お気にめすままに
(1)

 二学期に入り、約一ヶ月。
 季節は秋。
 新学期早々、教官室での高瀬とのキスをスクープされ、スキャンダルになってから少したった。
 一応ね?という一週間の謹慎を終え、再び学校へでてきたら……。
 びっくり。
 なんともあっさりと、高瀬との仲は学校中の公認になっていた。
 それは絶対、このペテン師が裏で口止めならぬ口封じをしたからだろう。
 そんなことが容易に想像できてしまうから、このペテン師は恐ろしい。
 まったく、なんて奴なのだろう。
 まさか、こんな奴と公認の仲にされてしまうなんて……。
 大・迷・惑。
 人生最大の不覚。
 そうはいっても、季節は秋。
 秋といえば、何故だか人の気分をしんみりさせちゃう季節。
 ……のはずなのだけれど、お気楽極楽連中ばかりが集まったうちの学校では、そんなものは一切ない。
 相も変わらず、お気楽極楽。
 うきうきるんるんと、学校中に花が舞っているよう。
 あの年中春女も真っ青の、春真っ盛り。
 まったく……。
 少しくらいは、季節感というものを感じることはないのか、ここの連中は。
 まあ、理事長からしてペテン師だから、仕方がないのかもしれないけれど。
 そして、そんな学校のいちばんの人気教師はインチキ。
 奴のインチキ菌におかされ、学校中がうかれているのかもしれない。
 本当、たちが悪いインチキ菌。
 そして、秋といえば、やっぱりこれ。
 学校行事。
 その中でも、二大行事はこれでしょう。
 体育祭と文化祭。
 とりわけ、文化祭!
 これはもう、学校あげての大盛り上がり。お祭り騒ぎ。
 これ、やっぱり常識でしょう?
 普通でもお祭り気分だというのに、ここの連中ときたらお気楽極楽だから、その十倍くらいはうかれているかもしれない。
 見てよ。そこら中、うかれ舞う人々。
 今にも地面から足がはなれ、ふわふわ宙を舞いそうな勢いよ、これ。
 というか、背中に羽がはえている?
 そんな中でも、いちばん大はしゃぎ、率先してうかれまくっているのは、やはりこの男、高瀬昂弥、二十六歳。ペテン師。
 この度、見事、ペテンにかけられ婚約してしまった男。
 まだ十七といううら若い身で、人生を台無しにされてしまった。
 何かがおかしい……。
「楓ー花。文化祭は、一緒に過ごそうな?」
 当たり前のようにわたしにまとわりついてくる、害虫男一匹。
 というか、ここ、学校!
「ふざけるな。わたしはいろいろ忙しいの。暇なあなたと一緒にしないで」
 ぐにいと、高瀬の頬にはり手。
 ぐいぐいと、高瀬を引きはなす。
 しかし、そう簡単にははなれてくれないのが、このインチキペテン師。
 引きはなそうとすればするほど、執拗にまとわりついてくる。
 スクープされ、スキャンダルになり、それからというもの、高瀬は人の目なんてかまわず、ごろごろ猫さん。
 まったく、この男の神経、鎖なんじゃないの?
 すでに生徒のみなさんの注目の的となっているにもかかわらず、高瀬はごろごろごろごろ。
 高瀬がいくところ、必ず南川楓花ありと、そんな不名誉な言葉が飛びかう。
 というか、だから、待て。このくされ教師。
「ん? 忙しい? どうして? 楓花の仕事、全部バトンタッチしたのに?」
「はーいー!?」
 高瀬はぎゅむっとわたしを抱きしめ、首をかしげてそう言ってきた。
 当然、瞬間、わたしはぎょっと高瀬を見つめていた。
 だって、バトンタッチって、何それ!
 聞いていないわよ!?
 わたしには頼まれていた委員の仕事が二つや三つや四つ……。いやいや、下手をすれば、それ以上かけもちしていたかもしれないのに?
 なんで? どうして?
 バトンタッチって、どういうこと!?
 目を見開き、ぽかんと見つめるわたしに、高瀬はにやーりといつもの意地が悪い笑みを向けてくる。
「そんなことをしていたら、俺と一緒にいる時間が減るだろう? だから、楓花はクラスの出し物だけしていればいいの。そうしたら、ずっと一緒にいられるだろう」
 高瀬は当たり前のようにそう言ってくる。
 もちろん、ひょいっとわたしを抱き上げ、お姫様だっこ。
 さらには、颯爽とさらっていく。
 だから待て、このいかれ教師!
 いやいや、その前に、わたしは別にあなたと一緒にいたいとは思わないのだけれど? 学校でまで。
 もちろん、そんな高瀬とわたしは、相変わらず好奇の眼差しの中心にいる。
 最初はクラスの連中だけだったのに、気づけばまわりのクラスからもわらわらと野次馬の山。
 いや、だから待とうよ、みなさん。
 これ、絶対に何かが間違っていると思うのだけれど?
「高瀬! 何よ、それ。そんなことができるわけないじゃない。それに、一体誰がかわりに……!?」
 高瀬の腕の中から両手でばちんとその両頬をはさみ、訝しげににらみつけてやる。
 すると高瀬はくいっと首をかしげた。
 それがまた、明らかにわざとだから殴ってやりたい。殴り飛ばしてやりたい。
 いや、むしろ、わたしに触れられ、喜んでいる節があるから、たちが悪すぎる。
「そんなの決まっているじゃないか。あそこのお嬢さんたちだよ」
 そう言って、高瀬はくいっとあごをしゃくった。
 変わらず、わたしをとらえるようにぎゅっと抱いて。
 高瀬が示したその先には、気まずそうにこちらを見ているお嬢さんたち。
 普段、キャピキャピと高瀬にまとわりつく。
 さらには、この間、教官棟裏へわたしを呼び出したお嬢さん。
 ――なるほど。妙に納得。
 というか、こんなに簡単に、山ほどある仕事をバトンタッチしちゃっていいの?
 そんなことは聞くだけ無駄ね。このペテン師相手では。
 はいはい、もう好きにして。
 それに、仕事がなくなったというのは、ある意味、わたしにはラッキーなことだし。
 楽ができる。
 ゆらゆらとゆれる高瀬のゆりかごの中、諦めたようにはあとため息をもらした。
 まったく、このペテン師は。
 本当、相変わらず、自分の欲望のまま、本能のままに行動する、俺様ライオンなのだから。
 ライオンならライオンらしく、サバンナへ帰りやがれ。
 そうしたら、わたしのまわりは平和になる。


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update:04/08/01