リングの誓い
ペテン師

「高……瀬……」
 そらすことなくまっすぐにわたしの目をみつめ、静かに告げられた高瀬の思い。
 それまで、胸に抱え込んでいた高瀬の精一杯の思い。
 わたしはそれに答えるように、つぶやいていた。高瀬の名を。
 そして、わたしもじっと高瀬を見つめる。
 だって、そんなことを聞かされては、わたしはもう……。
 ううん、そんなことを聞かなくても、わたしはもう決めていた。
「仕様がないなあ。高瀬の好き、信じてあげる」
 そう言って、いつの間にかこぼれていた涙など気にすることなく、ぽすっと高瀬の胸に顔をうずめる。
 そして、そこから少し顔をあげ、微笑んであげた。
 嬉しいと、幸せだと、気持ちをいっぱいこめて。
 そうしたら高瀬は、本当に本当に幸せそうに、これ以上の幸せはないというくらいに、優しくやわらかく微笑みやがった。
 それから、ごそっとポケットをあさり、きらりと輝く小さなリングを取り出してきた。
 それは、いつか……ううん、今も高瀬のその左手薬指に輝いているリングと同じもの。
 ただ、それよりも小さいというだけ。
 ――ペアリング……?
「楓花、これ……」
 高瀬はぐいっとわたしの左手をとり、薬指に、半ば強引にそれをはめてきた。
 それはもう驚くくらいスマートに。当たり前のように。
「た、高瀬!?」
 驚き、高瀬を見つめると、にっこりと得意満面に微笑みやがる。
 その微笑みには、インチキペテンっぷりを感じずにはいられない。
「だから、これは楓花のもの」
 やっぱり高瀬は、俺様ちっくににっこり微笑む。
 楓花は俺のものだよと、自信たっぷりに。
 まったくもう、この俺様インチキペテン師はっ。
「くすっ。エンゲージリングを通り越して、マリッジリング?」
 だから、悔し紛れに揚げ足をとってやる。
 本当、このペテン師は、気が早すぎ。
 わたしはまだ、あなたのことを好きとすら言ってあげていないのに。
 ……まあ、まだ、わたし自身にも、この男が好きかどうかはわからないけれど。
 ただ、この男の好きは信じてあげるとそう思っただけ。
 しかし、このペテン師、さすがは俺様ペテン師、わたしの揚げ足なんて取るに足りないとばかりに、やっぱり俺様ちっくに得意げに微笑む。
 にやりと、どこか含みがあるように。
「残念。もちろん、これもある」
 高瀬はまたポケットをごそごそあさり、きらりと輝くものを取り出してきた。
 それもまた、リングの形をしている。
 だけど、さっきのようにシンプルなものじゃなくて、その頂には小さく輝くものがある。
 きらきらと綺麗に光を反射する、それ。
「給料の三ヶ月分だっけ? あれ? 半年? まいったなあ。俺、そういうのにあまり詳しくないから」
 高瀬はなどとおどけてみせながら、さっきリングをはめたその上からそのリングまでもはめてきた。
 わたしの左手薬指には、二つの輝くリング。
「相変わらずの……周到ぶりねっ」
 高瀬の手によってはめられたばかりのその指輪たちをぐいぐいと引き抜きながら、ぎろっとにらみつけてやる。
 だけどやっぱりわたしは、高瀬の胸の上にいたまま。
 そんな構図でこんなことをしても様にならないことくらい、わたしだってちゃんとわかっている。
 だけど、でも……やっぱり悔しいじゃないっ!
 なんだか高瀬の思い通りという感じがして。
 指輪を抜くことに手間取るわたしの手に、高瀬はそっと両手をかぶせてきて、そんなことはさせないぞとぎゅっと握り締める。
「お誉めにあずかり光栄」
 そして、おどけたように微笑む。
 相変わらずの優しいその目で、わたしを見つめる。
 ……というか、誉めていないって、全然。
 まったく、この勘違いペテン師めっ。
 高瀬はきゅっとわたしの手を握ったまま、ぐいっとわたしを引き寄せる。
 再び、その胸いっぱいでわたしを包み込む。
 だけど、わたしの手を握るその手はちゃっかりそのまま。
 片手に両手がすっぽりおさめられちゃっている。
 この男は、本当にもう……。
 高瀬はきゅうとわたしを抱きしめて、そして耳元でふわっとささやく。
「この薔薇の屋敷で、一緒に暮らそう」
 瞬間、がばっと顔を上げ、ぎょっと高瀬を凝視してしまった。
 本当? 本気?と、思いっきり疑いをこめて。
 だって、それってつまり……。
 高瀬はそんなわたしの視線にもひるんだ様子はみじんもなく、むしろ自信たっぷりににっこり微笑む。
 それが、答え。
 つまりは、肯定。
 高瀬は……本気。
 だからわたしも、高瀬のその自信たっぷりの微笑みに答えるように、そっとその胸に再び顔を触れさせる。
 そこで、小さく、本当に小さく、こくっと首を傾けた。
 体が勝手に動いていた。
 その瞬間、高瀬はわたしをぎゅむっと抱きしめたまま、がばっと起き上がる。
 そして、くるりとひっくり返されるわたしの体。
 今度は、その位置が逆転し、わたしが高瀬の体の下。
 わたしよりもひとまわり大きな影が、わたしをすっぽり覆う。
 熱く見つめるその視線とともに。
 それから、当然のように降って来た。
 高瀬のキス――。
 愛しそうにささやかれる。
「覚悟しろよ、絶対に逃がさないから」
 そんな言葉。
 俺様で極悪な言葉だけれど、その響きは妙に心地いい。
 また、きゅうとわたしの胸をしめつける。
 こうして、高瀬の腕の中、将来を誓い合った。
 半ば強引に誓わされた。キスとともに。
 だって高瀬、この後、いつものように気がすむまで、わたしを堪能しはじめたのだもの。
 本当に幸せそうに微笑みながら。
 信じられない。奇跡が起こったと。
 奇跡……。
 そうなの?
 わたしが高瀬の言葉に従うことは、……奇跡なの?
 というか、まったく。相変わらずの、インチキ極エロペテン師が!


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update:04/07/12