こねと権力と財力とペテン師と
ペテン師

 ママは高瀬を紹介した後、この世の終わりな表情を浮かべるわたしに、この世の天国という笑顔を向け、うきうきるんるんと去っていった。
 遠い異国の地、パパのもとを目指して。
 スーツケースひとつとハンドバッグひとつを持って。
 そして今、この家には、南川家には、世界一運がなく不幸な少女わたしと、この世でもっとも危険でインチキな教師高瀬だけがいる。
 ソファーに座り、嫌味なくらいスマートに足を組み、高瀬はにやにや微笑んでいる。
 その横に、高瀬に肩を抱かれ、当たり前のようにわたしは座らされていた。
 もう、頭はくらくらの真っ白で、何も考えられない。
 学校一の才女の名をほしいままにしているこのわたしが、こんな屈辱、辱めを受けるだなんて……。
 悔しくてたまらない!
 こんな常識からかけ離れたことを、どのようにして実行することができたの?
 と、そんな何とも単純なことを高瀬に聞いていた。
 そう、何か話さないと、間がもたない。
 ……というか、危ない。
 例の教官室のキス事件から、何かと警戒はしていたものの、こんなに至近距離でまともな思考を失ってしまっては、高瀬の思う壺になってしまう。
 だから、とにかく何かを言わなければ。
 そう思い、とりあえず、思いついたことを口にしてみた。
 すると高瀬は、わたしの肩においていた手をするりと腰にずらし、ひょいっと抱き上げた。
 そして、これまたむかつくくらい当たり前のように、その膝の上にわたしを座らせる。
 さらに、後ろからきゅっと抱き締められる。
 ふうと生暖かい息を吹きかけながら、わたしの耳元で甘くささやく。
 ……十分に、威圧を込めて。
「こねと権力と財力は、最大限活用しないとね?」
 最後には、おどけたように首をかしげていた。
 この男、やっぱり誰にもとめられない。
 というか、あなたは仮にもうちの学校の教師でしょう。
 その教師が、こんなことをして大丈夫なの!?
 と叫びたいところだけれど、この男なら恐らく大丈夫だろう。
 何があろうとも、こともなげに簡単にするりとすりぬけ、ひょうひょうとかわしきる。
 うん、絶対にそう。
「こんのペテン師ー!!」
 次の瞬間、高瀬の腕の中でわたしはそう絶叫していた。
 もちろん、高瀬から逃れるべく、もがきにもがいて。
 だけど、当然のように逃れることはできない。
 嗚呼、もう、本当……。誰か、この状況をどうにかしてください。
 叫びもがくと、高瀬はさらにぎゅっとわたしを抱き締めた。
 そして、ひょいっと顔をつきだしてきて、わたしのほっぺにちゅう。
 ……なめているのかっ!
 そんなことくらいで、大人しくなると思わないでよ。
 むしろ、さらに大暴れしてやる!
 ぎんと高瀬ににらみを入れた瞬間、わたしの顔から血の気がひいた。
「最高の褒め言葉だよ」
 そんなことを、高瀬がにっこり笑ってささやいたから。
 もちろん、その目には、この上ないというくらい極悪な色をたたえている。
 そして、ぐいっと顔を引き寄せられ、またしてもされた。
 キス――。
 ……この男、教師の自覚はないのか!
 と、そんなことは言っても無駄。
 何しろ、この男には、最初から教師の自覚など、いや、人としての良識など備わっていないのだから。
 ただ、自分が思うまま、したいまま、それだけに従順に生きている。
 生まれついてのわが道を行く俺様極悪人間。
「それにしても、こんなにうまくいくとは……。俺って、そんなに世間では信用があるのかな?」
 高瀬はにやりと笑って、さらにごろごろと、その顔をわたしの頬にすり寄せるてくる。
 まるで猫のように。
 だからあなたは、ライオンじゃなかったの?
 ネコ科ではあるけれど、ライオンと猫では、雲泥の差があるわよ?
 百獣の王はどうしたのよ、百獣の王は!
 たしかに、あなたのその俺様な性格だけは、百獣の王並みだけれど。
 ……いや、それ以上。
 高瀬はわたしをきゅっと抱き締め、すりすりと頬ずりし、思い切りわたしを堪能している。
 訳が、まったくもってわからない。
 これに、一体何の意味があるの?
 嫌がらせ? これもやっぱり、嫌がらせのひとつなの!?
 ……やめて。
 お願いだから、やめて。
 誰かこれは嘘だと言ってください。
 こんな現実、絶対に認められない。
 どうしてわたしは今、ペテンな学校一の人気教師の腕の中で、頬ずりされているのでしょう?
 もう、どうしたって答えを導き出せない、最大の謎。
「これからの同棲生活、楽しみだな?」
 さらにはそんなことを言って、高瀬はまたわたしの唇を奪う。
 その後も、何やらいろいろと高瀬のいいように扱われていた。
 何度も触れるようなキスをされる。
 どのキスも、あたたかくて優しかったことはたしか。
 熱っぽくわたしを見つめていたこともたしか。
 まるで、壊れ物を扱うように抱かれていたことも、たしか。
 嗚呼もう……。
 抵抗する気も起こりません。
 あまりにも、わたしの常識から逸脱しすぎていて。
 そうして、流されつづける。
 これは、わたしが最も嫌いとするパターン。
 ところで、どうしてこんなことをするの?
 やっぱりこれも、嫌がらせのひとつ?
 とんでもない嫌がらせだわっ。
 これから、このインチキセクハラエロ教師とともに、生活していかなければならないの?
 ねえ、本当に!?
 明日といわず今日のうちにでも、乙女の貞操が大ピンチだというのに!?
 平気で学校内で、教え子に手を出す教師だもん。この高瀬昂弥というインチキ教師は。
 もう、こんな生活、嫌。
 というか、あくまで同棲ではなく、同居!
 そこだけは、絶対にゆずらない。


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update:04/01/20