何よりもあたたかいもの
(3)

「わかった。とってやるよ」
「はい!?」
 少しの沈黙の後、高瀬はさらっとそんなことを言ってのけた。
 ちょっとお待ちよ、そこのお兄――ペテン師さん。
 簡単に言うけれどね、いくら高瀬だって、複数人対戦で一位になるなんてそんなこと、そう簡単にできるわけないじゃない。
 ここでは絶対に、あなたのこねも権力も財力も利用できないと思うのだけれど?
 この遊園地を、あなたの一族が経営しているとかなら話はまた別だけれど。
 わたしの記憶では、あなたのところは、こういうレジャー施設は持っていないはずでしょう?
 胡散臭げに高瀬に視線を送ると、そんなわたしの頭を、やっぱりくしゃりと優しくなでる。
 妙にあまく微笑んで。
 ……ずるい。
 普段、俺様ペテン師のくせに、時々そういう顔をしてみせるのは。
 珍しいだけに、優しくされると、ついつい抵抗できなくなっちゃうじゃない。
 本当に、このペテン師には、なんだかすべてを見透かされていそう。
 とことんおもしろくない。
「まかせろ」
 しかもそんなことを言って、高瀬はやっぱり鼻歌なんかを歌いながらゲームへ参加しに行く。
 対戦前だというのに、ゲームコーナーのお兄さんと、何だか楽しげに世間話なんかはじめちゃうし。
 あなた、一体何者!?
 ああ、はいはい。俺様インチキペテン師でしたね。
 おまけに、わたしに限り貪欲なライオン。
 仕方がないから、ここから高瀬の勇姿?を見ていてあげようじゃない。
 くれぐれも、いかさまだけはしないでよ。恥ずかしいから。
 せいぜい恥をかかないことね。
 というか、ワニさんたたきなら、別に高瀬にしてもらわなくても、わたしでもできるのに。
 むしろ、わたしがした方が確実のような気がする。
 だってわたし、このワニさんたたき十人対戦、無敗を誇るんだもの。
 きっと高瀬は、そんなことは知らないのだろうけれど。
 ううん、それとも、知っていて、あえて高瀬がわたしのために……とか考えているとか?
 あ、あり得る、この男なら。とことんあり得る。


 うわあー……。
 どうしましょう?
 これは、もしかしてもしかしなくても、「とってやる」発言はホンモノですか?
 さすがは、手が早い極悪ペテン師。
 みごとなハンマーさばき。
 一匹残らず、出てくるたびにヒット。
 しかも、何故だか冷静。余裕しゃくしゃく。
 高瀬の隣でゲームに参加しているお兄さんなんて、あたふた慌てているのに。
 そのすぐ後ろで、彼女さんらしいお姉さんが懸命に応援している。
 うーん。そういうのが、普通はカレカノな関係なのかな?
 わたしみたいに、何歩もはなれて、ぺろぺろソフトクリームをなめながら、高瀬の行動を傍観しているのは、言語道断というところ?
 まあ、わたしたちの場合、カレカノなんて関係じゃないけれどね。
 もっと別の……もっと、最悪な――。
 というか、近寄りたくないのよねえ。
 なんだかとっても余裕しゃくしゃくで、ワニさんを打ちのめしていく高瀬に。
 ほーら、ギャラリーだって、なんだかひきつった顔をしているじゃない。
 たかだかゲームだといっても、もうちょっと真剣にして欲しいものだわ。
 この男、絶対なめている。
 ワニさんたたきをなめているとかそんなかわいいものじゃなくて、対戦者のみなさんを。
 あー、いやー。
 どうして、よりにもよって、こんな男が――。
「きゃあ! 高瀬、やった! わんちゃんゲット!」
 ああ、自分が憎い。
 あれだけ雑言をあびせていたはずなのに、こうして目の前にもこもこわんちゃんをもってこられると、思わずぎゅむっと抱きしめちゃうじゃない。
 両手いっぱい使わないと、抱えきれないくらい大きなわんちゃん。
 きゅむっと顔をおしつけると、ふわふわな毛があたってくすぐったい。
 わんちゃんと戯れるわたしを、高瀬は妙に優しい目で見てくる。
 だけど、その顔はすぐにおかしな方向へいっちゃうのが、このペテン師だけれど。
「楓花、かわいい!」
 などとうかれ模様で、高瀬はぎゅむうとわたしを抱きしめてきた。
 しかも、わんちゃんごと。
 わたしと高瀬の間にあるわんちゃんを少し邪魔そうにしながら、すりすり頬ずりしてくる。
 うーん。ごろごろ猫さん、ご健在?
 というか、こんなところで、そんな恥ずかしいことしないでよね。
 高瀬のばかっ!


 わたしの顔のすぐ横で、まっ白いけむくじゃらが、もふもふもわもわゆれている。
 結局、どうにも持つのが大変で、わんちゃんは今は高瀬におんぶされている。
 ……つまりは、高瀬にさらわれてしまった。
 高瀬の背中でゆれるわんちゃんに、ついつい目を奪われそうになってしまうのは、きっとこのわんちゃんがあまりにも愛らしいせい。
 だけど、油断は大敵。
 こうしてわんちゃんに気をとられていると、この横の男は絶対によからぬ行動にでてくるから。
 だから、ぴりぴりと気をはりめぐらせておかなければ。
 あーうー。それにしても、さわりたい。そのもこもこなわんちゃんに。
 思わず手をのばしそうになると、すかさずその手を高瀬に握り締められてしまった。
 しかもその顔、この時を待っていましたとばかりに、にやりと俺様ちっくに微笑んでいる。
 ……くっ。
 やっぱり、ばれていたのね。悔しい。
 そして、もしかしなくても、このためにわんちゃんを略奪したのね。
「楓花、こっち」
 そして、そんなことを言いながら、高瀬は当たり前のようにわたしをずるずるひっぱっていく。
 まったく、今度は一体、どこへ行こうというの? 何に乗ろうというの?
 んー。高瀬が好きそうなのといえば、コーヒーカップ? マイナス三〇度の世界?――いや、それはさすがにやめて欲しいけれど。ただでさえ寒いのだから――急流すべり? マジックカーペット?
 んー、あとはー……。
「メリーゴーラウンド!」
 これかっ。
 らんらんに目を輝かせ、高瀬は楽しそうにわたしを見つめてくる。
 高瀬、あんたって……乙女ねえ。
 なんて、しみじみしちゃったり。
 だって、こういうのって普通、女の子が……。
 あー、はいはい。
 そうでしたね、そうでした。
 この男の行動には、必ず下心なるものがついていたのですよね。
 ほーら、その目が生き生きといっているわよ?
 かぼちゃの馬車にのりたいと。
 だけど、その後もちゃーんと続くのでしょう?
 わたし、わかっているからね。
 かぼちゃの馬車の中で二人きりで、あなたは一体何をする気よ! な・に・を!
 その妙にうかれて目じりが下がった顔から察するに、どうせいかがわしいことでしょう?
 こんな誰の目があるとも知れない場所で。


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update:05/01/08