あきらめてあげる
(5)

 修学旅行、二日目。
 この日は、京都市内を自由観光。
 五、六人のグループに分かれて、それぞれ好きに散策する。
 わたしのグループには、何故だかいる、浦堂。
 そして、五、六人のグループのはずなのに、何故だか大所帯。
 どうして、二十人近くのグループができ上がっちゃっているかな?
 しかも、男子は浦堂だけって……?
 さらに、ここに、あの高瀬の姿が見えないというのも、不思議でならない。
 どうやらこれは、うちのクラスのキャピキャピ娘さんたちの陰謀のよう。
 高瀬からわたしを引きはなして、高瀬に意地悪をしちゃおうという魂胆らしい。
 高瀬がどれだけわたしを好きか、みんなはちゃんと心得ているよう。
 ここに男子は浦堂だけがいるのが、いかにも高瀬へのあてつけという感じがする。
 知らないわよ。後で、高瀬にどんな恐ろしいめにあわされても。
 わたしはかばってなんてあげないからね。
 かばったが最後、わたしも一緒に終わりだから。
 みんなとは違う終わり方だけれど。
 そんな楽しい状況を作り上げ、そしてそこで起こるであろう楽しいことを見逃してなるものかと、クラスの女子全員が、わたしと浦堂がいるこのグループで行動しようと企んでいるらしい。
 ……いや、もうすでに、実行に移しているけれど。
 はいはい、もう好きにして。
 本当に、あとで怒りに震える高瀬にどんなめにあわされても、わたしは知らないからね。
「楓花ちゃん!」
 もんもんと今回のこのことを考えていると、ふいに呼ばれた。
 慌てて振り返ると、ぐいっと腕をひかれる。
 テレビとかでよくみる、白川にかかる橋の上。
 いかにも京都という感じの、巽橋。
 そして、何故だか、わたしの横にいる浦堂。
 さらには、カシャっというシャッターを切る音。
 ……え?
「記念、記念」
 そう言って、にっこり微笑む、カメラを持つ娘さん。
 そのまわりには、「焼き増しして!」と群がる、その他大勢の娘さんたち。
 これは……一体?
 やっぱり、高瀬へのあてつけ?
「ごめん、浦堂くん。おかしなことに巻き込んで……」
 どっと肩を落としながら、横にいる浦堂をちらっと見る。
 すると浦堂は、やわらかな微笑みを浮かべ、「別にたいしたことじゃないからいいよ。それより、南川、大丈夫?」なんて優しい言葉をかけてきた。
 はあ、本当、さすがよね、浦堂。
 もてるわけだわー。
 あらためて、納得。
 だけど、どうしてそんなに、わたしと浦堂のツーショット写真を欲しがるのだろう? この娘さんたちは。
 そこが、果てしなく不思議。
 橋の上から、ちらっと下を流れる白川に視線を落とす。
 そこには、さらさらと、清らかな水の流れ。
 せせらぎの音に耳を澄ませると――本当はそんなことは無理なのだけれどね。すぐ横に、情緒なんてそっちのけで騒ぐ、娘さんたちの群れがあるから――すうと、心が寒くなったような気がする。
 胸が淋しさを覚える。
 ……高瀬。
 どうしてあの男、今日に限って、わたしの横にいないの?
 そして、我が物顔でわたしを抱きしめないの?
 高瀬と一緒にまわれる……ううん、まわらされると思っていたのに。
 それでもって、その見返りに、おねだりしまくろうと思っていたのに。
 そういう時だけ、役に立ちそうな気がするから。あの男でも。
 だってあの男は、理事長の孫という、そんなサラブレッドな金持ち男だから。
 ちょっとやそっとのおねだりで、悲鳴を上げるような奴じゃないでしょう?
 むしろ、喜んじゃいそう。
 これまでの突飛な行動から想像して。
 普段のためにためこんだうっぷん、ここぞとばかりに晴らさせてもらおうと思っていたのに、どうして、あのペテン師はここにいないの?
 それに、今撮られた写真だって、本当は浦堂とじゃなくて――。
 ちょっと待ってよ、わたし!
 さっきから、何を血迷ったことばかり考えているのよ。
 たしかに、高瀬におねだりができなくなったことはイタイけれど。
 だからといって、高瀬と一緒というのも、この上なくまずいじゃない。
 いろんな意味で。
 だったら、今のようにぎゃあぎゃあ騒ぎながらまわる方が、はるかにましというものじゃない?
 うん、絶対にそう。そうに違いない。
 よしっ。
 ここは、気をひきしめて、たーんと楽しませていただくわよ。
 京都のおいしいもの、食べつくすわよ!
 そうして、情緒あふれる京都の町を、ぎゃあぎゃあとうるさい修学旅行の集団が歩いていく。
 これはきっと……ううん、絶対、地元の人にも他の観光客にも、とてつもない迷惑になっているに違いない。
 夕方、宿へ帰ったら、苦情が殺到している、なんてそんな愉快な結末は、どうかありませんように。
 それからしばらく歩き、花見小路にさしかかった頃だった。
 我よ我よとわたしと手をつなぎたがる娘さんたちの群れの向こうに、あるものを目にした。目にしてしまった。
「高瀬……」
 そのあるものを目にしたわたしは、思わずそうつぶやいていた。
 瞬間、あれだけうるさかった娘さんたちが、水を打ったようにぴたっと静かになる。
 そして、一斉にわたしの視線の先に注目する。
 ずうっとずうっと向こう、四条通の方から歩いてくる高瀬。
 たった一人で。
 鼻歌なんかを歌いながら。
 とても嬉しそうに、楽しそうに。
 ……どうして?
 わたしと一緒じゃないのに、どうしてそんなに嬉しそうなの!?
 なんか……むかつく。


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update:05/02/20