お気にめすままに
(3)

 フリルふりふりのメイド服に身を包んだわたしは、クラスメイトの女子たちの手によって、ずるずると表に引っぱりだされてきた。
 そして、そこでいちばんはじめにわたしの目に飛び込んできたものは――。
 にこにこと満面の笑みを浮かべる高瀬の顔。
 じょ、冗談じゃない。
 ふざけるな。
 高瀬の姿を見た瞬間、ぐらりと体がよろけたような気がした。
 すると、そんなわたしに、気まずそうに耳打つ声。
「ごめん、楓花ちゃん……。先生に脅……頼まれちゃって……」
 おかげさまで、その言葉のおかげで、わたしは悟ってしまいました。
 ええ、悟ってしまいましたよ、すべて。
 一瞬にして。楽しいくらいに。この後、わたしの身に待ち受けているものを。
 高瀬の策略だというのだから、間違いないでしょう。
 にっこり嬉しそうに微笑み、高瀬がわたしに腕をのばしてくる。
 そして、当然のように抱き寄せられ、抱きしめられた。
 とんでもない言葉をそえて。
「楓花は、俺専属のメイド。ご主人さまの言うことは、よーくきくんだぞ?」
 あまく、わたしの耳元でささやく。
 そんなもの、わざわざ甘く、しかも耳元でささやかなくてもよろしい!
 このくされ教師!
 というか、誰がご主人さまだ、誰が。
 そして、嫌というほど納得。
 趣味ねえ、高瀬の趣味ねえ……。
 ぶん殴ってやる!
 そう思ったと同時に、ぎろっと高瀬をにらみつけてやった。
 すると、とてつもなく恐ろしいペテン師の微笑みで、こう告げてきた。
「その目は何? 反抗的だなあ。言うことをきかない悪い子には、おしおきするぞ?」
 そして、当然のように、ちゅっとわたしのおでこにちゅっ。
 あ、あり得ない。
 わたしは高瀬の腕の中、ぐったりとしていた。
 そう、あまりにもあきれすぎて、体中の力が全て抜けてしまい。
 当然、高瀬のちゅっと同時に、このお気楽極楽クラスの教室は、きゃあという黄色い悲鳴と、おおという野太い歓声に支配されていた。
 嗚呼……。もう、本当、信じられない。
 ねえ、何!? このドスケベペテン師は!
 ねえ、これが、まがりなりにも教師のすること!? しかも生徒の目の前で!
 そして、あなたたちも、そこで喜ぶんじゃないわよ、まったく……。
 なんて連中なのよ、この学校の連中みんな。
 信じられない!


「もう、高瀬。本当、信じられない。どうして、人前であんなことをするのよ!」
 メイド服のまま、高瀬を理事長室へひっぱりこみ、そう怒鳴っていた。
 メイド服を脱ぎ捨てる時間すらもおしい気がしたから、仕方なく。
 だって、すぐにでもあの場から去りたかったんだもの。
 まったく、とんでもないことをしでかしてくれたわね、高瀬!
 高瀬を連れ込んだそこには、もちろん理事長がいる。
 ソファーにふんぞり返り、どこかおもしろくなさそうに目をすわらせる高瀬を、わたしはにらみつけ見下ろしている。
 高瀬の前に仁王立ちになり。
「……じゃあ、人前でなければいいんだろう」
 非難めいた眼差しを向け、高瀬はおもむろにわたしを抱き寄せる。
 すると、いつものように、わたしは高瀬の胸へダイブ。
 甘い薔薇の香りただよう、ゆりかごのような高瀬の胸へ。
「というか、今でも十分、人前なのですけれど?」
 高瀬のおでこをべちっとたたき、ふんと鼻で笑うように言ってやる。
 すると高瀬は、妙に勝ち誇ったような顔で、にやりと微笑んだ。
「ああ……」
 そんなことをつぶやきながら。
 高瀬がつぶやいた瞬間、わたしの背後でがたんという音がした。
 それと同時に、こんな言葉まで降ってきた。
「はいはい、邪魔者は退散しますよ。まったくお前は、ここをどこだと思っている?」
 呆れたような面倒くさそうな理事長の声。
「理事長室だろ?」
 その声に、横柄で俺様な言葉を返す、今わたしをぎゅっと抱きしめるペテン師。
 理事長は一瞬絶句したように高瀬を見つめ、そして盛大にため息をもらす。
「ほどほどにしておけよ。お嬢さんにそのような格好までさせて。――まったく、お前の趣味は、よくわからん」
「楓花がかわいければ、何でもするんだよ、俺は」
 馬鹿にするように、いけしゃあしゃあと答える高瀬。
 そして、当たり前のようにわたしの唇を奪っていく。
 わたしはもう、ただただ呆れて、何も言えなかった。
 だってこのペテン師、本当にもう……。
 終わっている。
 高瀬の言葉に、理事長は頭痛を覚えたように頭をおさえながら、がちゃりと扉を開ける。
「ひとまわりして、生徒たちの様子でも見てこようかな……」
 理事長はそう独り言を言うようにつぶやき、理事長室を後にする。
 それは、明らかに高瀬へ向けて言われたものだとわかる。わかりすぎる。
 このペテン師、本当になんて男だ。
 理事長までも理事長室から追い出しちゃうなんて。
 信じられない。
 この男には、やっぱり、怖いものなどこの世にはないのかもしれない。
 もちろん、邪魔者が一人もいなくなったそこでは、高瀬は本当にしたい放題をはじめた。
 当然のことながら、得意げに俺様ペテン師の微笑みを浮かべて。
 理事長室の外からかすかに聞こえてくる、わいわいという楽しそうな声など耳に入らないと。
 そうして、高瀬は当たり前のようにわたしをソファーにしずめていく。
 ずっしりのしかかってくる、高瀬の体。
 高瀬から香る甘い甘い薔薇の香りが、わたしを酔わせる。
 熱く見つめてくる高瀬のその目が、わたしを惑わせる。
 今の今まで憤っていたはずなのに、そんなものはどうでもいいと、そのまますっと目を閉じた。
 そして、高瀬がやってくるのをそこで待つ。
 もちろん、間髪いれず、当たり前のように高瀬はやってきた。
 優しいキスをわたしに落とすために。
 まだ太陽は中天より東に位置しているというのに、高瀬のそれがわたしの唇にふわっと優しく触れ、それからはもういつものパターン。
 終わりを知らないとばかりに、高瀬はあまい時間をわたしに運んでくる。
 そして、気づけば、いつの間にか、わたしは高瀬の薔薇のゆりかごの中、眠りに落ちていた。
 やっぱり、高瀬の胸の中は心地よくて安心できて、いつの間にか眠ってしまう。
 この場所がなくなったら、わたしはもう眠ることができなくなってしまうかもしれない。
 それくらい、この場所はわたしの中で大きくなってしまっている。
 そんなわたしを見て、高瀬はふうと諦めたようにため息をもらし肩をすくめる。
 そして、ひょいっとその胸に抱き寄せくるりと体を返し、そのままぼすっとソファーにもたれかかった。
 わたしは、高瀬の胸の上で、すやすやと心地よい寝息を立てている。
 わたしのまぶたに、高瀬の優しいキスが落とされる。


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update:04/08/15