お気にめすままに
(2)

 やってきました、文化祭当日。
 土日の二日間を使って、大騒ぎなお祭り。
 文化とは名ばかりで、していることはめちゃくちゃ。
 どうして高校の文化祭に、女装や男装をした人が接客する喫茶店――とは名ばかりで、いわゆるホストクラブのようなもの?――があるの!?
 おまけに、一体いつの時代だよと思わせる、ねるとんやら……。
 なーんか、妙に色ものが多いような気がするのは、わたしだけ?
 まったく、信じられない。
 文化の祭典ならそれらしく、もっと格調高くいって欲しいものだわ。
 じゃないと、わたしが危ない。
 この妙にピンク色な雰囲気に惑わされたペテン師が一匹、よからぬ妄想にとらわれないとも限らないから。
 そうね、ここはやっぱり、あのペテン師に見つからないうちに、どこか人気がないところに隠れるが勝ち、かもしれない。


 一日目は、見事成功。
 思いっきり不機嫌オーラをかもしだした高瀬が、まわりの健全なのだか不健全なのだかわからない男子生徒たちに八つ当たりながら、校内中を歩きまわっていたという。
 もちろん、見あたらないわたしを探して。
 その頃、わたしは理事長室でのほほんとお茶をしていたのだけれど。
 理事長が淹れてくれた玉露が、これまた絶品だったのよね。
 一緒に出されたお茶うけの羊羹もおいしかったことを、よーく覚えている。
 わいわいと楽しそうな声が聞こえてくるその理事長室で、何故だか理事長と会話にはなをさかせていた。
 ちょうど一日目が終わりを迎えた夕方頃、ふと何かに思い当たったのだろうか、インチキペテン師が血相を変えて理事長室に飛び込んできた。
 瞬間、わたしはライオンに捕獲されていた。
 よって、二日目の今日の避難場所は、当然のことながら理事長室は無理。
 見つかっちゃったからね。
 今日はどこに隠れようかなー?
 そうして、こそこそと、うちのクラスの催しをしている教室から抜け出そうとした時だった。
「楓花ちゃん? どこへ行くの?」
 クラスメイトに呼び止められてしまった。
 たらーりと一筋の冷や汗を流しながら振り向くと、そこには何故だかメイド服姿の女子生徒。
 ……待て。
 何、その格好。
 わたし、聞いていないわよ?
 というか、何をしたいの? それで。
 いやーな予感が、そこはかとなく漂ってくる。
「う……。あの……ちょっと野暮用で……」
 あははと愛想笑いを浮かべ、そんな苦しい嘘をつく。
 しかし、そんなものは当然通用するはずがない。
「さぼりはだめよ。いくら高瀬先生と一緒にいたいからといっても」
 そして、ずるずると教室の中へ引きずり込まれる。
 理不尽きわまりなく、どうしても認めることのできない理由で。
 というか、思いっきり待て、そこ!
 それ、大間違い。間違いまくり!
 その逆で、わたしはまさしく今、高瀬から逃げようとしていたのよ。
 あんな奴につきまとわれるなんて、まっぴらごめんだから。
 一度捕まったが最後、わたしはまたしても、あのインチキライオンにおいしくいただかれてしまう。
 ……ちっ。
 一日目はどうにか切り抜けられたけれど、二日目はやっぱりだめだったようね。
 仕方がないわね。二日目くらいは、つき合ってあげるわ。
 さすがの高瀬でも、クラスの催しに参加しているとなれば、よからぬことはあまりしてこないでしょうから。
 ……限りなく、甘い考えのような気がしてならないけれど。
 ずるずると教室にひきずりこまれると、そこでは着替えをする女子生徒のみなさん。
 何故だか、みなさんメイド服。
 だから、待とうよ。思いっきり。
 これは、何事!?
 ぎょっと目を見開きその様子を見るわたしに、わたしをひきずりこんだ女子生徒さんが、ご丁寧にも説明してくれる。
 しかも、楽しそうににっこり笑って。
「楓花ちゃんは、ずっと高瀬先生に邪魔されていたから知らないだろうけれど……。うちのクラス、『アズ ユー ライク』つまりは、『ご主人さま(あなた)のお気にめすままに』という喫茶店をするのよ。女子はみんなメイド服で、男子はギャルソン姿」
 わたしの脳は、この時、地球を一億周くらいしていたかもしれない。
 あ、あり得ない。
「はあ!?」
 次の瞬間には、思いっきり目を見開き、すっとんきょうな声を上げていた。
 そして、当然……。
「つかぬことをきくけれど、それってもちろん?」
 頭痛を覚えはじめた頭を抱え、どっと疲れたようにそう聞いてみる。
「うん、もちろん高瀬先生の趣味」
 当然のように、きっぱりとそう返ってきた。
 あ、あり得ない。
 あのくされ教師め。あのペテン師め。
 一体、どういう趣味をしているんだ、どういう趣味を!
 というか、何を企んでいる、あのいかれペテン師め!
 あの男、まだ性懲りもなく、こんなふざけたことを続けるの!?
 だって、言っていたじゃない。
 馬鹿なことばかりしていたのは、わたしの気をひきたいから、わたしに見て欲しいから。
 そう言っていたじゃない。
 だったら、わたしが手に入った今、こんなふざけたことは高瀬には必要ないでしょう?
 それなのに、どうしてまだ、こんないかれたことをたち悪く続けるの!?
 それって、もしかして、今以上に、わたしに見て欲しいとか、高瀬しか考えられなくしたいとか、そんなふざけまくったことを考えているとか!?
 あ、あり得る。あり得すぎる。
 だって相手は、あのインチキペテン師だもん。
 くらくらと目をまわすわたしは、クラスメイトの手によって、あっさりメイド姿にされていた。
 気づけば。
 なんとも見事な早業。
 そして、この裏に、とんでもない陰謀が隠されていそうな気がするのは、恐らくわたしだけじゃないと思う。


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update:04/08/08