おとなってきたない
ペテン師

「今日から、俺がこのクラスの担任だから」


 朝食を終えて、一緒に登校するという高瀬をまき、一人どうにか学校へやってきた。
 まったく、あの男は一体何を考えているの!?
 そんなことをすれば、一気に同居がばれてしまう。
 それは、わたしにとっても高瀬にとっても、かなりまずいことに決まっている。
 インチキ、ペテンだけじゃなく、あの男は本当の馬鹿かもしれない。
 ふとそう思ってしまった。
 ほっと胸を撫で下ろし、教室に入る。
 そして、クラスメイトと一言二言言葉をかわし、自分の席についた。
 その時、始業前のショートホームルームの合図のチャイムが鳴った。
 普段のわたしなら、もっと時間に余裕をもって登校しているのだけれど、今日はインチキ教師をまくのに時間がかかり、ぎりぎりの時間になってしまった。
 だから、ちょっと驚かれたりもした。
 でも、絶対にその理由は言えない。
 「ちょっと、寝坊しちゃってね」なんて、嘘八百。
 すると当然、「あの南川さんが!?」と目を丸くして驚かれる。
 ……それが、ちょっと心苦しかったりする辺り、やっぱりわたしって、融通がきかない真面目っぷり。
 というか、あの男、あのインチキ教師、どうにかして。
 一緒に登校などできるわけがないでしょう!
 ばれる。絶対にばれる。即座にばれるから!
 教師のくせして、やっぱり馬鹿だ。
 チャイムが鳴ると、みんな律儀にそれぞれの席につく。
 だけど、席についてもぺちゃくちゃおしゃべり。
 真面目なのだか不真面目なのだか、微妙なところ。
 それがこのクラスだったりする。
 わたしも、わたしの席の後ろの委員長、浦堂要(うらどうかなめ)と会話をかわしている。
 浦堂は、わたしが苦手としない人種に入る。
 むしろ、いろいろな点で意見が合い、話しやすかったりする。
 いつかのインチキ教師のペテンな大量課題の時、一緒に高瀬を鬼教師と呼んだ仲。
 まあ、わたしもこのクラスの副委員長だったりするから、普段から何かと仲はよかったりするけれど。
 そうして浦堂と話していると、がらっと教室の扉が開いた。
 そこから姿を現すのは、当然、頭が淋しさを増したお腹がたぬきな我らが担任……。
 と思いきや、そこに姿を現したのは、学校一の人気教師、高瀬昂弥だった。
 またの名を、ペテン師。
 当然、そんな教師が姿を現したものだから、女子生徒のみなさんはきゃあと黄色い歓声を上げ、高瀬を迎え入れる。
 わたしは呆然とその光景を見ていた。
 別に、高瀬が入ってくるのはおかしくはない。
 しかし、その時間が問題。
 始業前のショートホームルームといえば、当然それは担任が任された時間。
 なのに、担任でも副担任でもない高瀬が、どうして今?
 そんな簡単な疑問に、当然女子生徒のみなさんは気づくはずもなく、男子生徒のみなさんは「高瀬、朝っぱらから酔っ払うなよ」なんて、げらげら笑って楽しんでいる。
 しかし、わたしは見てしまった。
 高瀬のその手に持たれた、薄っぺらい黒い物体を。
 我がクラス、二年三組≠ニ書かれた、黒い出席簿。
 ……待て。
 今、とんでもないことを想像してしまったわたしの脳、待て。
 それは、それだけはあり得ない。
 いくらインチキ教師高瀬だからといって、さすがにそれは無理でしょう。
 ――いや、無理じゃないかもしれない。
 こいつなら、やる。やれる!
 瞬時に顔色を失ったわたしを、浦堂は心配そうに見ていた。
 しかし、そんなことは、今のわたしにはどうでもいいこと。
 問題なのは、高瀬が今ここにいるということ!
 次の瞬間、当たり前のようにわたしは地獄にたたき落とされた。
 とんと教卓に出席簿を置き、高瀬はにっこり微笑む。
「今日から、俺がこのクラスの担任だから」
 さらっとそんなことを言いながら。
 ――当たってしまった。
 みごと、的中。わたしの予想。
 さすがは、学校一の才女とうたわれる南川楓花。
 よみ、ばっちりです!
 高瀬の言葉を聞いた瞬間、わたしはばたんと机に突っ伏していた。
 あ、あ、あり得ない。
 こんな非常識なこと。
 しかし、このお気楽極楽クラスではあり得てしまうらしい。
 女子生徒のみなさんは、さらにきゃあと嬉しそうな悲鳴を上げ、男子生徒のみなさんは、高瀬のその普通じゃない行動におお!とどよめき感嘆している。
 クラスあげての大盛り上がり。
 高瀬を大歓迎。
 ……するなよ、そんなもの。
 こんなインチキ教師が担任になって、いいことなんてこれっぽっちもあるものか!
 このインチキペテン教師は、またしても使ってくれたな。
 こねと権力と財力を。
 しかもそれに加え、その立場まで利用したのね。
 ちっくしょー!
 理事長の孫が、一体何だって言うのよー!
 誰かとめてよ、この男の暴挙!
 校長! あなたは、このペテン師のわがままを容認されるのですか!? 校長!
 こんな奴が担任だなんて、もう完全に、わたしの高校生活は闇色。
 大人って……大人って……。
 きたない。
 というか、何が目的でわざわざ面倒な担任になんてなったの?
 ……とは聞かなくても大いにわかる。
 わたしへのいやがらせ、それしかない。
 むかつくっ。
 またしても、ペテン師の罠にはまった気分。
 いや、やられた? 実際。
 頭を抱えるわたしに、誰にも気づかれないように、高瀬はふふんと笑いかけた。
 してやったりと。
 ――な、殴り倒したいっ。
 というか、もともとの担任のお腹たぬき先生は、どうなるのでしょう?
 ちょっと、いや、かなり気の毒になったりして。
 あの先生、その体格に似合わず、結構神経が細い先生だったからな……。
 ご愁傷さまです。


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update:04/01/30