
「でも、どうしてリープ家ばかりが……? たしかに、首都を管轄しているハンター一族はリープ家だけれど。わたしみたいに、首都に滞在しているハンターは他にもいるでしょう? なのに、何故?」
 マリーベルは、怪訝に顔をゆがめつぶやく。
「そ、それは……」
 デュークは心当たりでもあるのか、歯切れ悪く口ごもった。
 思わずマリーベルから視線をそらす。
 そのデュークらしからぬ様子に、マリーベルはそれ以上追及しようとはせず、まっすぐに前を見つめさっと立ち上がった。
「いいわ、この街にまたヴァンパイアが紛れ込んだことは間違いないものね」
 デュークは静かにうなずいた。
 そして、すっと立ち上がる。
「ファーガソン侯爵さま、申し訳ありません。せっかくお時間をいただいたのに……」
 マリーベルはファーガソンに向き直り、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
 すると、ファーガソンはすべてを得心しているように、大きくうなずいた。
「かまわないよ、吸血鬼が出たとあっては、君たちが動かないわけにはいかないからね」
 ファーガソンはおだやかに微笑む。
 マリーベルは、うかがうようにファーガソンを見つめる。
「すみません、あの、またあらためてうかがってもよろしいですか?」
 今回は吸血鬼に邪魔されてしまったけれど、これが解決すればマリーベルはまたあらためてやってくる気である。
 まあ、たしかに途中からデュークとの言い争いで脱線してしまい、中途半端になってしまったので、あらためる必要はあるだろう。
 マリーベルはまだ、肝心なことは尋ねられていない。
「ああ、もちろん」
「ありがとうございます」
 ファーガソンが気前よく答えると、マリーベルはほっと胸をなでおろした。
 マリーベルはぺこりと頭をさげると、そのままデュークの横に控えるジョナスにつかみかかった。
 胸倉をつかみ上げ、憎らしげににらみつける。
「どうして、デュークには言って、わたしには言わなかったのよ!」
 ぎゅぎゅぎゅーと首までつかみ上げ、ぎちぎち締め上げる。
 明らかな八つ当たりに、ジョナスはただ苦しさを誤魔化し、愛想笑いするしかなかった。
 いくら主の命令で、そしてジョナスも納得していたといっても、これではあまりに分が悪すぎる。
 ジョナスは恨めしそうにちらりとデュークを見た。
 すると、デュークは慌ててさっと顔をそらした。
 ジョナスの中に、デュークに対する憎しみがじわじわ沸き起こってくる。
 逃げた、逃げやがった、と。
 デュークは殺気でも感じたのだろうか、びくんと体を震わせると、さっとマリーベルを抱き寄せた。
 抱き寄せると同時に、ジョナスの胸倉からマリーベルの両手も離れる。
 このまま放置していては、デュークの立場が危うくなるとでも思ったのだろう。いや、ただたんに、マリーベルとジョナスが仲良くしているのが嫌だっただけ?
 まだ締めたりないと暴れるマリーベルをおさえつけながら、デュークはファーガソンに一礼をした。
 同時に、わずかなすきをつき、マリーベルはデュークの腕の中から抜け出て、再びジョナスに攻撃をしかけにいく。
 そうして、マリーベルをくっつけたまま、ジョナスは深々と頭を下げると、一足先に扉へと向かった。
 マリーベルは、ずーるずーるとジョナスに引きずられていく。
 デュークもやれやれと肩をすくめ、その後に続こうとする。
 けれど、デュークの腕がファーガソンにつかまれ、引き止められた。
 デュークは目をしばたたかせ、ファーガソンを見つめる。
「デュークくん、ひとつだけ聞いてもいいかな」
「ファーガソン卿?」
 妙に険しい顔で見るファーガソンに、デュークは首をかしげる。
 ファーガソンは、鬼気迫った様子でデュークに詰め寄る。
「君は、彼女のことを、マリーベルさんのことを、どう思っているのだい? 彼女は、ひどく身分のことを気にしているようだけれど」
 あっけにとられたようだったデュークの口元が、ふっと得意げに上がる。
 ファーガソンの言葉の意図するところが、デュークにはわかったのだろう。
「決まっていますよ、そんなものはどうでもいい。俺がマリーベルを求めている、ただそれだけです。マリーベルは身分がつりあわないといって、俺を受け入れようとしてくれない。けれど、そんなのは関係ない。俺がただ彼女を欲しているだけ。彼女がいればそれだけでいい」
 デュークは、真剣み帯びた力強い眼差しできっぱり告げる。
 するとファーガソンは、どこか安堵したように肩の力を抜いていく。
「そうか、わかった。――では、彼女を追って、そして必ず守り抜くのだよ」
 そして、そう言うと、デュークの手をぱっとはなし、促すようにとんと背を押した。
 デュークは促されるまま、ファーガソンの言葉にひっかかりを覚えるものの、そのままたっと駆け出した。
 今はとにかく、マリーベルを追うことが先決だろう。
 部屋を出る瞬間、デュークはちらりとファーガソンを見た。
 ファーガソンは、何故か満足そうに微笑んでいた。


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update:10/05/12